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第三十九話 滅びゆく世界(3)

「あれはいったい・・・」


 ホワイトハウスの地下シェルターで死の刻を待っていた大統領達は、ほとんど言葉を発することも出来ずに映し出される映像を見ていた。


 空を覆い尽くす雲を割って現れた巨大な船は、光線を放って悪魔達を次々に消滅させていく。核兵器の直撃ですら耐えて見せた中型から大型の悪魔も、その光線を受けて光の粒子に還元されていくのだ。そして15メートルほどの人型兵器は地上に取り残された人々を守りながら悪魔を撃退していく。


 さらに光の柱から現れた2体の美しい悪魔は、剣と斧をそれぞれふるって悪魔を粉砕している。世界最強のアメリカ軍を一蹴し、天使の軍団を滅ぼしたあの強大な悪魔達ですらこの2体の前には為す術が無かった。


「あれは、箱船・・・神が救いを遣わされたのか?」


 全長1000メートルを超える船が見えるだけで100隻以上空から降下してきたのだ。天使や悪魔の出現も十分に非科学的なのだが、そんな巨大な船が空に浮かぶことも十分非科学的に感じられる。それを見た者達は、みな神が遣わされた箱船では無いかと希望の光を見いだしていた。


 ◇


『お前は、アンドラスか?何故我々を裏切る?それに、お前は確か南アメリカ方面が担当だったはず』


『あなた、アスモデウスね。こっちの世界のアンドラスちゃんは裏切って無いんじゃないのぉ?まあ私には関係の無いことだけどねぇ。とりあえず、あなたはここで死になさい!』


 アンドラスはアスモデウスに対峙し両手を広げる。そしてその両手から白く輝く剣が現れた。


『冥土の土産に良い物を見せてあげるわ!って、あなた冥土の住人ね。ギゼの創った究極力きゅうきょくちからよ!』


 ロキの霊子力炉と完全に同期したアンドラスは、その膨大な霊子力を閃光の剣に変えてアスモデウスに振り下ろす。その輝きの前にアスモデウスは一瞬で霊子に還元されてしまった。


 ◇


『ルシフェル様、あの者達はいったい・・・』


 ルシフェルの傍らに控えているアザゼルやベルゼバブら大悪魔達は、突然宇宙から飛来した艦隊と二体の悪魔に困惑を隠せなかった。二体の悪魔はアンドラスとリリエルだということは霊子の波動からすぐにわかったが、アンドラスは南アメリカ方面で活動していてその波動も確認できている。リリエルに関しては、アルマゲドンが始まっても天使の中にその存在は確認できていなかったが、とはいえ堕天したという情報も無い。しかも、第一階級の悪魔を倒せるほど強くも無いはずだ。


『ルシフェル様、リリエルは12枚の羽根を持っております。その霊子力もルシフェル様に匹敵するものかと』


 アザゼルは現状で確認できている事をルシフェルに報告する。しかし、あまりにも解らないことが多すぎるのだ。


 この銀河に、地球人以外で宇宙に出ることの出来る知的生命体は現状存在していない。他の銀河については知らないが、あの船の中からは明らかに地球人と同じ霊子を感じることができる。つまりはこの地球人と同じ系統に属する知的生命体だということだ。いったいどこから現れたのか全く理解できなかった。


 混乱する大悪魔達をよそに、ルシフェルだけは黙してじっとリリエルの姿を目で追っていた。その視線は、受肉したリリエルの中にいる一人の男に向けられている。


『なぜ・・・お前がここに現れるのだ・・・』


 ◇


「イエローストーンは300キロの範囲で溶岩の海になっています!周囲の亜硫酸ガス濃度は致死量を遥かに超えています!」


 ※イエローストーン アメリカにある火山地帯


 地球連邦宇宙軍の艦隊は地球の各地に散らばって、悪魔達の撃退と生き残っている人々の救出を続けていた。しかし、そこから報告される地球の状況は眼を覆わんばかりのものだった。


 地球上にあるあらゆる火山という火山は噴火を始め、アフリカの大地溝帯は裂け目を開きマグマを噴出している。比較的被害が少ないのは火山の無いオーストラリアとアフリカ西部くらいだ。


 さらに、通常兵器の通用しない大悪魔達に対して、核保有国はありったけの核ミサイルを撃ち込んだのだ。その核爆発によって、大悪魔の降臨した南ヨーロッパやアラブ地域は人が住めないレベルで放射能に汚染されている。


 ~ もはや人の住める星では無い ~


 地球の各所から送られてくる情報を精査してアナスタシアが判断した結論だ。


 一度始まってしまった地球規模の火山活動は、おそらく数百万年は続くだろう。海は酸性になって海洋生物はほとんど死滅する。地上も亜硫酸ガスと粉塵に覆われてしまい、植物は枯れ高等な動物は死滅してしまう。辛うじて、シアノバクテリアの一部だけが生き残ることができるかもしれない。しかし、それは生命が誕生したばかりの40億年前の地球に戻ってしまうと言うことなのだ。


 核シェルターに避難している人たちの生存は確認できた。そして悪魔達はアフリカやアジアにはそれほど降臨していない。


『推定生存者は20億人。しかし、気流に乗って大気汚染が進めば、悪魔を撃退できたとしても120時間で人類は滅びてしまうわ・・・』


 ◇


「マツナガ艦長。主な地域で連絡が取れたのは、アメリカ、オーストラリア、ドイツ、イギリス、中国です。避難民保護の為、巡洋艦を派遣しました」


 連絡の取れた国家は、核戦争に備えて強固なシェルターを準備していた国家か、もしくは人口密度が低く悪魔達がそれほど襲撃しなかった国家ばかりだった。大天使と大悪魔の激突のあった中東から地中海地域は完全に壊滅し、生存者は絶望的だ。アフリカの南西部の被害は少ないようだが、国家体制が脆弱だったためか連絡が取れていない。


「この世界は地球で統一された政府が存在しないのか。しかも中国は共産主義地域だと?ちょっと信じがたいな」


 転移後に高城提督からこちらの世界の概要を聞いたが、21世紀になっても統一政府が存在せず各地域で軍隊を持ってにらみ合っているなど、マツナガ艦長達にとっては冗談としか思えなかったのだ。


「連絡の取れた地域を優先して救助する。とにかく生存者がどの程度いるのか把握だ」


 地球連邦軍艦隊は、連絡の取れた国家を優先して悪魔を排除し、政府機関へ巡洋艦を派遣した。そして情報の収集にあたる。


 ◇


 ホワイトハウス イーストウイング地下核シェルター

 PEOC(大統領危機管理センター)


「地球連邦宇宙軍巡洋艦レットビーク艦長のラクスミ・ドゥーイです。生存している政府関係者はレットビークに移乗して我々の指揮下に入ってください。そして北米地域の生存者保護をお願いします」


「合衆国大統領のジョナサン・F・アーチャーだ。君たちは未来人なのか?いったい何が起こっているんだ?」


 科学では説明できない天使や悪魔が現れたこの地球の住人にとって、現在の状況は解らないことだらけだった。悪魔達に滅ぼされようとしている地球に突如救世主として現れたのは、全長1000メートルを超える宇宙戦艦の大艦隊と美しい悪魔2体だ。大統領のアーチャーも悪い夢であって欲しいと心底願っていた。


「我々は別の歴史をたどった地球から来ました。未来人では無いのですが、まあ、そんなものです。北米地域にもかなりの生存者とアメリカ軍が残存しています。あなたは米軍の指揮をとって生存者の保護をしてください」


 ◇


 フランス パリ


「ひどい・・・」


 マリー・タチバナ中尉と犬神中尉の隊は生存者救出の為、パリに降下していた。フランス政府とは連絡が取れないのだが、パリの各所から携帯電話の発信が確認されていたのだ。


 そこで、タチバナ中尉と犬神中尉はこの世の地獄を目の当たりにする。


 エッフェル塔は既に倒壊しており凱旋門も半壊状態だ。美しかった町並みは見る影も無く、悪魔達に蹂躙されていた。流れの遅いセーヌ川は、犠牲になった人々で水面が埋め尽くされている。


 別の世界とは言っても、パリの名所や街の造りはタチバナ中尉が生まれ育ったパリとほとんど同じだった。その見覚えのある街がもう既に廃墟になってしまっている。そして、そこで暮らしていた人々の多くが死に絶えていた。


「クソ、悪魔どもめ!タチバナ中尉、手当たり次第駆除していくぞ!」


 ◇


「アナスタシア。オレ達はルシフェルと大悪魔の排除に向かう。生存者の救出を頼む。それと、元の世界に戻る方法を調べてくれ。向こうからこっちに転移したときのデータは全てモニターしてあるんだろ?その逆でなんとかなるんじゃないか?」


『蒼龍、簡単に言いますね。現在の推定生存者は20億人です。この人数は艦隊に収容できません。我々が元の世界に転移しながら彼らを救おうとすると、この地球ごと転移させる必要がありそうですね』


「それは名案だな。ちょうど金星が無くなってるからその代わりってのはどうだ?」


『冗談はやめてください。今シミュレーションを走らせていますが56兆回目も失敗です。戻れる確証はありませんよ』


「まあ、向こうにも2万隻近い艦隊が残っているはずだから、すぐにやられるようなことは無いよ。それに、キミならきっと最適解を導き出せる。信頼してるよ」


『はぁ、なんだか口説かれてるみたいですね。解りました。必ず戻る方法を見つけます。それとルシフェルと思われる霊体ですが、こっちの方に移動していますね。おそらく、リリエルさんとアンドラスに気付いたのでしょう』


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― 新着の感想 ―
更新お疲れ様です。 蒼龍達が転移した地球は、かなり酷い有様のようですね。 アルマゲドンの影響で地殻変動が起き、悪魔達へ核兵器をバカスカ打ち込んだもんだから、地表どころか大気中に放射性物質がばらまかれ…
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