第二十七話 大悪魔リリエル
『リリエル、聞こえるか?聞こえるだろう?我々の遙かなる轟きが。さあ、ボクの呼びかけに応えるんだ』
「・・・あな・・た・・は?」
『ボクだよ、リリエル。ボクの波動を覚えているだろう?12000年前、エデンを巡って戦った仲じゃないか』
「・・・ア・・ザゼル・・・」
『そうだよ。リリエル、ようこそ真理の世界へ!闇の中でキミの魂の目覚めが始まったんだよ。欺瞞に満ちた薄汚い神を拒絶し、本当の愛に目覚めたキミの堕天を、全ての悪魔が祝福しているんだ!大悪魔リリエル!』
「わたしが・・・大悪魔?」
『ああ、大悪魔リリエルだ。キミにはなぜかその矮小なニンゲンの魂が融合しているね。そしてニンゲンの作った邪悪なキカイとも融合をはじめている。神を殺すために作られたキカイと。今のキミの霊力は“契約の箱”を解放しても手に入れることが出来ないほど増大している。信じられないよ!何て素晴らしい闇なんだ!』
「リリエル!この声はアザゼルなのか?スターリンに憑依していたヤツなんだな?」
リリエルと魂が融合している高城蒼龍にも、このアザゼルの言葉が届いていた。
『矮小なニンゲンよ。少し黙っていてくれないかな?今はボクの可愛いリリエルと愛を語り合っているんだよ。空気の読めないヤツは嫌いだな。黙ってボクとリリエルの愛の証人になってくれ』
「くっ・・、リリエル、こんなやつの言葉に惑わされるな!今はメアリーとアンドラスに追いつくことだけを考えるんだ!」
『リリエル、キミの力はどんどん大きくなっているね。本当に素晴らしいよ!そのニンゲンの魂が触媒になっているのかもしれないね。今のキミの力はこの銀河さえ切り裂けるほどだ!さあ、その力でニンゲンを駆逐し、天使と神を滅ぼし銀河も消滅させるんだ!そして、その時こそ真の創世が始まるときだよ!ルシフェル様の力によって、新たな銀河を創り、新たな生命を創造するんだ!リリエル!キミは生命の始まりを見るんだ!』
「・・命の・・始まり・・・」
『リリエル、力に身を任せるんだ。根源からわき出てくる真の力に。そして力を解放し、真なる敵を砕き、咬みちぎり、滅するんだよ!何て素晴らしいんだ!全てを無に帰した後に新たな宇宙を創造するんだよ!そして、ルシフェル様が新たな神になって、永遠の調和と安息を手に入れるんだ!それが真創世なんだよ!』
「力に身を任せて・・・力を解放すればいいのね・・・」
「リリエル!だめだ!アザゼルの言葉を聞くんじゃ無い!」
『そうだよ、リリエル。力に身を委ねるんだ。キミの魂のやりたいことをすればいい。それは、神への反逆だよ!殺戮だよ!蹂躙だよ!あの自分勝手で薄汚い神が創った世界を滅ぼし、ボクたちで新たな真のエデンを創るんだ!』
「そうね、神を・・・殺すのね・・・。神の箱庭を壊して・・・神の使徒を滅ぼす・・・」
スキーズブラズニルを発進したロキ 一号機は、黒い光を放ちながら加速していた。そしてその黒い光は渦のようになってロキ一号機を包んでいく。
◇
「ロキ 一号機の霊圧および霊子質量が急激に上昇しています!こ、これは・・・顕現しつつある第一階級悪魔の総量を超えています!こんな・・・何が起こっているの・・・・」
スキーズブラズニル艦橋でロキ一号機をモニターしているヴィーシャが叫ぶ。リリエルの霊圧、いや、高城蒼龍とロキ一号機と融合したリリエルの霊圧はすさまじい勢いで上昇を続けている。
「これが・・・リリエル様とオリジナル霊子力炉の本当の力だというの?」
ロキ一号機を取り巻いていた黒い渦はだんだんと密度を増し、人の姿へと凝縮していく。そして、頭部を取り巻く黒い渦の中から、燃えるようなオレンジ色の髪が現れて光を放った。
『リリエル。なんて美しい受肉なんだ!ああ、こんなに美しい堕天は初めて見たよ!さあ!大悪魔リリエル!ボクの元へ来るんだ!そして一緒にこの宇宙を浄化しよう!』
アザゼルの言葉は、どこか恍惚としたような口調に変わっていた。リリエルの堕天と受肉に興奮しているのだ。
そして黒い渦は受肉したリリエルの中に吸収されて、堕天したリリエルの姿が現出する。
「あれが、リリエル様・・・・」
スキーズブラズニルのモニターにリリエルが受肉した姿が映し出されていた。背中からは複数の黒い翼が生えていて、翼によって顔も体も足も包まれている。それはまるで黒い蛹のような印象を見る者に与えていた。
そして、下の翼からだんだんと広がっていき、リリエルの姿が見えてくる。
白く輝く豊かな肢体にアラベスク柄の黒い衣装を纏っていた。そして顔を覆っている翼が開く。リリエルはゆっくりとそのまぶたを開いてブラックホールの方に視線を送った。その瞳は燃えるようなリリエルの髪と同じく、深いオレンジ色に光り輝いている。
『複数の翼を持つなんて!すばらしいよ!堕天して真の力を得て覚醒することが出来たんだね!ああ、なんてうらやましいんだ・・・。翼が・・12枚もある・・・。ルシフェル様と同じ翼を持っているなんて・・・。さあ、一緒に来るんだ!』
リリエルはその翼を大きく広げた。そして目を見開き口を開ける。次の瞬間、翼を羽ばたかせ悪魔の咆哮を放った。12枚の翼の先端にも魔方陣が輝き、そこから黒く禍々しい光が放たれる。それは周囲の時空を歪めながらロキ 二号機が展開する宙域へと突き進んでいった。
◇
「メアリー!後ろからものすごい咆哮が来るわ!衝撃に備えて!」
「どういうこと!?アンドラス!リリエル様が裏切ったの!?」
「大丈夫よ!私とリリエルはマブダチなのよ!」
「「キャアアアアァァァァーーーー」」
リリエルから放たれた咆哮はロキ二号機の横をかすめてブラックホールを目指した。至近を通過しただけなのにその衝撃波で空間が激しく歪み、それに巻き込まれた悪魔達が次々に爆散していく。
そしてその咆哮は、今まさに現出しつつある第一階級の悪魔達に直撃したのだ。
『リリエルーーーー!貴様ぁ!』
「私は魂が命じるままに生きるわ!私は私の愛だけを信じる!私が愛する人間と蒼龍の為にだけに戦うの!もうどうなってもいい!神であろうと天使であろうと悪魔であろうと!私に敵対するモノ全て殲滅してやる!」




