第十一話 接触(2)
強襲揚陸艦イカロス 艦橋
「メインエンジンノズル損傷!補助エンジン問題なし!高度は維持できますが離脱できません!」
「目標からの霊子波の分析です!波長パターンD!これは、悪魔です!」
「なんだと!?悪魔が顕現しているというのか!?いったいどういうことだ!くそっ!ミョルニル部隊全機発進!敵を近づけさせるな!艦隊に救援信号を送れ!」
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「メアリー、あれはあなたたちが第六文明人と呼ぶ異星人の兵器よ。81万年前、私たちはあれで悪魔と戦ったわ。ガダマザンは霊子力炉があるから人が居なくても動くけど、今出てきた戦闘マシン、シグロッグは人の霊力がないと動かないはず。いったいどうやって・・・」
「どうだって良いわ。悪魔の波長を持った敵なんでしょ?アルマゲドンの前哨戦には持って来いよ」
「メアリー、油断はしないで。あのシグロッグは強力よ。第三階級の悪魔なら一撃で倒せるわ。第二階級の悪魔でも数機が連携すれば押しとどめることもできるのよ」
「じゃあ、あのマシンを簡単に蹴散らすくらいじゃないと、悪魔に完全勝利は出来ないということね。行くわよ!アンドラス!」
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旗艦スキーズブラズニル
「サポートの戦艦セスルームニルを救援に向かわせろ!他にも敵が居る可能性がある!警戒を厳にするんだ!」
※戦艦セスルームニル 旗艦スキーズブラズニルの二番艦
「リリエル、どういうことだ?あの戦艦を悪魔が操っているのか?アルマゲドンにならないと、物理的な顕現は出来ないんだろ?」
「わからないわ。出来ないはずだけど、だけど、多分、私の知らない“何か”があるんだと思う。ミカエル様やルシフェル様だけが知ってる何かが・・」
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「タチバナ中尉!直上から2機!左のはオレがもらうぜ!」
シグロッグと呼ばれる機動兵器はミョルニルよりも二回りほど大型で、三本の足と二本の腕を持っている。そして高出力の陽電子砲で攻撃をかけてきた。霊子反応もあるので、おそらく霊力を乗せて打ち出しているのだろう。それに、大柄の割に動きも速い。
「右方向からも3機よ!油断しないでね、犬神中尉!」
タチバナ中尉はミョルニルに装備されている34式ガーランド自動小銃を構えた。そしてヘッドマウントディスプレイに表示されている敵の標示を見て発射を念じる。
34式ガーランド自動小銃は、このミョルニル専用に作られた主兵装だ。電磁力で物理弾丸を発射するレールガン方式が採用されている。小銃と名前が付いているが、全高15メートルの人型兵器用に作られているので大きさはかなりある。そして、この小銃はパイロットの霊力を電力に変換し、0.1gの銀の弾丸を光速の99.5%で打ち出す事が出来るのだ。そして、その銀の弾丸には悪魔の波長を打ち消す霊力が込められている。
シグロッグに向いた銃口から3発の弾丸が発射された。照準はFCSが自動的に行っているので、距離100キロ以内なら外すようなことは無い。100キロを進むのに必要な時間はたったの0.00035秒なのだ。
光速の99.5%で発射された弾丸は3発とも命中し爆発を起こす。0.1gの物理弾丸のエネルギー量は80テラジュールにも達し、これは20キロトンの核兵器に匹敵する。
90キロ先の敵機は着弾と同時に光になって蒸発してしまった。直上の敵を処理したタチバナは右方向の敵に向けて銃を構え、ディスプレイに映る光点を見て発射を念じた。そして次の瞬間、敵3機の標示は消滅した。
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「うそ、信じられない・・・」
メアリーに憑依しているアンドラスは、眼前で繰り広げられる光景を見て唖然としていた。強襲揚陸艦イカロスを発艦したミョルニル部隊は、母艦から1000kmの場所に布陣した。ここからはシグロッグを一歩も通さない覚悟だ。それでも万が一突破されてしまった場合は、イカロスの対空機銃によって対応はできる。しかし、イカロスはメインエンジンをやられて十分な迎撃が出来ない可能性もある。何としてもここで防がなければならなかった。
「24機!次っ!」
メアリーは既に敵24機を撃破していた。もちろん敵から陽電子ビームの攻撃も受けている。陽電子の速度はほぼ光速なので、そのビームを避けることは不可能だ。メアリーも何回か直撃弾を受けていたが、着弾する直前に魔方陣を展開して陽電子を逸らしていた。ミョルニルに搭載されている各種センサーと魔導工学によって実現できた防御魔方陣だ。
「なんて霊子出力なの?メアリー、あなた訓練の時は本気を出していなかったわね。それに、他のミョルニルもこんなに強いなんて・・・・」
戦いは圧倒的だった。ミョルニル部隊に対してシグロッグは50キロ以内に近づくことすら出来ない。陽電子ビームもことごとくははじかれている。敵母艦ガタマザンからの砲撃がイカロスに向けて撃たれているが、全力で展開しているバリアーを突破することは出来ていないようだ。
81万年前、ギゼと一緒に開発した防衛軍の兵器。その兵器で悪魔と戦い、そして負けてしまった。それでも悪魔とも互角に近い戦いが出来ていたはずだ。しかし今、その兵器が一方的に破壊されている。
「なんだか複雑な気分ね。ギゼが心血を注いで作った兵器がこんなにあっさりと負けるなんて。地球人は、とんでも無いものを作っちゃったのねぇ」
シグロッグを動かすためには霊力を持った生命体が必要だ。ただ、戦闘は搭載されているAIが行う。広大な宇宙空間で有視界戦闘など通常はあり得ないのだ。そして、シグロッグが放っている陽電子ビームも、内蔵されている加速器によって打ち出される強力なものだ。さらに、その陽電子に霊力を乗せているので、悪魔に当たれば斃すことが出来る。もちろん通常物質に当たれば、電子と対消滅を起こしていかなる物質でも破壊してしまう。しかし、その攻撃はミョルニルに届かない。
「霊子キャタライザーとコンバーターで霊力を増幅できるの。それをキャパシタにためておいて、瞬時に放出するのよ。その一瞬だけ、悪魔の霊力を圧倒的に上回ることができる。でも、高城提督が準備している決戦兵器はそんなものじゃ無いわ。サタンでも一撃で消し去ることが出来るはずよ。サタンを押し返すんじゃ無い。この世から完全に消し去るの」
※34式ガーランド自動小銃 真空中でしか使えない。大気中だと弾丸と空気が光速でぶつかり核融合を起こしてしまうため。大気中では別の自動小銃を使う。