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第四十話 滅びゆく世界(4)

 受肉したルシフェルは12枚の黒い翼を広げてリリエルとアンドラスを目指した。それに続いてアザゼル達大悪魔も迫ってきている。


 美しい黒髪に透き通るような青白い肌を持ったルシフェルは、そのシルバーの瞳でリリエルを射貫いていた。


「ルシフェル様の強烈な霊気を感じるわ。あっちの世界のルシフェル様の比じゃ無い。悲しみと憎悪に満ちた人間の魂を吸収して強くなってるのね」


 高城蒼龍の居なかったこちらの世界では、20世紀に2億人以上が戦争や失政で非業の死を遂げており、さらに今現在も多くの人間が殺されている。その魂を喰らって悪魔達は強化されているようだった。


「ああ、だが連中を斃さなければオレ達に未来は無い。やるぞ!リリエル!」


「ええ、蒼龍、まかせなさい!アンドラス!必殺技を出すわ!今度は左よ!ギャラクティカジェットアッパーファントムーーーーーー!!」


 リリエルとアンドラスはアナスタシアの演算支援の元、その霊力を最大化してルシフェルに向かった。二人の放つ黒い光とオレンジ色の光が螺旋のドリルとなって大西洋上を東に突進していく。


 ◇


『ルシフェル様!信じられない霊力です!こ、これは!?』


 ルシフェルと大悪魔達は、リリエルとアンドラスの攻撃を避けることが出来ないと判断し瞬時に防御魔法陣を展開した。大悪魔とルシフェルが全力で展開する魔方陣だ。それこそ神の一撃ですら防ぎきることが出来るだろう。


 そしてその二つの巨大な力はかつてエジプトのあった場所で激しくぶつかる。


 リリエルとアンドラスは左の拳に全霊力を集中し、ルシフェル達の下から上方へ突き上げた。そしてルシフェル達を光の渦が包み天空へ加速していく。


 二つの巨大な力の衝突は周りの大気をプラズマ化させ灼熱の地獄に変えた。大天使と大悪魔の戦いによって巨大なクレーターになっていた中東地域であったが、そのクレーターに流れ込んでいた海水は一瞬で蒸発し、地殻ですら強烈な熱量で沸騰しマグマの海と化す。


 ルシフェルはなんとか防御魔法陣によって耐えてはいるが、このままではいずれ突破されてしまう。それを補うため、金星から神霊力の補給を受けようとした。


『ばかな!金星が・・消滅しただと!?』


 地球艦隊はルシフェルへの神霊力供給を絶つため、衛星軌道上に残っていた艦隊によって金星に対し全力砲撃を加えていたのだ。


 あちらの世界と違って「ダモクレスの剣」が無いので、破壊するまでに数十回の攻撃を必要としたが金星を粉々にする事ができた。これでルシフェルの回復を防ぐことが出来るはずだ。


『こいつらは惑星すら破壊することができるのか!?』


 リリエルとアンドラスに下から突き上げられたルシフェル達は大気圏を離脱し、まっすぐに月に向かった。そして数分間加速を続け、その勢いのまま月面に激しく激突する。


 そのすさまじい衝撃によって抉られた月の表面には巨大なクレーターが生じ、さらに月の軌道も外側にずれてしまった。


 ルシフェルと大悪魔達は、展開した魔方陣によってなんとか致命傷を防ぐことができたが消耗も激しい。それでもゆっくりと立ち上がり、目の前の二体の悪魔を睨みつける。


「ルシフェル様!もう十分ではないですか!あの地球に人間は住むことは出来ません!私たちは生き残った人間を連れて元の世界に戻ります!だから、これ以上の戦いは無意味なんです!」


 アンドラスは必死にルシフェルを説得する。元の世界でもルシフェルの説得を試みたがそれは失敗に終わってしまった。神の箱庭を壊し、神を殺し、ルシフェルが自らの手で理想郷を作り上げるという決意は固かったのだ。


『アンドラス、リリエル、そうか、やはりお前達は“向こうの世界”から来たのか・・・・。なんと愚かな・・・。しかも・・・』


「私からもお願いします!私は元々はこの世界の天使です!向こうの世界で堕天してしまいましたが、それでも人間を救いたいのです!私の中にいる蒼龍は科学の力によって人類同士の戦争を永遠に消し去りました!人間は必ず霊的進化をする事ができます!」


 リリエルもルシフェルを説得する。アンドラスやリリエルにとってルシフェルは、やはり尊敬する特別な存在なのだろう。できればこれ以上戦わず、理解し合えることが望ましいのだ。


『そうか・・・、蒼龍の科学の力によってか・・・・』


 ルシフェルはフッと小さく笑みを浮かべて話を続ける。


『では何故こっちの世界に来たのだ。向こうの世界を救うことが出来たから、こっちの世界も救おうと思ったか?余計なことを・・・』


「いえ、まだ救えておりません。向こうのルシフェル様との戦いの途中に転移事故が起きたのです。私もリリエルもその転移事故に巻き込まれてしまいました。だから、すぐにでも向こうの世界に戻らなければならないのです。お願いです!私たちを見逃してください!」


『見逃せか・・。そうだな。見逃してやろう。お前達は元の世界に戻って戦いたいように戦えば良い。そのかわり、こちらの人間は全て置いていくのだ。それならば我々はお前達に何もしないでおいてやろう』


「え?でも・・・それは・・・」


『我々は神を殺さねばならない。その為には人間の苦しみに満ちた魂が必要なのだよ。彼らは理想郷、真のエデンを作るための崇高な犠牲になってもらわなければならないのだ』


 ルシフェルは抑揚も無く冷徹に言葉を紡いだ。神を殺し「真・創世」をする目的のための手順に過ぎないのだと。


「ふざけるな!!お前がどんな存在か知らないがそんな事が許されて良いはずはない!みんな、一生懸命生きてきたんだよ!それを、何が崇高な犠牲だ!」


 リリエル達のやりとりを黙って聞いていた高城蒼龍が我慢しきれずに叫んだ。大悪魔にとっては人間のごとき小さな存在なのかも知れない。しかし、それを黙って受け入れることなど到底出来ないのだ。


「オレはこっちの世界から転生した。2032年までこっちで生きて、大事な人たちもたくさんいたんだ。それなのに・・みんなが住んできた日本はほぼ絶望的なんだよ!オレの家族も、無二の親友だった飛鳥もお前が言う“崇高な犠牲”にされたんだ!オレは何があっても生き残ってる人たちを助ける!絶対にだ!」


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― 新着の感想 ―
更新お疲れ様です。 蒼龍達は、こちらの世界の金星も破壊したんですね! 確かに、ルシフェルへの力の供給を断つにはそれしかないですし、アナスタシアのシミュレーションが上手くいって地球ごと転移で元の世界に…
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