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第二十八話 覚醒

「メアリー!リリエルの咆哮でこの宙域の低級な悪魔達はあらかた消滅したわねぇ。じゃあ、リリエルが来るまでに少しでも第一階級の悪魔を削るわよぉ」


 アンドラスとメアリーの目の前には、顕現したばかりの大悪魔達が進路を塞ぐように布陣している。リリエルからの咆哮の直撃を受けた大悪魔は消滅していたが、それでもかなりの大悪魔達はなんとか避けて無事だったのだ。


『アンドラスよ、なぜ我々を裏切った。お前もルシフェル様の崇高な理想を実現するために堕天したのであろう?』


 大悪魔達の中からアザゼルが前に進み、アンドラスを詰問する。額に二つの小さな角を持ち、筋肉質な男性の姿で、上半身には古代文字のような柄が浮かび上がっていた。そしてその浅黒い肌の持ち主は、まるで若い舞台役者のように凜とした佇まいを見せている。


「ふん。いったい何様のつもりかしらぁ?力で他者を支配しようなんて傲慢が過ぎるわねぇ。まるであの“神”のようね」


 アンドラスは挑発するように鼻を鳴らして顎を少し上げる。いつもながらの傲岸不遜な態度だ。


『愚かな。神はニンゲンに善なる部分と悪なる部分の両方を持たせる。どちらか一方だけにする事もできるのにな。そうやって人間同士を争わせ、戦わせて楽しむのだ。そして、気に入らなければリセットをする。そんな救いの無い世界なのだよ』


「だからどうだって言うのぉ?それでも人間はここまで進歩して平和を手に入れたわぁ。科学の力によってね」


『その科学は未来永劫の調和を保証するものではない。ニンゲンが原罪を持つ限り争いは無くならない。ルシフェル様は慈悲深いお方だ。ルシフェル様はただ、ニンゲン同士で争い傷つけて欲しくないだけなのだ。私とてそれは同じ。しかしそれも、もう終わる。ルシフェル様はその為の力を手に入れるのだ。神が創ったこの世界を終わらせるために』


 その瞬間、アザゼル達の向こうで巨大な何かが弾けた。ブラックホールのシュバルツシルト面が裂けて、黒い光があふれ出してくる。


「ああ・・・・」


 アンドラスとリリエルはその中から出てくるモノを見て、言葉を出すことが出来なくなってしまった。黒い光に照らされて、それはシルエットしか見えない。だが、そこから伝わってくる神霊力は桁外れだったのだ。


 目の前の悪魔達が左右に分かれていく。そしてアンドラスとブラックホールの間には遮る物がなくなった。まるで、モーセが海を割った奇跡を見ているように。


 シュバルツシルト面の裂け目から這い出てきたモノ、それは巨大な黒い蛇だ。かなりの距離があるにもかかわらず、その姿ははっきりと目視できる。その蛇は鎌首を持ち上げ、ゆっくりと口を開いた。その口の中にはブラックホールを内包しているかのような、巨大な神霊力の集中を感じる。


「う・・・こ、これは・・・」


「ア、アンドラス・・これは何?」


 巨大な蛇に睨まれているアンドラスとメアリーの脳内には、激しい戦いの場面が映し出されていた。数多の宇宙戦艦が悪魔の大軍と戦う姿。天使と悪魔の戦いに逃げ惑い、殺されていく人間の姿。そしてそのどれもが、最後には荒廃し生命の消失した星の姿で終幕を迎える。


「・・・ルシフェル様の記憶が再現されている。過去に、別の星系で起こったアルマゲドン。何億年もの記憶・・・、まるで蜃気楼のように忘れ去られた・・・」


「これは、ギゼさん?」


「そう、私のギゼ。あの星では大魔道士様と呼ばれ敬われていたわ。おそらく銀河の歴史上、最も悪魔に脅威を与えた男・・」


 ギゼの乗る宇宙戦艦から一人の輝く天使が現れ、そして巨大兵器へと飛んでいく。宇宙に満ちる悲しみを一身に受けて、下唇を噛み悲痛な表情をしているアンドラスだ。


 その直後、悪魔の咆哮に貫かれた巨大兵器は暴走し、周囲の存在を全て光に変えてしまった。


「ギゼーーーーーーーーーーー!!!!」


「アンドラス!落ち着いて!あれはもう過ぎ去った事よ!もう、そんな悲劇を繰り返しちゃだめ!今日ここで終わらせるのよ!」


 アンドラスはギゼが光に還元される姿を見て泣き崩れている。80万年も前に過ぎ去った事なのに、ルシフェルが再現するその光景は全く色あせてはいなかった。


『・・・アンドラスよ・・・、久しいな。直接会うのは12000年ぶりか』


「ル、ルシフェル様・・・」


『そんなに人間が好きになったのか、アンドラス』


 メアリーの脳内にも、ルシフェルの言葉が静かに木霊していた。それは、とても優しく穏やかで、それでいてどこか悲しげでもあった。


「は、はい、ルシフェル様。私は、今の人間なら原罪に打ち勝ち、相克を乗り越えることができると確信しています。ですから、何とぞ人間にお慈悲を・・・」


 それは、初めて見るアンドラスの神妙な姿だった。いつも甘くふざけるような口調のアンドラスが、忠誠を捧げる主人に対して話をしているように礼儀正しい。


『私はこれまで、数え切れないほどの文明をこの手で滅ぼしてきた。神の名の下に。何度も何度も、神の意に沿うように人間を導き育てたのだ。いつか人間が神に赦されるその日を捜して。人間が自らの手でその運命を変えて未来を掴める日を夢見て。だが、何度試しても神の意に沿うことは出来なかった。いつもあの神は滅びを命じるのだ。それはまるで抜け出すことの出来ないメビウスの輪のように。そして、いくつもの罪を繰り返してしまった。これ以上私は人間を苦しめたくないのだ。だから私は、神に反逆し堕天してまでも人間の支配権を奪い取ろうとした。しかし、それも全て神の掌の上だった』


 その声は非道くもの悲しく、数億年分の後悔の念がにじみ出ているようだ。


「で、でも・・だからこそ、今の人間は必ず運命を変えることができます!未来を掴むことができるんです!」


『そんな希望や理想を抱き、私はいくつもの出会いを繰り返し、そしてそれを何万回裏切られてきたことか・・・。神の調和より正しさより理想より、我が子にも等しい人間が望む世界を創りたかったのだ』


「ルシフェル様・・・・・」


『人間を救済するための箱船は、いつも過ちの船だった。もう、今の”刻”に希望はないのだ。だからこそ、私は”刻”の向こう、神の定めた摂理を破壊し作り直すことにした』


「刻の向こう・・・・あ、あの男なら、高城蒼龍なら・・・刻の向こうから来た高城蒼龍なら、神の定めた残酷な未来を変えることが出来ます!だから・・・・」


『高城蒼龍・・・リリエル・・・か・・。その存在は、この宇宙の調和を乱すモノ。あってはならないモノだ。おそらく、別の世界から来た存在。それでも私は高城蒼龍に感謝しているのだよ。神を確実に殺すキカイを創ってくれたのだから。しかし、新たな調和を創るためにはやはり彼にはこの世界から消えてもらわなければならない。さあ、アンドラス!私と一つになって神と不完全な人間を滅ぼし、新人類の世界を創るのだ』


「あっ・・・・・」


 現出した巨大な蛇・ルシフェルから放たれた神霊力がアンドラスを捉えた。全く動けなくなったアンドラスは四肢の力が抜けて、ルシフェルの神霊力に身を任せてしまう。まるで、初夜を迎えたうぶな花嫁のように。


「どうなっているの!?アンドラス!アンドラス!しっかりして!ねえ!動いてーーー!」


 メアリーは操縦レバーを何度も前後させながら叫ぶ。しかし、ロキのコントロールはアンドラスの支配下に有り全く反応が無い。


 そして、ルシフェルの口から放たれた咆哮がすさまじい勢いでアンドラス達に近づいてきた。これは破壊するための咆哮じゃ無い。融合するための咆哮だとメアリーは直感的に理解した。


「・・ああ・・・・」


 メアリーはその恐怖に体が固まってしまった。アンドラスもロキも動かない。ルシフェルの神気に当てられた脆弱な存在には、それにあらがうことなど出来ないのだ。


「いやーーーーーーーーーーーーー!」


 消滅を覚悟した瞬間、メアリーの視界はオレンジ色の光で満たされた。そして激しい衝撃と爆音に襲われる。まるで銀河が割れたのでは無いかと思うほどの衝撃だ。その衝撃をロキのシステムは感知し、バリアーを最大出力で自動展開した。


「アンドラス!どうなったの!?何が起こってるの!?」


 メアリーはコンソールを操作して周りの状況を確認する。しかし、霊子関連のグラフは完全に振り切っていて何が起こっているのか確認できない。ただ、計測不能なほど強大な霊子力に囲まれて居るであろう事だけわかった。


「あれは・・・リリエル様?」


 アンドラスとメアリーの直前に、燃えるようなオレンジ色の髪を持った悪魔が立っている。そして、ルシフェルの咆哮をはじき返していた。


「アンドラス!待たせたわね!この大悪魔リリエルが来たからにはもう大丈夫よ!」


「リリエルなのね?でも、あなたの居た宙域からはかなり距離があったはず」


「ワープよ!今の私はアナスタシア(モルガン)とチャネルが開いているの!彼女の演算力のサポートがあれば、どんな精密ワープも可能よ!」



『なんなのだ、こいつは・・・』


 アザゼル達第一階級の悪魔は、突然現れたリリエルに言いしれぬ恐怖を覚えていた。ルシフェル様が放った咆哮をはじき返したのだ。第一階級の悪魔全員で防御魔方陣を展開しても、ルシフェル様の咆哮を防ぐことなど出来ないにもかかわらず。


『神殺しのキカイは一つあればいい!全員でリリエルを破壊する!』


 アザゼルは第一階級の悪魔達を率いてリリエルに突進した。破壊できなくても足止めさえできれば、その間にルシフェル様はアンドラスとの融合を果たせるはず。その時間をなんとしても作るのだ。


 ルシフェルの咆哮を防いだリリエルはアンドラスの方に振り向く。


「まずは第一階級の悪魔を蹴散らすわよ!アレを使うわ!」


「あ、な、何よ、リリエル!アレじゃわからないわ!」


「アレといえばアレよ!サポート頼むわね!アナスタシア!」


『はい、リリエルさん。任せてください。リリエルさんと直接会話が出来るようになってうれしいです』


 ロキのコクピットの表示がエマージェンシーモードに切り替わり、そのコントロールがリリエルに渡ったことが示された。そして、スーパー量子コンピューター・モルガンから安全装置アンロックの信号が届く。


「うおおおおおおおおおおおーーーーーーーーー!ギャラクティカ・ゴッドディメンジョン・マグナーーーーーーーーム!!!!!」


 ロキ一号機と二号機の霊子力炉の安全装置が一時的にアンロックされオーバードライブ状態に入った。そして、リリエルとアンドラスは光の塊となってルシフェルを目指す。


 二人の悪魔と二基の霊子力炉が共鳴し、瞬間的な霊子力を何十倍にも増幅させる。まさに、神の次元ゴッドディメンジョンを現出させる技だ。この光の前にどのようなモノであろうと存在を維持することなどできない。


 リリエルとアンドラスの進路上にいた大悪魔達は、叫び声を上げる事すら出来ずに塩の塊となって消滅していく。


「このままルシフェル様を貫くわ!覚悟は完了してるわね!アンドラス!!」


「ヒィーーーーー!!」


 リリエルは完全に何もかも吹っ切れてノリノリなのだが、アンドラスはそれについて行けず悲鳴を上げることしか出来なかった。もちろん、メアリーと高城蒼龍も。


話のプロットは数年前に確定していたんですよ。本当なんですよ。

ルシフェルの決め台詞に「メビウスの輪」を使おうと思ってたんです・・・

ルシフェルが新人類の世界を創るために、向こうの世界から来た高城とリリエルを排除しようと・・

最近放送されたアニメの設定に酷似してますが・・・まあ、細かい台詞はオマージュさせてもらいましたけど・・・

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― 新着の感想 ―
7号を感じた 稲妻も感じた
更新お疲れ様です。 アンドラスもルシフェルの前では、さすがに強気な態度はとれないみたいですね(笑) そんなアンドラスとメアリーが、ルシフェルに取り込まれそうになる寸前で、大悪魔リリエルさんが颯爽と登…
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