第三十八話 滅びゆく世界(2)
ルシフェルとミカエルの決戦より30分ほど前
パンデモニウムの大型霊子力炉の周りに設置した小型霊子力炉が暴走を開始した。その霊子力は魔法陣の効果もあって大型霊子力炉の霊圧を限界以上に上昇させる。それと同時に、直上と直下からリリエルとアンドラスの強力な咆哮を浴びせて大型霊子力炉の崩壊を実現させたのだ。そこから放たれた霊子エネルギーは魔法陣を形成している艦隊によって封じ込まれ、パンデモニウムだけを別次元へ転移させるはずだった。
「アナスタシア、パンデモニウムの転移には成功したのか?」
パンデモニウムから放たれた光によって、ロキのモニターもホワイトアウトしている。なんとかスキーズブラズニルや魔法陣を形成した6666隻の艦とは霊子波通信を保ててはいるが、それ以外の情報が全く入ってこない。
『はい、蒼龍。パンデモニウムの転移には成功しました。おそらく天の川銀河の外側の領域に飛ばされていると思われます』
アナスタシアからの返答に、高城蒼龍は胸をなで下ろす。とりあえず、目の前の問題を片付けることは出来た。あとは、どこかにいるルシフェル達と天使を撃退できれば地球を守ることが出来るはず。
『ただ、パンデモニウムの霊子エネルギーが想定以上だったのと直前にアザゼルが妨害したため、その反動で我々も転移させられています。それほど遠くの宙域では無いと思うのですが・・・通常空間に現出するまでは解りません』
例え別の空間に飛ばされたとしても、銀河の中か近くであれば星の位置から座標がわかる。すぐに地球に戻れるだろう。それに、パンデモニウムの転移魔法陣に参加していない艦も2万隻近くある。ダモクレスの剣もあるので、自分たちが戻るまで持ちこたえることは可能なはずだ。
間もなくして、高城蒼龍達は通常空間に現出した。
「アナスタシア、座標はわかるか?」
『はい、現在位置は地球から90万キロの宙域です。パンデモニウムを転移させた場所から移動していません・・・いえ、ここは・・?』
「どうした?アナスタシア」
『金星が存在しています!それに、ダモクレスの剣も月面基地もありません!破壊されたのでは無く、全くその痕跡が無いので・・・・これは、蒼龍の前世の記憶にある地球の状況と一致しています。間違いありません。蒼龍の前世の地球で、いま地上では悪魔達が人類を襲っています!』
地球からは様々な電波が発信されていた。スキーズブラズニルの高性能アンテナによってその微弱な電波を全て拾い解析したところ、そこは高城蒼龍が芦原蒼龍として生きていた世界である事が解った。そして、アルマゲドンで天使は敗北し、悪魔達が一方的に人類を襲っていることも。
「そんな馬鹿な。そんな事があり得るのか?」
『蒼龍、今はそれを検証している場合ではありません。どうするかすぐに決断してください!』
「解った。現在艦隊にいる准将以上の将官に繋げ!作戦変更の決議を執る!」
地球連邦宇宙軍は人類を守る為の軍隊だ。しかしそれは国家の垣根を取り払い、地球連邦としてほぼ単一の政府を作り上げた、高城蒼龍にとって今世の人類のことだ。今目の前にいる人類は前世の人類であり、地球連邦政府が定義している地球人類では無い可能性がある。高城蒼龍は前世の人類であっても、守れる物なら守りたい。しかし、私情で軍隊を動かすわけにはいかないのだ。
「・・・と言う状況だ。何らかのトラブルで私の前世の地球に飛ばされてしまった」
決議を執っている最中も、艦隊は地球に向けて前進している。このままの速度なら到着まで20分ほどだ。
「高城提督。1901年から別の歴史を歩んだとはいえ、同じ地球人である事に違いは無いでしょう。私は彼らを見捨てることなど出来ませんよ。それに、元の宇宙に戻る方法を探すにしても、あの悪魔達は邪魔でしょう」
スキーズブラズニルのマツナガ艦長(准将)をはじめ、ここにいる全ての将官は今目の前で滅亡の危機にさらされている人類を見捨てることは出来ないと主張した。皆、そこに一切の迷いは無かった。
「ありがとう、みんな」
◇
「地上にいる悪魔に一斉射を加える!艦隊は大気圏に突入してミョルニル部隊を発進させろ!」
物理弾だと地球を破壊してしまう可能性があるため、艦隊は霊子波を載せた陽電子ビームを発射した。それは光の柱となって地上にいる大悪魔達に直撃する。そして、その光の中からリリエルとアンドラスが地上に降臨した。




