第七話 メアリー・スー
明けましておめでとうございます。
昨年は読者の皆さんのおかげで書籍化が実現し、私にとって忘れることの出来ない1年になりました。
今年はコミカライズを目指して活動していこうと思います。
今年も何卒よろしくお願いいたします。
「地球連邦宇宙軍銀河中心核侵攻艦隊第45ミョルニル部隊メアリー・スー准尉、入室いたします!」
背筋を伸ばし見事な敬礼で入室してきたのは、18歳のかわいらしい女性士官だ。士官学校を出て准尉に任官されたばかりらしい。金髪の髪を短めのボブカットに切りそろえている。
「地球連邦宇宙軍提督高城だ。よく来てくれた。まあ掛けたまえ。飲み物は何がいい?」
「はっ!ではコークをお願いします!」
“あ、やっぱりアメリカ人だ”
「スーパーサイズ、、かな?」
「はい、スーパーサイズでお願いします」
――――
高城がソファーに腰を下ろすと、テーブルを挟んだ向かいにメアリー・スー准尉も腰を下ろした。
そして、ヴィーシャが冷蔵庫から2リッター入りのコークを出して、どこかからもって来たビールジョッキになみなみと注ぐ。
「さてスー准尉。ここに来てもらったのは他でもない。気づいているだろうが、きみの中にはアンドラスが居るね?そのことについて少し話を聞きたいんだ」
高城はスー准尉の目をまっすぐに見て、単刀直入に問いかけた。出来るだけ威圧的にならないように注意をしたつもりだったが、スー准尉の表情はこわばったままだ。
少し間を置きスー准尉が気持ちを落ち着けて、何か言葉を紡ぎ出そうとした瞬間、
「リリエル、久しぶりねぇ。100年前、あんなに会いたいって熱望したのに避けるなんて、ひどすぎるわぁ。私のこと、嫌いになっちゃったのぉ?ううううぅぅ・・・」
アンドラスがリリエルに話しかけてきた。アンドラスの声は、ヴィーシャにもスー准尉にも聞こえているようだ。
「泣きマネしたってだめよ。あなたと私は敵同士。無用な情報を悪魔に与えるわけにはいかないわ。そんな事より、何を考えて近づいてきたの?アルマゲドンが始まって力を顕現できたらこいつ(高城)を殺すつもり?でも、今気づかれたんじゃそれも無駄な努力だったわね」
「えっ!?そんな、リリエル様、アンドラスが高城提督を殺そうとしているなんて、誤解です!それに敵同士なんて!アルマゲドンでは、アンドラスは私と一緒に戦ってくれるって言いました!人間のために悪魔の力を貸してくれるって」
そのメアリーの言葉に高城もヴィーシャも目を丸くしてしまった。高城の中のリリエルも呆然としている。悪魔が人間の味方?
「そうよぉ、リリエル。私ね、人間の味方になってあげることにしたのよぉ。どう?心強いでしょぉ?私の霊力はあなたより高いわぁ。地上に居て、直接人間の負のエネルギーに接していたのよ。あんなに濃密で正義感にあふれた憎悪の魂にね」
―――
「そうか。きみの高祖母はあのメアリー・スー・アメリカ大統領だったのか。きみの名前はスー大統領に肖ったんだね」
※メアリー・スー大統領 この世界での第35代アメリカ大統領
「はい。アンドラスは米日戦争が終わった頃に、高祖母に憑依したそうです。当時の高祖母は、日本と、その、、、、高城提督に対する憎悪に支配されていて、復讐を果たすために大統領になったとアンドラスから聞きました」
メアリー・スー大統領はアメリカ初の女性大統領として、アメリカが国際的な名誉ある地位を取り戻すために尽力した大統領だ。前大統領が進めていた日米安全保障条約交渉を停止し、その代わりにアメリカを常任理事国として認めさせて、世界連合を中心とした安全保障体制を強化した大統領としてアメリカでの評価が高い。
「高祖母は若い頃ニューヨークで看護師をしていました。そして、あの核攻撃で家族や婚約者を失って、それでも地獄のようなマンハッタンで被爆者の救助をしたそうです」
先代のメアリー・スーはその時の放射線障害でガンを発症し、手術を繰り返しながらも政治家としてキャリアを積んでアメリカ大統領に当選した。そして常任理事国入りを果たし、日本との和解も実現した。また大統領就任後からは、核兵器の廃絶を強く主張し核兵器禁止条約の締結に尽力した。しかし、この日本との和解や反核の姿勢は、それまでスー大統領が主張していた「強いアメリカ」「Noと言えるアメリカ」を反故にするものだと思い込んだ右翼が多く居たのだ。特に、英語圏最大のネット掲示板「さんちゃんねる」では、大統領を暗殺するべしといった過激な主張が横行するようになる。そしてそんな主張に触発された愛国青年によって、パレードの最中、射殺されてしまったのだ。
「そうなのよぉ。先代メアリーの純粋な憎悪は美しかったわぁ。あんなに美しく燃え上がっていた憎悪は初めて見たのよぉ。だからねぇ、いっぱいエネルギーを吸収できたの。でもねぇ、ある日その憎悪が突然消えちゃったのよねぇ」
「ちょっとアンドラス!そんな憎悪憎悪って言わないでよ!私まで悪者みたいじゃない」
「でもねぇ、本当に突然メアリーの心から憎悪がなくなっちゃったの。あれは、日本の小倉に行ったときの事よ。天皇のアテンドでね」
その時の様子は高城もよく覚えていた。スー大統領が国賓として招かれ、天皇との晩餐の翌日、小倉の平和記念館を訪れたときのことだ。
子供のころに小倉で被爆し両親と兄弟4人を失い、自身も左足切断、そして、顔と体の左半分に激しい火傷の痕を残している29歳の女性が、日本の被爆者代表としてスー大統領と会談をした。
核攻撃の応酬を行った国同士の、そしてお互い核兵器によって深い傷を負った者同士の会談は世界の注目を浴びた。その会談で、日本代表の女性は優しくスー大統領を抱きしめて英語で言ったのだ。
「あなたと、あなたの国民が受けた悲しみを私に分けてください」
その言葉を聞いたスー大統領は、何も言えずに泣き崩れてしまった。両手で顔を覆い子供のように号泣するスー大統領の姿が全世界に中継され、それを見た多くの人は思ったのだ。
『人はわかりあえる』と、
「あの瞬間に人が変わっちゃったのよねぇ。それまであんなに美しく燃えていた憎悪の炎が一瞬で消えちゃって、それ以降はみんなが知ってるとおりのスー大統領よ。核の再武装を目指してたのに核廃絶を訴えるようになって、日本とも完全和解でしょぉ。そりゃ跳ねっ返りに殺されちゃうわよねぇ」
スー大統領は何度か日本を訪問したが、高城は公式的には軍を退役していたので近くに寄ることも無かったのだ。高城自身、核兵器を使った負い目があったのかもしれない。その為、アンドラスに憑依されていることに気づかなかった。
「じゃあスー大統領が暗殺されたあとは、その子供に憑依したの?」
リリエルがアンドラスに質問をする。今現在メアリー・スーに憑依していると言うことは、代々のスー家に取り憑いていたのだろうか?
「いえ、違うわぁ。私たち悪魔は、憎悪や猜疑心の強い人間にしか憑依できないのよ。だからね、東南アジアの共産主義者とか中東の原理主義者を転々としていたんだけど、みんな活動を始めてすぐ殺されちゃうのよねぇ。やっぱり未来からの人間が居るのってチートよねぇ。犯罪係数の高い人をマークしてて、活動を開始したとたんにズドンですもの」
高城は大虐殺や内乱を行う可能性の高い人物の情報を、世界連合に提供していた。ただし、何もしていないのに事前排除をする事は厳しく戒めている。
「じゃあ何?そこのメアリーは人間に対して憎悪を持っているってこと?それなら看過できないわね」
「あ、え、リリエル様!わ、わたし、人間に憎悪なんて、、、、あんまりです、、、」
泣き出してしまった。
「リリエル様!ひどすぎます!こんなかわいいメアリーが人間に憎悪だなんて!」
ヴィーシャがメアリーの味方になってしまった。しかもスー准尉じゃなくてファーストネーム呼びだし。もしかして、これが悪魔の力なのか?しかし、俺を睨みつけるのはやめて欲しい。
「じゃあどうやってこの娘に憑依したのよ!おかしいじゃない!」
「それはね、メアリーがエルフで、しかもものすごい霊力を持っていたからよ」
どうやら先代のメアリー・スーに憑依していたとき、アンドラスの霊的因子がその子に引き継がれたらしい。そして、今のメアリー・スーが遺伝子操作によってエルフとして誕生し、アンドラスの受け皿となったという。
「なるほどね。じゃあ、アンドラスの因子とエルフの因子が合わさったから憑依できたって事?エルフだったら誰にでも憑依できるわけじゃ無いのよね?」
「そうよぉリリエル。そんな簡単に憑依ができないのはあなたも知ってるでしょ?」
「憑依できた理由はわかったけど、じゃあどうして悪魔のあなたが人間の味方になるって言うのよ?おかしいじゃない!」
「あら、おかしくなんか無いわよぉ。悪魔が人間の敵だなんて誰が決めたの?悪魔も天使も人間から霊力をもらってる寄生虫みたいなものでしょぉ。それとも、天使は人間のこと家畜くらいに思っていたのかしらぁ?」
「な、何て事言うのよ!アンドラス!」
第7話を読んで頂いてありがとうございます。
土日祝は休載です。
完結に向けて頑張って執筆していきますので、「面白い!」「続きを読みたい!」と思って頂けたら、ブックマークや評価をして頂けるとうれしいです!
また、ご感想を頂けると、執筆の参考になります!
「テンポが遅い」「意味がよくわからない」「二番煎じ」とかの批判も大歓迎です!
歴史に詳しくない方でも、楽しんでいただけているのかちょっと不安です。その辺りの感想もいただけるとうれしいです!
モチベーションががあがると、寝る間も惜しんで執筆してしまいます。
これからも、よろしくお願いします!