第三十四話 パンデモニウム攻略戦(2)
『蒼龍!先ずは城郭にある32基のガーゴイル像を破壊してください!これが先ほどの咆哮を放つ砲台になっています。霊子力の集中を観測しています。再度主砲を撃つつもりです!』
パンデモニウムの周囲に転移したロキとミョルニルのセンサー情報から、非常に細かいメッシュで霊子力の流れを感知するプログラムをアナスタシアは瞬時に構築した。ミョルニルのセンサーでは霊子力の流れまで観測することは出来ない。しかし、20万機以上のミョルニルが感知した霊子情報を総合し、その受信した強度や時間・位置を解析することによってパンデモニウム内の霊子の流れや構造を把握することに成功したのだ。
そして、パンデモニウムの主砲をもう一度撃たれたときのために、地球との射線上に無人艦500隻あまりを転移させた。先ほどの砲撃は地球の至近で防御したため、その軌道を少し変えただけでは地球を守ることが出来なかったのだ。しかし、地球からかなり遠くで防御できれば、少し軌道をずらすことで地球に命中することは無くなる。
コンピューターであるアナスタシアには、自分自身に危害が加えられる事への恐怖心は無い。もし、自分自身の記憶と自我やその器であるハードウェア全ての消滅に直面した場合はわからないが、その可能性は限りなく小さい。なぜなら、アナスタシアの本体であるハードウェアはこの艦隊に12基、地球に91基、移民先の星系に16基存在していて同期を取っているためだ。その全てを破壊しない限り、アナスタシアの記憶と自我が失われることは無い。しかし人類に対する、しかも兵士では無い一般市民に対する脅威に対しては強い恐怖を覚えてしまう。パンデモニウムから咆哮が放たれたとき、数秒間の内にアナスタシアは56億通りものシミュレーションを実行し、もっとも成功確率の高い方法を選択したのだ。地球を守る為に霊子力炉を暴走させられた艦の乗組員は、何が起こったか理解していなかっただろう。戦って戦死するのは仕方の無いことだ。しかし、アナスタシアは自らの手で愛する人間達をこれ以上殺したくはなかった。
◇
「まずはあのガーゴイル像を破壊する!次は右回りで破壊していくぞ!メアリーは左回りで破壊を頼む!」
「了解しました!」
「任せなさい!」
メアリーとアンドラスの返事が返ってくる。パンデモニウムの出現に恐怖していたアンドラスも、どうやら覚悟を決めたようだ。
「リリエル、オレ達も行くぞ!ガーゴイル像の正面には入るなよ。あのエネルギー量は危険だ」
「そうね、あんなのを喰らったらさすがに耐えられないわ」
高城蒼龍達とミョルニル部隊がパンデモニウムに近づくにつれて、建物の影に隠れている悪魔達の咆哮が激しくなってくる。こちらからも反撃をするのだが、パンデモニウムの直前で弾かれてしまう。
「悪魔達の咆哮が今までよりも強力になっていないか?リリエル」
「私もそれは感じていたわ。どうやらパンデモニウムから霊子力の供給を受けているみたいね」
ミョルニル部隊もなんとか防御魔法陣で耐えてはいるが、銀河中心核で戦ったときよりも明らかに苦戦しているのがわかる。
悪魔達の咆哮を防ぎながら、リリエルはガーゴイル像の一つにたどり着いた。全高500メートルほどの石像は、ヨーロッパの教会に設置されているものと酷似している。
リリエルはロキに装備されている武器であるジャイアントトマホークを取り出して、石像に叩きつける。なんどか振り下ろしてガーゴイル像の頭部を破壊することができた。
「ずいぶん固かったわね。次に行くわよ」
ちょうどアンドラスからも一体を破壊したとの連絡が入った。と、その時だった。
残り30基のガーゴイル像から咆哮が放たれたのだ。それは地球を狙ったものではなく、パンデモニウムに取り付こうとしているミョルニル部隊へ対しての攻撃だった。
地球を狙ったときほどのエネルギー量は無いが、それでもミョルニルの防御魔法陣では防ぎきることが出来ない。ガーゴイル像からの一斉射で数百のミョルニルが消失してしまった。
「なんだ!?ガーゴイル像が動いているのか!?」
ガーゴイル像はその首を動かしてミョルニル部隊に咆哮を放っていた。
◇
『悪魔達が活性化している。まるでバフがかかったようね』
※バフ ゲームなどでキャラクターの能力を一次的に向上させる効果や魔法
アナスタシアはミョルニル部隊から送られてくる情報を全て精査し、持てる能力全てを使ってパンデモニウムの解析に当たっていた。
そして気付く。パンデモニウムは内部に巨大な霊子力の塊もあるのだが、それ以外にも外部から霊子力の供給を受けている。その霊子力を供給している源は、
『金星・・・』
解析の結果、パンデモニウムの向こうに位置する金星から、大量の霊子力供給をうけているのだ。
『ドレーク参謀総長、金星から大量の霊子力がパンデモニウムに流れ込んでいます。艦隊の砲撃によって金星を破壊することを提案します』
※モルガンの正体がアナスタシアである事は、高城蒼龍とリリエルしか知らない




