第十話 接触
旗艦スキーズブラズニル 第0番格納庫
「芹沢博士。決戦兵器の調整はどうですか?整備課長からの報告では80%ほど完了と言うことでしたが」
全長20キロにもおよぶスキーズブラズニルの中央付近にある第0番格納庫では、対サタン決戦兵器の最終調整が急ピッチで実施されていた。
「これは高城提督。本体はもう100%ですよ。リリエル様が顕現なされたらいつでも全力で戦えます」
「そうでしたか。二号機の方も大丈夫ですか?」
「ええ、もちろんです。しかし予備機のつもりでしたが、急遽パイロットが決まったのですね」
20年前のアルカブ・ポステリオル星系探索で、第六文明人の遺跡から霊子力炉が発掘された。そして、それを解析し複製することによって霊子を武器や動力として使うことが出来るようになった。さらに発掘されたオリジナルの霊子力炉は、この決戦兵器に搭載されているのだ。
「ええ、まだ極秘にして欲しいのですが、リリエルより霊力の高い存在です。サタンや高位の悪魔に対して十分な戦力になると思いますよ」
「そうですか。それは心強い。より高い霊子出力が得られるのであれば、ジャイアントトマホークのグレードアップも可能ですね。あと2ヶ月ですが最善を尽くします」
ピピピピー
高城の携帯端末が呼び出し音を鳴らした。
――――
スキーズブラズニル艦橋
「高城提督。こちらが先ほど発見された人工物です。光速の約96%でブラックホールの周りを公転しています」
ホログラムに円筒形の物体が映し出されている。シュバルツシルト面に近く、ブラックホールに吸い込まれつつある星間物質の影響もあって不鮮明な映像だ。
「確かに人工物だな。大きさはどれくらいだ?」
「全長7000m、直径2000mくらいですね。光速圧縮効果によって、実際の大きさより全長は短く見えています。ブラックホールからのX線が強く、ここからではこれ以上の観測は不可能です」
「行ってみなければ解らないということか。光速の96%ということは、時間のズレは3.6倍だな。調査隊を派遣するか。よし、強襲揚陸艦イカロスを行かせよう。可能なら曳航して持って帰ってくれ。それと、万が一に備えてミョルニル部隊も乗艦させる」
物体の速度が光速に近づくと、その時間の流れは遅くなる。ほぼ光速だと時間はほとんど進まないのだが、光速の96%だと時間のズレは3.6倍程度だ。向こうで10時間活動してもこちらでは36時間程度しか進まない。これなら十分余裕があるだろう。
――――
「タチバナ中尉、今日はオレとバディだ。よろしく頼む」
「犬神中尉。いつもの彼はどうしたの?私は一人で全然問題ないんだけど」
「ジョンのやつはインフルエンザだよ。今は隔離中だ」
「そう、じゃあ仕方ないわね。足手まといにだけはならないでよね」
今回の調査隊にはミョルニル200機も随伴することになった。曳航のためのワイヤーを取り付けたり、万が一の不測の事態に対応するためだ。そしてメアリー・スー准尉もミョルニル部隊として随伴している。
――――
「アンドラス。ブラックホール、いえ、悪魔の巣にここまで近づくのは初めてね。あなたもあの中から出てきたの?」
メアリーはミョルニルのコクピットに座り、アンドラスに問いかける。素直な疑問だ。悪魔はあの中に閉じ込められているはずなのに、どうやって出てきたのだろうか。
「地球で堕天してしばらくは、オールトの雲の中で隙をうかがっていたのよぉ。そしてアザゼル様のアバター達と一緒に人間に憑依したのぉ。だからここに来るのは初めてなのよぉ。ルシフェル様に見られているかと思うと、ちょっとゾクゾクするわねぇ」
「悪魔を裏切った事がバレないかって事?それに、ブラックホールの中にいるサタンとどうやってコンタクトをとってたのよ」
「それはね、グランドクロスよ。太陽系の惑星の並びがアンテナになって、ルシフェル様のご意思を受け取ることが出来るのよぉ。だからいつでもコンタクトがとれるわけじゃないの」
どうやら惑星の並びが丁度良いときに悪魔の思念を送ることが出来るらしい。それに、前回のアルマゲドンの後に堕天した悪魔は、そのまま太陽系にとどまっている。スターリンにはアザゼルが憑依していたが、あれはアザゼル本人では無く思念によるアバターだったようだ。
「今の速度は光速の95.9%、もうすぐ対象が見えてくるわ」
強襲揚陸艦イカロスは光速の95.9%でブラックホールに降下していく。そして調査対象と同じ軌道に入りゆっくりと近づいた。その様子はミョルニルのコクピットにも配信されている。
「見えてきたわ、アンドラス。やっぱり人工物ね。あれは、宇宙戦艦?」
「あれは・・・まさか・・・・」
ウォーーーーーーン!
その時、突然けたたましい警報が鳴った。
「全艦第一種戦闘態勢!全艦第一種戦闘態勢!調査対象に強力なエネルギー反応を確認!」
「メアリー!攻撃が来るわ!あれは、自動攻撃空母ガタマザンよ!」
――――
強襲揚陸艦イカロス 艦橋
「対象物に急激なエネルギー反応!これは、霊子力炉です!対象物に変化あり!」
「なんだと!?うぉっ!!」
「対象物から攻撃です!バリアー出力最大!」
「対象から距離を取れ!損害を報告しろ!」
「対象から何か射出されました!数はおよそ400!小型の戦闘マシーンのようです!」
第十話を読んで頂いてありがとうございます。
土日祝は休載です。
完結に向けて頑張って執筆していきますので、「面白い!」「続きを読みたい!」と思って頂けたら、ブックマークや評価をして頂けるとうれしいです!
また、ご感想を頂けると、執筆の参考になります!
「テンポが遅い」「意味がよくわからない」「二番煎じ」とかの批判も大歓迎です!
歴史に詳しくない方でも、楽しんでいただけているのかちょっと不安です。その辺りの感想もいただけるとうれしいです!
モチベーションががあがると、寝る間も惜しんで執筆してしまいます。
これからも、よろしくお願いします!