… and they lived ( ) ever after.
月明かりの下を、死に物狂いで走っていた。
後ろから迫る呼吸音と足音がすこしでも遠ざかるように祈って、身体中に擦り傷をつくりながら森の中を走る。
涎を垂らした大きな犬のような四つ脚の獣が、いたぶるように少しずつ距離を詰めて追ってくる。最初は真後ろにいたはずの群れが左右に展開して、気づけば私を取り囲むようにあちこちから音がする。
危なくないって言ったのに、神様の嘘つき。
「ねえ、ちょっとやりすぎじゃない?」
「大丈夫よ、死にはしない」
声が聞こえる。
「ほら、頑張って。あとすこしよ」
無責任な声が。
「その藪を抜けたら、あの子が待ってるわ」
わけがわからないまま、見えない女性たちの声に導かれて、走る。
誰か。
誰か。
誰か。
「たすけて」
金の髪に緑の瞳。神様によく似た綺麗なお顔。
すぐにわかった。
ああ――この人が、神様の特別。
――――――――
――――――
…………
……
懐かしい夢を見た。もうずいぶん長い間、思い出すこともなかった記憶だ。
「ごめん、マイ。起きた?」
美しい金色の髪。初めて出会った瞬間に一目で心を奪われた、人ならざる者の輝き。わかっていた。彼はきっと神の子だと。誰もがみんなわかっていた。
「……いいえ」
私はまだ夢を見ている。
悪夢にうなされて目覚めるたびに、同じ金色を目にして落ち着いた。神様と同じ色をした、とても冷たい瞳と目が合って、震えながら目蓋を閉じた。それでもあなたはそこにいた。私をずっと側に置きつづけた。
あなたが私にしたことを、私はまだ覚えている。
あなたが私にしてくれなかったことを、私はまだ許せずにいる。
だけどわからなくなる。
私があなたにしたことを、あなたは覚えているのだろうか。
私があなたにしてあげられることを、私はまだ見つけていない。
いまの私と、かつてのユアンは、なにが違うのだろう。
もう一度、神様に会うことだけを考えて生きていたの。あなたのための金糸雀としてさえずりながら、すべてが終わる日を待っていた。ずっと、それだけを、待っていた。
あなたの孤独を知っている。
私はあなたに寄り添える。
あなたが私をそう変えた。
あなたの元から逃げたところで、今さら帰る場所なんてない。それが許せなくて、憎らしくて、だけどあなたを殺したいと思ったことは一度もなかった。
神様。
私の神様。
神様がどんな存在か、私はもう理解している。
神様にとって私がどんな存在か、私はもう理解している。
神様の特別になりたかった。
あなたのように愛されたかった。
神様の愛を得るためならなんだってできるほどに、私は神様を愛していた。いまでもずっと、愛している。
ユアン。あなたは神様を愛していた?
あなたにとっての神様はどんな存在だったのだろう。そういえば、聞いたことがない。あんなに長く一緒にいたのに。神の現し身のように崇められながら、誰よりも神の言葉に忠実だった人。
あなたにとって私がどんな存在か。
いまだに答えはわからない。




