第十六話 攻撃空母ガタマザン(4)
メアリー達は持てるだけの端末や紙の資料を持ってミョルニルの所まで戻った。そして、緩衝材で包んで回収用コンテナに入れる。
「収納は終わったか?じゃあ次は霊子力炉だ。この霊子力炉から強い悪魔の波動が出ている。必ず悪魔が居るはずだ。十分に警戒しろ」
3機は犬神を先頭にして霊子力炉を目指した。入手したマップから、霊子力炉までミョルニルが十分に通れる大きさの通路が繋がっていることがわかる。
「ねえアンドラス。悪魔の波動がこれほど強力に観測できるって事は、やっぱり顕現しているって事よね。アルマゲドンが始まってないのに顕現してるってどういうこと?」
「メアリー、私にも解らないわぁ。でも、この強い波動は私の記憶にも無いのよ。それに、なんとなく普通の悪魔の波動じゃ無いような気がするのよね・・・」
ギゼとの想い出に涙していたアンドラスも、もう落ち着いているようだ。アンドラスからギゼの動画ファイルだけコピーして欲しいと懇願されたので、ミョルニルのカメラで撮影した画像を後でコピーすることにしている。持ち帰ったデータをそのままコピーすることはさすがに無理だ。
「アンドラスが知らないってことは、最近堕天した悪魔って事?それに普通の悪魔じゃ無いって、ちょっと怖いわね」
霊子力炉に近づくにつれ、悪魔らしき波動は強くなっているようだ。アンドラスも口数が少なくなっている。
「メアリー、霊子力炉でそいつを見つけたら、躊躇無く攻撃してね。おそらくとても危険な存在よ。調査より、生き残る事を最優先でね」
アンドラスは緊張のせいか、いつもの口調では無くなっている。それほど警戒をしないとならない存在らしい。
「ここが霊子力炉だ」
高さ20メートルほどもある巨大な扉には、第六文明人の言葉で「霊子力炉室」と書かれてある。そして、扉の右下にコンソールがあった。おそらく扉を開閉するための物だろう。犬神中尉の命令でタチバナ中尉がミョルニルを降りてコンソールに近づく。タチバナ中尉はコンソールを操作して扉を開いた。セキュリティはかかっていない。
開き始めたドアの隙間にドローンを投入した。そして内部を確認する。ドローンで見る限り危険な物はなさそうだ。
タチバナ中尉はすぐにミョルニルの操縦席に戻る。そして、犬神中尉に続いて霊子力炉室へ入っていった。
「地球の霊子力炉に似ているな」
そこには、直径50メートル、高さ200メートルほどもある酒樽型の霊子力炉が鎮座していた。犬神中尉は霊子力炉を見て似ていると感想をつぶやいたが、それは当然だ。地球の霊子力炉はこの第六文明人の遺跡で発見された霊子力炉を参考にしているのだ。
『こんな所までニンゲンが来るとはな。正直驚きだよ』
その時、3人の頭に何者かが直接語りかけてきた。それは男性の低い声で、地の底から響くような得体の知れない恐怖があった。3人はミョルニルのセンサーでスキャンしてみるが、言葉の主を捉えることは出来ない。
犬神中尉はその言葉に対して「お前は誰だ?」と言葉にしようとしたが、恐怖のため言葉が出てこなかった。まるでヘビに睨まれた蛙のように固まってしまっている。
『勇気あるニンゲンよ。ここまで来たことを褒めてやろう。お前達が消滅する前に、何の為にこんな所まできたか聞いてやろう』
霊子力炉から黒い靄のようなものがしみ出してきた。そして、3人の目の前でだんだんと集まり形を成していく。それはライオンの頭部を持ち、人の腕と胴体に大蛇の足を持った20メートルほどの異形の姿となった
その時、メアリーのミョルニルは腕をその異形に向けて、内蔵されている12.7mm対悪魔機銃弾を発射した。銀の弾丸に悪魔を打ち消す霊力を込めてある。命中すれば悪魔を消し去ることが出来るはずだ。
だがしかし、発射された弾丸は異形の直前で黒い靄に包まれ消えてしまった。そして、その異形は全くダメージを受けていない。
「メアリー准尉!攻撃は命じていないぞ!」
「し、しかし犬神中尉、あまりにもアレは危険です!」
「我々は情報収集を命じられているんだ!オレの命令に従え!」
この艦内には大気があるため、ガーランド小銃は使えない。光速で打ち出してしまうと大気と衝突して核融合爆発を起こしてしまう。低速で発射も出来るが0.1gの極小弾なので、十分な運動エネルギーを持たせるほどに加速すると大気との摩擦と断熱圧縮で蒸発してしまうのだ。その為、腕に内蔵されている12.7mm銀弾を使用したが通用しない。こうなっては近接戦闘用の魔導刃を使うしか無いのだが、これ以上ヤツに近づくのはあまりにも危険だった。
「メアリー、ちょっと想像以上だわ。迂闊に動かない方がいいかも。あれは私の知らない悪魔よ。ヤツは私たちが何故ここに来たか知りたがっているわ。とりあえず会話は出来るみたいだから、会話で時間を稼ぎましょう」
目の前の異形の物体は、ライオンの瞳でじっとメアリーのミョルニルを睨んでいた。どうやらアンドラスの存在に気づいているようだ。もしかすると、アンドラスとメアリーの会話も聞き取れるのかも知れない。
「あ、悪魔が何故顕現しているんだ。悪魔の霊子波動を観測したからちょ調査に来たんだ!何故アルマゲドンが始まる前に顕現しているんだ!?」
犬神中尉は、なんとか言葉を絞り出した。恐怖のため、その言葉は震えている。
その異形は犬神中尉のミョルニルに視線を向けた。
『余が悪魔だと?何を言っているのだ。余はそのような低俗なモノではない。余はこの宇宙を作った真なる神の第一の眷属、アブラクサスである』




