第四十七話 全力攻撃
天使達による月への攻撃を受けて、ドレーク参謀総長は交渉が失敗したことを悟った。アナスタシアからも交渉失敗の報が入る。
「交渉は失敗か。文字通り“天は我らを見放した”ということだな。全艦砲門開け!今こそ人類の力を見せつけてやるぞ!!!」
地球艦隊2万隻とダモクレスの剣はその全ての力を解放した。現在顕現している天使は約13万。天使の軍団の総数からすればほんの数パーセントだ。天使達は順次戦力を投入し、時間を掛けてアンドラスの消耗を待っている可能性がある。そうであるならば圧倒的な力を見せつけて、全ての天使を引っ張り出す必要がるのだ。
「出し惜しみは無しだ!!今顕現している天使どもを一瞬で葬り去るぞ!アンドラスの消耗を出来るだけ抑えるんだ!」
地球艦隊は天使達に向けて全火力を放出した。全てアナスタシアの火器管制の下、攻撃力を最大化できるように計算された攻撃だ。光の束が渦になって天使達に向かっていく。
◇
『ふん、愚かな。悪魔どもを斃すことが出来たのもアンドラスの力。ニンゲンごときの力で神の尖兵である我々に傷一つ付けられようはずが無い。私の真の力、見せてやろう!エンジェルハイパーメークアーーーップ!!』
力天使スィーリーンはその手に握った剣を天に掲げた。そして光り輝く無数の魔方陣が輝き始め、その魔方陣に権天使達が吸収されていく。
◇
「天使達は何をしているの?アンドラス」
「おそらくハイパー化ね。力天使以上の神格を持った天使は、配下の天使の力を吸収してハイパー化出来るの。スィーリーンの真の姿が現れるわ」
「じゃあ、ハイパー化が終わるまでに私たちで倒せるんじゃ無いの?」
「そうね。簡単に倒せると思うけど、出来るだけ力を温存したいの。それに、スィーリーンくらい地球艦隊で倒せないとこの戦い負けるわよ」
◇
スィーリーンに吸収された権天使達は光り輝き一つの形を成し始める。それは全高1000メートルほどもある一対の翼を持った天使の姿だ。身につけていた鎧は消えていて、ギリシャ神話に出てくるような白い布を纏っている。その体は豊かな胸に細い腰、そしてボリュームのある腰回りをしていて、左足の布がはだけていて美しい太ももを惜しげも無く披露していた。そして、その顔はヘレニズム芸術を代表する彫刻“ミロのヴィーナス”のように高貴な気品に溢れている。
『これが私の真の姿。この姿の私には、ウリエル様ですら傷を付けることは出来ぬ。その矮小で邪悪な力、打ち砕いてやろう!来るがいい、ニンゲン!!』
地球艦隊からの砲撃に対して、スィーリーンは防御結界を何重にも展開した。このアルマゲドンの最中は神との霊子チャネルが開いており無尽蔵に霊子力を使うことが出来る。もっとも使うためにはそれなりに高い神格が必要となるのだが、ハイパー化した力天使の自分であれば十分に使いこなせるはずだ。アザゼルやベルゼバブほどの悪魔でも今なら難なく倒せる。悪魔を倒すことが出来たのはアンドラスの力のおかげ。アンドラス無しに戦えないニンゲンの力がいかほどのものであろうか。スィーリーンは今この瞬間までそう思っていた。
『な、なに―――!!』
防御結界に衝突した地球艦隊からの巨大な光の渦は、そこに元々何も無かったかのごとく結界を瞬時に蒸発させ力天使にその力の全てをぶつけた。宇宙が光に包まれる。
銀の物理弾と陽電子に霊力を乗せた地球艦隊最大の攻撃だ。そのエネルギー量は恒星ですら破壊することが出来る。そのエネルギーを正面から受けたスィーリーンは一瞬にして永久霊子を蒸発させてしまったのだ。そして、本来ならその宙域に残るはずの霊子の残滓すら蒸発して消えてしまった。
◇
「恐ろしい攻撃ね。霊子の残滓すら残さない・・・。スィーリーンの魂は完全に現世との絆が絶たれてしまったわ。真の意味での完全な消失ね」
受肉しているとは言え、霊体であるアンドラスでも背筋に冷たいものを感じていた。永久霊子を砕かれたとしても、霊子は揺らぎとなって宇宙を漂う。そして、その霊子はいつかまた集まって霊体か人間のような高等生物の魂となり輪廻を繰り返す。しかし、今の攻撃を受けたスィーリーンの霊子はこの宇宙から完全に蒸発して消えてしまったのだ。輪廻の軛から解き放たれた完全な消失。霊体にとって通常ではありえない完全な死を意味するのだ。
「メアリー、注意して。一対一じゃ勝てないことが理解できたと思うから、おそらく全方位からの同時飽和攻撃を仕掛けてくるでしょうね。天使達の攻撃を一発でも通してしまったら、地球は甚大な被害を受けるわ。例え私の魂が消え去ったとしても、必ず人間を守る。覚悟は良くって?メアリー」
「もちろんよ、アンドラス。私たちだけが生き残っても、人類が滅んでしまったらどっちにしても生きてはいけないわ。必ず地球を守りましょう。それとアンドラス、間違っても自分だけが犠牲になろうなんて思わないでね。約束よ」




