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悪 夢  作者: 雷禅 神衣
3/6

悪 夢 2

十月二十一日。


「市内で標的になったのは女子高生だけですよね?何故女子高生だけが殺害されたのでしょうか?」

「ええ、目下捜査中でして、まだ何も分かっておりません」

「一部メディアの話だと、殺害された遺体は、体内から子宮が取り出されたと言う話も出ていますが」

「現在捜査中の事はお話出来ません」

「今日だけで九人の女子高生が殺害されていますが、犯人は同一犯でしょうか?」

「いや、まだ何とも言えません。捜査中ですから」

「しかし、発見された女子高生の遺体は、みな子宮が取り出されていたのでしょう?これは同一犯の可能性が高いのではないでしょうか?」

「憶測だけでものを言うわけには行きません。詳しい事が分かり次第またお伝えします」

「前日に起きたビル作業員焼死事件とは何か関係があるのでしょうか?」

「そちらの事件と併合して捜査中です」

 埼玉県秩父警察署の前にはマイクを手にしたリポーターたちが会見を行なった警部補の前で質問を浴びせ掛けていた。同行しているテレビカメラのカメラマンは、ネタを一瞬も逃さんばかりの気迫に満ち溢れている。一時も目を離さないような視線がカメラを通して伝わってくる。このような騒ぎは秩父警察署始まって以来の事である。普段は静かな秩父に悲鳴にも似た取材陣の群れが押し寄せ、我先と言わんばかりにカメラを回し続けていた。

 テレビの連中が騒ぎを立て始めたのは、昨日の未明に起こった「女子高生惨殺事件」が発端となった。事件発生の時間帯はどれもバラバラだったが、一番早い時間で昨日の早朝、秩父市内に住む女子高生が何者かに殺害されるという事件が起こった。殺害された女子高生は皆秩父市内に住む女子高生で、発見された遺体は腹部が大きく引き裂かれ、子宮が取り出されグチャグチャに踏み潰されると言う凄惨な状態で発見された。

 事件の状況はどれも異なっており、家で発見された者、外で発見された者と実に様々なケースだった。鑑識の検分では明確な殺害方法はまだ明らかになっていない。と言うよりも、むしろ「分からない」と言うのが正論であろう。

 鑑識の話では殺害された女子高生の身体には、外部による攻撃を受けた痕跡が一切残っていないと言う。首を絞められた跡も無ければ、凶器で刺された跡も残っていない。致命的だったのは腹部を引き裂かれた傷のみで、この傷も鑑識によれば「刃物で切り裂いた傷とは考えられない」と言う結果が出ている。つまり殺害方法や手順は愚か、明確な犯行の手口がまるで見えないという状況だった。

 警察内部では鑑識の結果を元に捜査を進める方針出るが、犯行時刻がバラバラである事と、犯行が起こった場所が点々としているため、捜査は早々に暗礁に乗り上げているのが現状だった。

 自分のデスクで鑑識から届けられた結果を眺めながら、沖菜大樹は不可思議なものを感じていた。この女子高生惨殺事件もそうだが、その前日の夕方に起こったビル作業員焼死事件も、今現在その原因は不明と出ている。建設会社トートリックの代表補佐である大林学率いる作業員が、突然人体発火を起こし、二十人中、十九名が焼死すると言う不可解な事件である。秩父警察は本格的な捜査に乗り出すため、捜査本部を設置。ビル作業員焼死事件と女子高生惨殺事件の二手に分かれて捜査に当たっているが、有力な情報は何一つ入ってきていなかった。

 沖菜大樹。秩父警察署に勤務する二十八歳の巡査部長。まだ若手の刑事だが、持ち前の行動力と判断力を買われ、秩父警察署内では最年少の巡査部長である。身長は175センチ、髪型はストレートの短髪。目に掛かる程度にまとめられた瑞々しい髪のせいで、実年齢よりも若く見られることが多い。過去に大きな事件と悲惨な事実を背負っており、性格には少々癖がある。あまり周囲の人間を寄せ付けないが、背負った過去が引き金となり刑事になった。特に冷静な判断と有無を言わさぬ行動力が評判を呼び、署内では「無愛想な豹」と言われている。豹と言う名前の由縁は沖菜の眼差しから来ている。真剣な目付きになると、まるで獲物を狙う豹のように見えるらしい。今まで数多くの事件に携わってきたが、今回の事件は異例中の異例と言えた。

 いずれの事件も不可解な点が多すぎた。ビル作業員焼死事件では一般市民に寄る目撃者は出ていない。唯一生き残った一人の証言によると、突然作業員たちの身体から炎が上がったという事である。生き残ったのは蛯原っ友喜と言う男で、事件発生当時、彼はたまたま別の場所で作業をしていたため難を逃れた。現場の異変に気付いた蛯原は急いで戻り、そこで炎に包まれている他の作業員を目にしたという。その後彼は消火活動に当たったが、身体に重度の火傷を負ってしまい、現在市内の病院で入院中である。大きな謎を残す自然人体発火と言う不可解な現象がこの事件に大きな暗雲を置いた。

 その翌日に起こった女子高生惨殺事件についても、実に奇妙な事ばかりが浮上している。マスコミが言うように、発見された遺体は全て腹部が大きく引き裂かれており、体内から子宮が取り出され踏み潰されるという残忍極まりない状態であった。殺害された女子高生に性格的な問題は一切なく、むしろ秀才と呼べるほどの生徒たちばかり。そして何故か女子高生とターゲットは絞られている。男子生徒が殺害されたという情報は入ってきていない。殺害した女子高生の体内から子宮が取り出されたという点と、鑑識による犯行の手段が曖昧と言う不気味な事実を残している。今現在警察幹部たちは「犯人は精神異常者」と言う争点で事件を見ているが、精神に障害を持った人間が、何故女子高生だけを狙ったのか、その辺の裏付けは何もない。むしろ異常者であるなら性別、年代など関係なく無差別に犯行を繰り返しそうなものである。それに、犯行手段として致命的なダメージを与えたその手段が明確になっていない以上、一体どのような手段で犯行に及んだのか。更に事件は秩父市内に限られている。何故秩父市内なのだろうか。今後市外での犯行の予想されるが、現時点で九人もの犠牲者が市内のみで出ている。犯人は何故市内だけで犯行を繰り返したのだろうか。事件が発生したのは昨日の未明と出ている。そこに犠牲者九名と言う数字を重ね合わせると、昨日の未明から今朝に掛けて、これだけの人間を殺害し、その腹を裂き、子宮を取り出して踏み潰すなど、時間的に考えてもまず不可能である。事実、その前日に憩ったビル作業員焼死事件が発生した当時は、まだ何も起こってなかったのだ。女子高生が惨殺されたのは、少なくとも作業員が焼死した後という事になる。女子高生が発見された場所、そして時間を考慮して考えても、やはり不可能である。

「どうした、ずいぶん難しい顔をしてるな」

 デスクで資料を読んでいると、同僚の里村彰二が沖菜に声を掛けた。

「この事件はどう考えてもおかしい。不可解な点が多すぎる」

 沖菜はそう言うと資料を里村に手渡した。

「考え過ぎなんじゃないか?お偉いさんたちは精神異常者の犯行として見ているようだがね」

「何故精神異常者だと言い切れる?前日に憩ったビル作業員焼死事件と女子高生惨殺事件は時間的に考えても同一犯だと考えるのは不可能だ。それにあまりにも奇妙な点が多過ぎる。謎の人体発火。犯行の手口が見えない女子高生の殺害。とても人間業だとは思えない節が有り過ぎる」

「じゃあ何か?幽霊や怪奇現象とでも言うのか?馬鹿馬鹿しい。これは列記とした事件だよ」

「それは分かっているんだが・・・・」

 言葉では表現できない、何か不穏なものを沖菜は感じていた。

 そしてこの翌日、沖菜の不安は見事に適中することになる。




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