第二十二話 アルマゲドン(1)
<アルマゲドンまであと24時間>
「高城提督。ドローン艦隊の配置が完了しました。第二、第三打撃艦隊の布陣もあと1時間で完了します」
旗艦スキーズブラズニルの艦橋で、マツナガ艦長が高城蒼龍に布陣について報告をしている。神が予告したとされるアルマゲドンまであと24時間を切った。いやが上にも緊張が高まる。
「ご苦労、マツナガ艦長。いよいよだな」
全長20キロの巨大戦艦スキーズブラズニル級三隻が、それぞれの打撃艦隊を率いてブラックホールを取り囲んでいる。そして、その内側に無人のドローン艦隊が配置されていた。
悪魔が顕現してきたなら、ドローン艦隊はバリアーを展開しながら主砲を発射する。その攻撃によってかなりの数の悪魔を押し返すか消滅させることが出来るはずだ。そして、ドローン艦隊のバリアーが食い破られた場合、その外側に布陣している打撃艦隊による一斉砲撃を加える。
<アルマゲドンまであと6時間>
「バリアーが健在の内はそこを越えることは出来ないでしょうが、短距離ワープを使って打撃艦隊に直接攻撃を仕掛けてくる可能性があります。その場合は、ミョルニル部隊が艦隊直援にあたります」
参謀将校が作戦の詳細を説明している。各艦隊の指揮官をテレビ会議で繋いでの最終確認だ。基本的に作戦指示はスーパー量子コンピューター・モルガンから発せられる。各艦のメインコンピューターはモルガンの端末となっていて、リアルタイムでの戦況把握とそれに応じた最適な行動が指示されるのだ。
作戦内容の確認が一通り終わり、指揮官達は沈黙して高城蒼龍に視線を送っていた。
「この戦いを、人類にとっての最後の戦いとしよう。Z旗を掲げよ!地球の興廃この一戦にあり!各員一層奮励努力せよ!」
<アルマゲドンまであと3時間>
女子パイロット控え室
出撃を前にして、女性パイロット達が身だしなみを整えていた。お気に入りのマニキュアを丁寧に塗り、明るい色のチークで頬を彩る。ヘルメットを被れば誰に見られることも無いのだが、皆手を抜かずにメイクを整えていた。全員理解しているのだ。もしかしたら、これが死に化粧になるかも知れないと言うことを。
「メアリー准尉、あなたの活躍には期待しているわ。よろしくね」
「タチバナ中尉、はい、全力を尽くします」
マリー・タチバナはそう言ってメアリーに目配せをした。これは、アンドラスの能力を使って念話をしたいという合図だ。メアリーが決戦兵器に乗ることはまだ秘匿されたままだった。これは、テロからメアリーを守るための対策だ。
『どうしたのぉ、マリー。決戦を前にして怖じ気づいてるのかしらぁ?』
『あいかわらずね、アンドラス。怖くないって言ったら嘘になるけど、でも大丈夫よ。あなたが人類の味方になってくれて心強いわ。小物は私たちがなんとかするから、サタンやアザゼルのような大物に集中してね』
『サタンじゃないわ、ルシフェル様よ。あのお方は私が確実に葬るわぁ。悪魔の力を身につけたメアリーは最強よぉ。安心してなさい』
『タチバナ中尉、アンドラスと決戦兵器の力を持ってすれば、確実に勝利することが出来ます。必ず悪魔を斃して無事に帰還いたします。タチバナ中尉も、必ず戻ってきてください。ご武運を』
<アルマゲドンまであと20分>
対サタン決戦兵器 ロキ 一号
パイロットスーツに身を包んだ高城蒼龍が起動シーケンスの最終確認をしていた。隣にはメアリーの乗る“ロキ 二号機“が出撃の準備を終えている。この決戦兵器”ロキ“は、顕現した天使もしくは悪魔の霊子力によって全力稼働する。霊子力炉だけでも基本的な動作は出来るが、全力運転はアルマゲドンが始まるまで出来ないのだ。
「アルマゲドンが始まったらこっち世界のリリエルも顕現するんだろ?自分自身と会えるかもしれないっていうのはどんな気分なんだ?」
「そうねぇ、私は心の準備が出来てるから大丈夫だと思うんだけど、こっちの私は、この私の存在を知らないと思うのよね。だから、相当驚くんじゃ無いのかしら?ちょっと楽しみね。でも、この宙域に来るのは熾天使様だけだと思うから、こっちの私に会うには地球に戻らないとね」
「そうだな、悪魔達をここで片付けて、ミカエル達熾天使と話を付けよう。そして地球へ凱旋だ」
アルマゲドンが始まれば、顕現した熾天使達とリリエルを通して意思疎通が出来るはずだ。現時点においては天使や神がどのような審判を下しているのかはわからない。しかし、最悪のケースも想定はしている。ただし、そうならないために何らかの話し合いによって解決が出来ればよいと思っていた。
「メアリー、準備はいいか?アンドラスが顕現したら起動シーケンスを実行しろ。起動すればあとはAIがほとんどの事をしてくれる。訓練通りにすれば大丈夫だ」
「はい、高城提督。大丈夫です。問題ありません」
『高城提督、メアリー准尉、ブラックホール中心で霊子質量の急激な変化を確認しました!』
決戦兵器ロキのサポートを行うヴィーシャからの通信だ。ブラックホールの周囲に設置している観測機器が、異常な霊子質量の増加を検知したという。
『霊子質量が加速度的に増加しています!』
「いよいよね、アンドラス、気を抜くんじゃ無いわよ」
「リリエル、人の心配より自分の心配をしたらぁ?あなたより私の方が圧倒的に霊子力は強いのよぉ」
『霊子質量増大!事象の地平を超えます!じ、地獄が、溢れてきます!!』




