第五十四話 神を殺す獣
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イラストはもちろん湖川友謙先生です!
帯のコメントは湖川先生と紫電改三四三などを執筆されております須本壮一先生の御両名から頂きました。
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それと、第二巻発売を記念して「大日本帝国宇宙軍 鉄血女帝アナスタシア」の連載を開始しました!
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神魔大戦編の21話で1911年に転生したアナスタシアがロシア革命を未然に防ぐまでの物語です。
こちらも是非ともお楽しみください!
金星軌道でミカエル達熾天使を葬った蒼龍とルシフェルは、最後の戦いに向けて超長距離ワープに入った。その姿は艦隊からの望遠レンズで光学的に捉えることも出来ていた。
「ロマノヴァ中尉、行ってしまったな。もっと話をする時間を取れれば良かったのだが」
スキーズブラズニルの艦内では、艦内の負傷者や行方不明者の救出が続けられている。その指示はモルガン(アナスタシア)が適切に出しているが、センサー自体が機能していないブロックもあるため人間による補佐を行っていた。
「マツナガ艦長。大丈夫です。高城提督は必ず勝利して戻ってこられます。それまでに、私たちは一人でも多くの人を救助しなければなりません」
「その通りだな。ん、メアリー准尉とアンドラスが帰還したようだな」
◇
ロキ二号機の脱出ポッドとともにアンドラスがスキーズブラズニルに戻ってきた。アンドラスは霊子力炉を失っているため“白百合の聖女”ではなく悪魔の姿に戻っている。
『ねぇ、メアリー。ルシフェル様やリリエルは行っちゃったけど、あなた、どうするの?』
アンドラスは脱出ポッドを両手で掴んで自分の顔の前に持ってくる。外からポッドの中の様子は見えないが、アンドラスの視線は確実にメアリーを捉えていた。
「どうするって言っても、どうしようも無いじゃない。今の私たちが行っても足手まといになるだけよ」
アンドラスは向こうの世界の自分と融合しているため熾天使ほどの力を発揮することはできるが、その力を持ってしてもあの七つの首を持つ竜と獣の手助けになるとは思えない。力の差は歴然だ。
『今のままじゃね。でも、もう一度霊子力炉を手に入れたらどうかしら?』
「でも、地球の霊子力炉じゃあれほどの力を出すことは出来ないんでしょ?」
地球艦隊にも霊子力炉はあるが、その能力はギゼの創ったオリジナルには及ばない。これは安全性を高めるためにあえてそう設計しているためだ。
『ルシフェル様達と一緒に最新の霊子力炉が転移して来てるじゃない。ねぇ、アナスタシア』
◇
高城蒼龍が連れてきた向こうの人類艦隊にも、アナスタシアと同じようなスーパー量子コンピューターが存在していた。
ヨーコ・スカーレット・アサギリ
それがスーパー量子コンピューターの名前だ。アナスタシアと同じように、実在した人間の魂が取り込まれている。7000年以上コンピューターと共に生き続け、向こうの人類を守護してきた。
そして、高城蒼龍の命令でアナスタシアと情報の統合を実行した。
『初めまして、ヨーコさん。私はアナスタシア。データの統合は完了しました。7000年以上、蒼龍のことを守ってくださってありがとう』
ヨーコからのデータによって、高城蒼龍が経験した8000年間の詳細を知ることが出来た。人口が増える過程での不和や争いから、高城蒼龍の何気ないプライベートな事まで。
“これは・・・ヴィーシャには言えないわね・・・。8000年の間何も無いなんてあり得ないとは思っていたけど、遺伝子の多様性を維持する為とは言え・・・”
『アナスタシアさん、お会いできて嬉しいわ。蒼龍の言ってたとおり、すてきな女性ね』
“知らない女が蒼龍のことをファーストネームで呼び捨てにしている。なんだか嫌な気分ね。コンピューターになってから嫉妬なんて忘れていたけど、あまり良い気がしないわ”
『アナスタシアさん、データを統合したからもう隠し事はしなくていいわよね?最初は“先生”って呼んでたんだけど、蒼龍が“蒼龍”で良いって。うふふ』
“蒼龍のヤツ、ヴィーシャの事を8000年間ずっと想ってくれていたのは間違いないのだろうけど、それにしても浮気相手を連れて帰ってくるなんて本当のクソ野郎ね。女の敵だわ。しかもこのヨーコって女、なにげにマウントを取ってくるし。そりゃ8000年のアドバンテージがあれば私より高性能なんでしょうけど。蒼龍が帰ってきたらすぐにアップデートしてもらわなきゃ”
『ところでヨーコさん。アンドラスの為に霊子力炉を一つ頂くことは出来ないかしら?この世界に残っている霊的存在はリリエルさんとルシフェルとアンドラス、そして“神”だけになってしまった。少しでも蒼龍をサポートできる戦力が欲しいの』
蒼龍はロキ二号機のオリジナル霊子力炉が限界に達する事を予測して、アンドラスが使える霊子力炉を用意していた。データの統合によってその情報をアナスタシアも確認していたが、最終判断はヨーコに委ねられていたのだ。
『ええ、もちろんよアナスタシアさん。あなたから頂いたデータを検証して、アンドラスさんならこの霊子力炉を使いこなせると判断しました。第一九世代星二一型連結大型霊子力炉です。これを制御するには熾天使ほどの力が必要ですが、今のアンドラスさんなら使いこなせるでしょう。それと、これは蒼龍にも伝えてはいないのですが、ある特別な機能を搭載しています。必ず役に立ちます』
◇
「あれが新しい霊子力炉ね」
向こうの世界から来た艦隊の中から、白色に輝く一隻の船が進み出てきた。大きさは5キロメートルほどで細長い涙滴型をしている。
『はい、メアリーさん。七つの大型霊子力炉が共鳴しながら動作します。これは第六文明人の創った霊子力炉を参考にしていますが、予期しない暴走の危険を完全に排除しています。もっとも、人為的に暴走させることは可能ですが』
『あなたが向こうの世界から来たスーパーコンピューター?』
『はい、アンドラスさん。ヨーコとお呼びください。この霊子力炉には私とアナスタシアさんのコピーをインストールしています。不測の事態にはきっとお役に立ちますよ』
『それは心強いわ。よろしくね。じゃあメアリー、あの霊子力炉を取り込むわよ』
アンドラスはメアリーを抱えて霊子力炉に近づく。そして右手を伸ばして船体に触った。
その瞬間、七つの霊子力炉は共鳴を開始し霊子力をアンドラスへ供給し始める。まばゆい光りに包まれそれは巨大化していった。
膨大な霊子は実質量へと変換されていく。そして光り輝く一匹の巨大な獣が現れた。
「あれは・・・オオカミ・・」
スキーズブラズニルの艦橋からもその光り輝く姿が確認できる。ヴィーシャを始め全ての艦橋要員はその美しい獣に目を奪われた。
それは月の半分くらいの大きさの、白銀色に輝く一匹のオオカミだった。
「あれは、フェンリル?」
それは北欧神話に出てくる巨大なオオカミ、フェンリルだと全ての人間が理解した。
『神を殺す七つの首の竜と獣、そして大神オーディンを食い殺すフェンリル。最後の戦いの役者が揃ったってわけね。じゃあ、蒼龍達を追いかけるわよ!』




