第十三話 攻撃空母ガタマザン(1)
犬神・タチバナ・メアリーの三人はミョルニルに乗って出撃した。目標は攻撃空母ガタマザンだ。5000キロほど離れたガタマザンからは、絶え間なく陽電子ビームの光線が薄く見えている。完全な真空であれば、その陽電子ビームを視認することは不可能だ。しかし、ブラックホールに近く星間物質が集まっているため、その物質に反応して光を出しているのだ。
「全機防御魔方陣のフルオートモードを確認。近づけばこっちを狙ってくるぞ」
ガタマザンまで2000キロを切ったあたりから、接近する犬神達のミョルニルにも攻撃が向けられた。さすがに照準は正確で、全弾確実にミョルニルを捉えている。しかし、その陽電子ビームはミョルニルの防御魔方陣にことごとくはじかれていた。
「すごいわね、メアリー。ガタマザンの主砲まで跳ね返すなんてぇ」
「陽電子ビームとかのエネルギー弾なら問題ないわ。それより、亜光速砲弾は本当に無いんでしょうね?物理攻撃だと防ぎきれない可能性があるのよ」
「ガタマザンに亜光速砲弾は無いわぁ。というか、物理弾を亜光速で発射するというアイデアが無かったのよぉ。陽電子ビームの方が簡単だし、悪魔に対してはそれで十分に効果があったわぁ」
81万年前の悪魔には、それほどの科学的な知識は無かったはずだ。その為、霊子力を乗せた陽電子ビームでかなりの悪魔を斃すことが出来た。しかし、その時の経験で何かしらの対策をとっている可能性はある。そうであれば、亜光速の物理弾は悪魔にとって脅威だろう。
「あ、それとアンドラス。さっきも言ったけど、犬神中尉やタチバナ中尉に話しかけちゃダメよ。あなたの事はまだ秘匿事項なの」
――――
「ダルトン艦長。発見されたタンパク質のDNA解析に成功しました。地球の生物とは異なり、DNAは左巻です」
強襲揚陸艦イカロスの艦橋にホログラムが映し出される。そこには、トリケラトプスの様な頭を持ったオオトカゲが映し出されている。
「これがDNAより予測した生命体の姿です。バラン星系で発見されたバラノドンの近縁種だと思われます。体高は1.8mほどです。」
「バラノドンの近縁種だと?しかし、こんなトカゲに霊力があるのか?」
「はい、艦長。バラノドンに霊力はほとんど無いのですが、今回回収されたDNAには、エルフの霊的遺伝子に近い構造の遺伝子が“人為的に”組み込まれています。おそらく、知能はそれほどでも無いのでしょうが、霊力は普通の人間とエルフの中間くらいでは無いかと報告が上がっております」
「人為的にだと?まさか悪魔が遺伝子操作をしたというのか?」
――――
イカロスから現時点で解っている情報が送信されてきた。
「あの機動兵器には遺伝子操作をされたトカゲが乗っていたようだ。あの艦内にもいるかもしれない。十分に注意しろ」
「こんなのがウヨウヨいるかも知れないの?ちょっと遠慮したくなったわ」
フランスのパリで生まれ育ったタチバナ中尉にとって、トカゲと接点を持つようなことは当然無い。艦内でトカゲと白兵戦を行うなど考えたくなかった。
「イカロスからのスキャンデータだと、あの辺りが格納庫らしいな。外殻を破壊して侵入するぞ」
犬神は格納庫の外殻に向けて34式ガーランド自動小銃を発射した。もちろん、最大出力では無く外殻を破壊できるくらいに調整している。
外殻に直径20メートルほどの穴が開いた。すると、そこから気体が流れ出てきた。
犬神達は空気の流出に逆らいながら外殻に取り付き、一機ずつ中に侵入する。
「ここが格納庫か。人工重力は無いようだな。さっきの機動兵器がまだ残っているぞ。気をつけろ」
格納庫の中には、ハンガーに収められた機動兵器シグロッグが数十機残されていた。スキャンしたところエネルギー反応も霊子反応も無い。おそらく、霊力の源になる生物が搭乗していないのだろう。
「ねぇアンドラス。犬神中尉達はおかしいと思っていないようだけど、この格納庫、照明が点いているわ。81万年、いえ、時間の流れが違うから20万年ほど経っているのに稼働しているのっておかしくない?」
メアリーはさっきの戦闘から、どうにも腑に落ちないことがあったのだ。時間の流れが遅くなっているとはいえ、作られてから20万年も経過しているのに機械が整備も無しで動くものだろうかと。
「そうね、私も詳しくは解らないけど、20万年も壊れないとは思えないわ。100年くらいなら問題なく動くとは思うんだけど」
穴の開いた隔壁は、小型のオートマトン(自動人形)が修復を始めている。こういった修復機能も生きているようだ。
犬神中尉がハンガーに収められている機動兵器に近づく。そして、書いてある文字を写してイカロスに送信した。
「タチバナ中尉、メアリー准尉、戻るときにこいつを一機持って帰るぞ。他にも持って帰れるものがあれば出来るだけ持ち帰ろう」
3機が格納庫を調べていると、イカロスから文字の分析結果が送られてきた。それは、犬神中尉とタチバナ中尉にとって驚愕に値するものだった。
「第六文明人の文字だと?しかし、第六文明人は80万年前に滅んでいたんじゃ無かったのか?この戦艦は何十万年も経っているとは思えないんだが」
「もしかしたら、生き残りがいたのかも知れないわね。それで80万年でトカゲに進化したとか?」
タチバナ中尉は少し戯けた声で返事をする。その言葉にアンドラスは不快感をメアリーに示した。「ギゼがトカゲに進化したってどういうことよ」と。しかし、アンドラスの存在を知られるわけには行かないのでメアリーはなんとかアンドラスをなだめる。
「アンドラス、怒らないでよ。いずれにしても80万年前の戦艦が何故ここに稼働状態であるのかは調べなければならないわね」




