第四十六話 天使降臨
「あれが・・・天使・・・」
悪魔達が先ほどまで存在していた宙域に、淡く光る“マリモ”の様な物体が数多く出現した。そしてその物体は悪魔の残滓である霊子ゆらぎを取り込み、輝きを増していく。
「ドレイク参謀総長。パンデモニウム攻略に当たったスキーズブラズニル艦隊は、どうやら高城提督がタイムスリップをする前に存在していた平行世界に転移していたようです。そこでルシフェルを撃退し、生き残った人類を地球ごとこちらの世界に連れてきたとの報告です。生存者はおよそ20億。救助艦を要請しています」
平行世界の地球と共に転移してきたスキーズブラズニルから、現時点までのあらましが報告された。転移によって太陽の反対側に現れたスキーズブラズニル艦隊はそこで損害等を確認した後、一部の艦を避難民救助に残しワープによって絶対防衛圏艦隊に合流した。
「高城提督とリリエル様がルシフェルと差し違えたというのか・・・。なんと言うことだ・・・」
ドレーク参謀総長は救助部隊と防衛艦の派遣を指示する。高城提督が命を賭して救った平行世界の人類だ。少しでも多くの人を救助しなければならない。
「モルガン、あの天使達は人類の敵で間違いないのか?」
地球圏のモルガン(アナスタシア)は帰ってきたスキーズブラズニル艦隊のモルガン(アナスタシア)とデータの統合を完了させた。そしてこれまでの情報を精査し結論を出す。
『はい、ドレーク参謀総長。99.99999999%の精度で敵であると判断します。ただ、話し合いの余地が完全に無くなっているわけではありません。アンドラスを人類側の使者として話し合いができるかどうか確認することを作戦第一候補とします』
平行世界の地球では、天使は確かに人類の“敵”では無かった。しかし悪魔との戦いにおいて人類の被害を顧みることも無かったので、実質“敵”認定してもかまわないとも思える。ただ、今までに無い要素として14枚の翼を持ったアンドラスの存在がある。
ルシフェルはアンドラスのことを“白百合の聖女”と言っていた。キリスト教において“白百合の聖女”とは“聖母マリア”のことだ。神の意思によって救世主を処女のまま身ごもり、人類に救済をもたらす存在。
”天使達が退いてくれれば良いのだけれど“
◇
「アンドラス、メアリー准尉、現在顕現しつつある天使は約13万。参謀本部からはあなたを特使として天使達との話し合いをさせるように指示がきているわ」
地球圏にワープアウトしたスキーズブラズニルの艦橋で、ヴィーシャが慌ただしく指示を発している。目をまっ赤に腫らしてはいるが声には力強さが戻っていて、人類を必ず勝利に導くという非常に強い意志が感じられた。
「こちらスー准尉。了解しました」
「わかったわ、ヴィーシャ。なんとか話をしてみる。それと、あなたが立ち直ってくれて良かったわ」
アンドラスは向こうの世界のアンドラスと融合を果たしてから、口調も性格も変わってしまったようだ。今までならメアリー以外の人間個人の心配などするはずがなかった。どうやら霊的な進化をしたことが原因のようだ。
「ありがとう、アンドラス。高城提督とリリエル様は必ずこっちの世界に帰還されるわ。それまでに人類が滅んでいたら、私、命令違反で軍法会議にかけられるかもしれないのよ。そんなのごめんだわ」
人類が滅んでしまっては軍法会議も無いだろうとも思うが、アンドラスもアナスタシアもそんな事を言うヴィーシャの事を愛らしく感じてしまう。泣いていても前に進むことは出来ない。とにかく、この危機を乗り越えなければならないのだ。
◇
顕現しはじめた13万の天使達の受肉が完了しつつあった。体高20メートルから40メートルほどの白く輝く天使達だ。それは宗教画に描かれた天使と同じように一対の翼を持っていて、白銀色に輝く鎧を身に纏い、手には片手剣と盾を持っている。
天使達と地球との軸線上には無人艦を配置し、強力な攻撃があった場合には霊子力炉を暴走させて防御結界を展開するようにしている。話し合いをする間もなく強力な攻撃をされたとしても地球を守れるはずだ。
「アナスタシア、顕現した天使は13万なの?総数からすると少なすぎるわ。それに、この天使達は権天使よ。上位の天使がいない」
『一体だけ霊力の高い天使がいますが、向こうの世界で観測したミカエル級の確認情報はありません。少なくともオールト雲付近までの範囲には存在しないようです。もっと遠くで顕現したか、あるいは顕現に時間差を設けているのか・・』
「とにかく話して見るわね。霊力の高い天使はおそらく力天使のスィーリーンね。でも、力天使じゃ熾天使の命令に従うしかないのだろうけど」
『お願いします、アンドラスさん。それと、出来るだけ急いでください。同期しているロキの霊子力炉の耐久限界まであと103分21秒です。大きな力を使えば最短40分で限界を迎えます。暴走したらあなたもメアリーも消失してしまうわ』
14枚の翼を持つアンドラスの霊力はロキの霊子力炉と間で常に循環している。その共鳴によってルシフェルですら圧倒する力を得ているが、その分霊子力炉に負担がかかっているのだ。
「あと40分・・・。最悪その間に数百万の天使を斃して神を封じなければいけないということね」
『はい、その通りです。でも、アンドラスさんならきっと大丈夫ですよ』
「人類が創った最高の叡智にそう言われると出来そうな気がしてきたわ。大丈夫、わたしが人類を守ってみせる」
アンドラスは翼をゆっくりと羽ばたかせて前に進み出る。そして13万の権天使達と対峙した。
◇
『アンドラスよ。穢れた心臓を持つ忌むべきイスカリオテの売女よ。恥知らずにも神を裏切りこの宇宙の法則へ刃を向けるか。宇宙開闢以来最も邪悪な存在になりはてたお前に神の裁きを下してやろう』
権天使達の後ろから、ひときわ霊力の高い天使が歩み出る。その声は力強く高い知性を感じさせる女性の声だ。そして体高は権天使達より二回りほど大きく、引き締まったしなやかな体に密着する精緻な装飾のある全身鎧を纏っていた。
「力天使スィーリーン、久しぶりね。あなたに又会うことができて嬉しいわ。でも、売女はひどいわね。あなたはナザレのメシアが言った言葉を知らないの?“罪なき者だけが石を投げなさい”ってね。それに、そんな事を言ってると好感度が下がるわよ」
『だからだよ。我々神の尖兵なら石を投げることができるのだ。それに智慧の実によって原罪を持ったニンゲンに影響され堕落したお前と語る言葉など無い。我が力の前に消え去れ。これが神を代行する力だ!』
力天使は両腕を大きく広げて魔方陣を展開した。そしてその魔方陣に13万の権天使から神霊力が集まってくる。
『我らが父よ(カーテルノステー)!!!』
力天使から発せられたエネルギーは周囲の空間を歪めながら突き進む。しかしその方向はアンドラスでも地球でも無かった。
「まさか、月を!?」
その膨大なエネルギーは月に向かって放たれた。月にも地球連邦軍の基地があるためある程度の防御は出来るようにしてある。しかしそれは基地の近くだけだ。地球のように全体を防御することは出来ない。そしてそれは瞬時に月の一部を抉って大爆発を起こした。
『その通りだ。月を破壊すればその無数の破片は地球を襲うだろう。そうなってしまえばもはや地球にニンゲンは住むことが出来ぬ。では第二射だ。我らが父よ(カーテルノステー)!!!』
アンドラスは転移によってその射線上に移動した。そして防御結界を展開する。今のアンドラスの力を持ってすればこの程度の攻撃を跳ね返すことは可能なのだが、その分どうしても霊子力炉に負担をかけてしまう。
「アナスタシア!交渉は無理!ごめんなさい!」




