I said that. I did.
「ええっと、とりあえずこれみんなに聞いてるんだけど――志望動機は?」
「死亡、動機……? 私、死んだ?」
少女の瞳がパチパチと瞬く。
「え!? 死んっ……でない、のかな、うん、一応、たぶん。ごめんちょっとまって確認するから。姉さーん、この子ってまだ生きてるー?」
上を見上げて叫ぶと、丸められた紙つぶてが降ってきた。あいかわらず雑だなぁ。神たるもの、業務連絡であっても、もっとカッコつけるべきだと思う。
「わかったわかった。生きてるよ。ちょっとあまり栄養状況がよろしくないっぽいけど健康体。ご両親、忙しい? あ、いや、これ聞いちゃいけないんだっけ」
やれやれ、他神の世界のルールは複雑で難しい。みんな僕のところみたいに単純にしとけばいいのに。こまめに剪定しないから勝手にニョキニョキ成長して手に負えなくなるんだよ。姉様もうちの子を覗きみる暇があれば片づけてほしい。
「あなた……」
「あ、僕? 僕はね、神様」
「きれいね」
川のように垂れた光沢のある金の髪を見下ろし、思わずといった様子で触りながら少女は言った。
「でしょでしょ。姉様方もね、僕の顔と髪だけは褒めてくれるんだよ。僕的には髭でも生やしてもっと威厳に満ち溢れた強面な感じにしたいんだけ、ど!」
土砂降りの雨のように紙つぶてが降る。
「……はいはーい。降りるときはちゃんとシマース」
言われなくても見た目は維持するよ。姉様プロデュースの仕様で絵姿にも残っちゃってるし。あの子のいない時代からやり直すのは怒られそうだし。
それからしばらくとりとめもない雑談をして、決めた。
うん、この子にしよう。
他にも何人か候補はいたけれど、数百ヶ条にも及ぶ二度と読み返したくない要件をすべて満たしていて、それなりに文化の近い世界の出身で、移動することによる影響も少なくて、この子が一番ちょうどよかった。
なにより面接用に整えた空間とはいえ、僕の髪に直接触れられるほどの感応性の高さはそうそういない逸材だ。
ちょっと感情表現が控えめだけど、それくらいの方が、あの子には合うだろう。
「それで、ええっと、今井真依ちゃん。きみにちょっとお願いがあって」
聖女になってほしいんだ、というと、少女はよくわかっていない顔で首を傾げた。あ、伝わらない? あちゃー、伝わらないタイプの子だったか。
「聖女って言ってもね、そんなに難しい仕事じゃないから。ときどき僕とお話ししてくれればいいだけ――」
『忘れるな』と書かれたプラカードが落ちてきた。
「もー、わかってるよ! あと、姉様からの伝言をよろしく。誰に伝えればいいかはすぐわかるから」
「……危ない仕事?」
「危なくない。危なくない。きみは安全。それは保証する。大丈夫。なにがあっても、きみは死なない」
あの子がそばにいるのだから。それに万が一のことがあったって、そのときはそのときでどうにでもなる。この僕が望むのだから。
「やり遂げてくれれば、僕からもご褒美あげるよ、ね?」
「……なんでも?」
「もちろん。何でもいいよ! 僕の力にかかれば――あ、いや、えっと、今はちょっと事情があって本気出せないんだけどね、うん。本気になったら結構すごいから。ほんとに」
しまった。勇者には神殿経由で、今は封印中、魔王を倒せば復活する体で話を通してあるんだった。
そろそろ当代の魔王をどうするかも決めないとなあ。あの子と並んで映えるのっていったら、やっぱり竜族かなあ。姉様がやりすぎるせいでバランスとるの大変なんだよ。
「神様。それなら私、あなた――」
「ちょっといつまでやってるの。もうあの子が帰っちゃうじゃない!」
とうとう紙でもプラカードでもなく声が降ってきた。これはまたなにか仕込んでそうだなあ。うーん、……まあ、なんとかなるか。失敗したらやり直せばいい。
まだ何か言いたげにしている少女に手を振って、送り出す。
「ごめんね。きみは望んで来たわけじゃないのかもしれない。でも、僕はきみがいい」
僕の愛する世界をよろしく、小さな聖女様。




