戦場で女神は俺たちに微笑む
初めて銃の引き金に指をかけたとき、当時の俺は何を感じただろう。力を手にしたことへの高揚感? あるいは、未知なる体験に対する恐れ? それとも、ただ冷静なまま、命令されるままに標的を見据えていたかもしれない。
当時を再現するように拳銃を握り、銃口を『的』へ向ける。セーフティを解除し、ゆっくりと、引き金に指を添える。深く息を吸い込み、吐き出し、唾を飲み込むのと同時に一筋の汗が頬を伝って流れ落ちた。
銃口が震えている。否、それを握る俺の手が震えていた。カタカタと小さな音を鳴らし、『的』を意識するほど息が乱れる。まるで反発するように照準が定まらず、ついに耐え切れなくなった俺は銃を地面に放り出した。
糸を切られた繰り人形のように脱力し、両腕両足を投げ出す。大きくため息をついてようやく、両手の震えは止んだ。
思い浮かべたどれでも無かった。あの時感じていたのは、力への高揚でも、未知への恐れでも、まして冷静でなんていられるはずがなかった。あの時感じたのは、ただひたすらに純粋な恐怖だった。
『引き金を引けば後戻りはできない。命令されるまま戦場へと駆り出され、躊躇いなく命を奪う兵士としての生き様を強いられる。敵国の人間というだけで殺しが肯定される世界。そこに立つ俺の心には、きっと、今はある大切な何かが欠落しているのだ』
そんな未来の姿を悟り、どうしようもないほどの恐怖が胸の底から湧き上がるのだ。
当時の俺の想像は正しかった。どうして今まで忘れていたのだろう。
「どうして……こうなっちまったかなぁ」
半開きの口から漏れた声は酷く情けない。だが、当時の俺もこんな風だったかと思うと、少し心が軽くなった。
***
――戦争って、誰が何のために始めたんだろう――
新兵の頃はそんなことを考える余裕すらあったはずなのに、いつしか考えなくなった。いや、考える意味を失ったのかもしれない。既に始まったことの発端を突き止めようとも、今ある状況は変わらない。過酷な戦場を戦い抜くのに必要なのは、戦争の原因ではなく、戦い続ける理由なのだ。
ならば、お前は何のために戦う。上官の命令だからか。それとも、恨み、憎しみの感情からか。そのどちらでもない。俺の戦う理由は『弔い』だ。
「デイヴが死んだ。奴の部隊は壊滅状態だ」
訃報を耳にしたとき、俺は瞳を閉じてそいつの死に様を目蓋の裏に描く。
砂塵が舞う戦場の只中、敵兵に囲まれ、救援は来ない。目の前で次々と仲間を殺され、絶望に思考を侵され、自身も体中に風穴を開けられる。遠のく意識の中で深く深く残るのは、きっと暗く重い負の感情だけだ。無念だったろう、悔しかったろう、辛かったろう。あぁ、苦しみ悶える声が今にも聞こえてくる。
死んだ仲間を思い、俺はまた一つ戦う理由を背負う。仲間の受けた屈辱や無念は仇の鮮血でしかすすげない。奴らを一人でも多く殺すことこそが死んでいった仲間たちへの弔いだと俺は信じていた。
これまで数えきれないほどの仲間が殺された。知人、親友、顔見知り。同じ土地に産まれ、同じものを愛して育った彼らの死は平等に戦う理由となった。だから俺は銃を取り戦場へ赴く。一人でも多くの仇を殺し、仲間への弔いとするために。
「戻れサイモン! 奴を追う必要はない! 単独行動は危険だ!」
仲間の怒鳴り声に振り向くことなく、俺は走り続けた。ひたすらに、がむしゃらに、荒れ果てた戦場を逃げ惑う手負いの兵士に向かって。脇腹と右腿に穴を開けられてもなお生き延びようともがく様は醜く哀れで、何より腹立たしかった。
あいつの銃弾の前に何人の仲間が倒れただろう。もしかするとデイヴはこいつに殺されたのかもしれない。ならば俺は何が何でもこいつを殺す。野垂れ死になど楽な死に方を与えてやるものか。必ずこの手で息の根を止め、惨めな最期を飾ってやる。
「誰か! た、助けてくれぇ! 誰かぁ! うわぁ!?」
情けない声を上げながら、次の瞬間視界から標的が消えた。塹壕に気付かず足を踏み外し、転落したのだ。
足を止めて上から見下ろすと、奴は手足を放り出したまま仰向けに倒れていた。内心焦ったが、胸は僅かに上下しており、生きてはいるようだ。頭の打ち所が悪く気を失ったのだろう。
戦場の只中にも関わらず、安堵のあまり口許が緩んだ自分に気付く。慌てて唇を引き結び、眉間に力を入れた。
塹壕を滑り降り、奴の傍に立ち銃口を向ける。無防備に晒された額に狙いを定め、引き金に指をかける。
天国へ旅立った戦友たちよ、見ているか。お前たちの仇は取るぞ。
胸の内で語り掛け、引き金を引こうとした瞬間。
ふと、荒んだ風が戦場を吹き抜けた。土埃を纏った、乾ききった風。それは一瞬俺の視界を覆い、指の動きを止めた。
「少し冷静になりなよ」
全身の毛が一斉に逆立つ。
考えより先に体が動いていた。俺は弾かれたようにに前方へ転がり込み、呼吸を狂わせて背後へ銃口を向ける。目の前に立っていたのは、黒のスーツをきっちりと着込み、深くハットをかぶった一人の男だった。栄えた都市からそのまま連れてきたような、戦場にはあまりにも似つかわしくない格好。合成で貼り付けたかのように、視界の中で男の存在だけ浮いていた。
声を聞くまで気付かなかった。全く気配を感じなかった。敵か? いや、仮にそうなら俺はとっくに死んでいる。こいつは何者だ?
真っ直ぐ向かい合い、男はじっとこちらを見つめてくる。鋭い眼光がハットの影の中で光り、思わず右足を半歩退いた。
「まぁまぁ落ち着いて、私は敵じゃない」
男は両腕を広げ、軽薄な笑みを浮かべる。一瞬の油断が命取りになる戦場において、そんな言葉を信用する人間がどこにいる。得体の知れない相手。怪しい動きは一つも見過ごせない。いつでも殺せるよう男の眉間に狙いを定める。
「人の背後を取る奴の言葉が信用できるか! 何者だ貴様! 目的は何だ!」
「取り敢えずその物騒なものを下ろしてくれ。私を撃ったところで、君がまた一つ、要らぬ業を背負うことになるだけさ」
どこからそんな余裕が生まれるのか、男はまるで恐れる素振りを見せない。懐に銃を隠し持っている可能性はあるが、やり合いになれば俺の方が早く奴を殺せるというのに。
銃口を向けられているにも関わらず、男は無警戒のままふらふらと倒れた兵士へ歩み寄り、傍にしゃがみこんだ。
「おい! そいつに何をするつもりだ!」
「何もしないさ、君と違ってね」
いちいち癪に障る言い方だ。俺は二歩、三歩と男に近づき、その頭に銃口を突き付ける。だが、男は一切動じない。凪いだ水面のように抑揚のない声で男は言う。
「君は、彼を撃つつもりなのかい……」
「その前に貴様を撃ち殺してもいいんだぞ。目的を言え。俺の邪魔をするなら容赦なく殺す。次にその死に損ないだ」
「あくまで彼を殺す気なんだね。……僕は、君のことが不憫でならない」
「……何が言いたい」
無意識に奥歯に力が入る。男はこちらを見上げることなく、兵士の体をじっくりと観察していた。
「右の脇腹と、右腿に1つずつ。酷い出血だ。急いで手当すれば助かるだろうが、こんな状況じゃ後先短いね」
「殺す必要は無い、そう言いたいのか」
「違う。理由が無いのさ」
男は首を回して俺を見上げる。額に突き付けられた物に一切怯むことなく、真っ直ぐ、俺の心の内を覗くように。
「何故彼を殺したいんだい。どうして自ら業を背負おうとする……君が戦う理由は一体何だい?」
戦う理由。その単語を耳にした瞬間、いくつもの顔が脳裏に浮かぶ。死んでいった戦友たちの顔。全員、悔恨を募らせ苦しんだ顔をしていた。
答える義理など無かった。こんな怪しい男など、躊躇いなく殺してしまうこともできたはず。だがそうしなかったのは、不可思議な男の存在が俺の心を日常から遠ざけたからだろう。
「……仲間が大勢殺された、こいつらの手でな。皆、故郷に大切なものを残してここに来たんだ。家族、友人、恋人。……無念だったろうさ、最期の別れも言えないまま逝くってのは。だからこいつらを殺す。仇を取るんだよ。こいつらの死は殺された仲間たちへの手向けだ。そうしないと、未練を残して死んでいったあいつらが浮かばれない」
「失ったから奪う、か。辛かったろうな……君も、君の戦友たちも。だが――」
男は視線を下へ向ける。兵士を見つめる男の目は、俺を見つめていたときと同じ色をしていた。
「彼も……彼らも、きっと同じじゃないかな」
……同じ?
半ば口を開いたとき、男は遮るように先を続ける。
「彼らも故郷に大切なものを残してきたはずさ。家庭を持ち、中には小さな子供もいただろう。もう二度と会えないかもしれない。彼らを戦場へ送り出した家族たちはさぞ不安だったろう。そしてもし、彼の訃報を聞いたなら、残された者たちは一生残る後悔を背負う」
苛立ちが募り、呼吸が次第に荒くなる。
つまりこいつはこう言いたいのか。俺たちが仲間の死を悲しむように、俺たちがこいつらを殺すことで、その仲間や家族たちも酷く心を痛めるのだと。お互いが感じる痛みは同じだ、と。
「君たちは同じなんだよ。それなのに君は彼を己の意思で殺し、その家族たちを――」
「ふざけたこと言ってんじゃねぇぞ!」
怒りに任せて男の頭に銃弾を撃ち込む。が、射撃のタイミングをあらかじめ知っていたかのように、男は瞬時に俺の手首を掴み、すんでのところで弾道を逸らせた。
俺は男の手を払いのけ、半歩退いてすかさず銃を構える。男も立ち上がり、顎を引いてこちらをじっくりと見つめていた。その態度が余計に怒りを増長させる。
「同じなわけあるかよ! 国が違う、食い物が違う、習慣が違う、常識が違う、思想が違う、信じる神が違う! こいつらとは何もかもが違うんだよ! 同じものを愛さない、信じない、理解し合えないから戦争になるんじゃねぇか! アリを踏み潰して人は何かを思うか!? それと同じさ。理解できない奴を殺しても何の罪悪感もない。だからこいつらだって平気で俺たちを殺すんだろ!? みんな同じだの悲しいだの、同情を誘う綺麗事がまかり通るほど世界は単純じゃねぇんだよ!」
沸き立つ熱を溢れるままにぶつける。言葉が切れた途端に静寂が訪れた。俺は肩で息をし、一方で男は眉一つ動かさずこちらを見据えている。俺を馬鹿にするでも、疎む顔でもない。ただただ悲しみの色を浮かべていた。男は再びしゃがみ込むと、未だ気を失っている兵士の服に手を掛ける。
「君の言い分は間違っちゃいないよ。彼らと君ら、違うから理解し合えず争いが起きる。そうだろうとも」
男が抜き取ったのは一枚の写真。兵士の男と、隣には同年代の女、二人の間には小さい子供が映っている。
「はっ、その写真がどうしたよ。言っただろう、俺たちは――」
「あぁ違う。君に見せたいのはこれじゃないんだ」
俺の言葉を遮り、男は再び服をまさぐる。取り出されたのは今の写真と同じ大きさの紙。それを目の前に突き出されたとき、俺は目を見開き、口をあんぐりと開いたまま言葉を失った。
「確かに君たちは愛するものが異なるかもしれない。考えの相違により理解し合うのが難しいかもしれない。だがもしかすると、それより以前の問題。お互いを知ろうとしていないだけじゃないのかい?」
「こ、こここ、これ、へ!? な、え、どしてこ、え?」
それを目にした今、もはや俺に銃を構えていられるだけの冷静さは残っていなかった。銃が右手から滑り落ち、両手で紙切れを受け取る。
そこに描かれていたのは、紛うことなき我らが女神様の御姿! あまりに眩しきその輝きは荒み枯れ果てた戦場を一変する。一瞬にして暗雲は払われ、暖かな光がいっぱいに降り注ぐ。清廉な泉が大地を潤し、鮮やかな草花が一面に芽吹き、澄んだそよ風が小鳥の囀りを連れてくる。そんな幻を見せるほど女神様の御姿は清く、そして美しい。
心が浄化されるようだった。俺を縛る透明な黒い鎖が輝きの中で砕け散り、身も心も全てが解放される。これまで背負い積み重ねてきた何かが、一瞬にして溶けていくようだった。
「ミサト……マキナ……」
思わず彼女たちの御尊名を口にしたとき、男は小さく微笑んだ。
「通称『リコリコ』の名で親しまれ、現在大大大人気放送中のオリジナルテレビアニメ。その主人公であるミサトとマキナのツーショット。反応から察するに、君もこの作品が好きらしいね」
「あ、当たり前だ。一話放送時からずっと追ってるんだ。魅力的なキャラクター、先の読めないシナリオ、緩急のバランスが絶妙な構成、聴き足りることのない主題歌、細部まで拘り抜かれた描写、そして! どこまでも尊いミサマキの関係性」
俺の脳内ではアニメの名シーンたちが主題歌と共にダイジェスト形式で流れていた。彼女たちの葛藤が、戦いが、絆が、目の前で鮮明に蘇る。俺は今、この世界で最も純粋な涙を零していた。
「最新話を見終える度、二つの感情が胸の中に生まれるんだ。一つは、早く次回を見たい、待ちきれないというじれったい気持ち。もう一つは、新たに摂取したミサマキの尊みを誰かと共有したいという気持ち。だが、摂取した尊みを語り尽くすのに、一週間という時間はあまりにも短すぎる。消化しきれないまま最新話の放送が始まり、新たに途方もないほどの尊みを浴びせられる。心の中はまさにミサマキの大渋滞。そんな幸せを延々と見せてくれるのが『リコリコ』という作品なんだ」
「そんなにもこの作品のことが好きなんだね」
「愛していると言っていい。最新話の放送時間が迫れば、どんなに激しい戦場の最中でも基地へ戻り、仲間と鑑賞会を開くんだ。あの時間だけは他の全てを忘れられる、まさに戦場のオアシスだ」
ふと、デイヴのことを思い出す。あいつ、事あるごとに言ってたよなぁ、『リコリコ最終話を見るまで、何があっても絶対に死ねない』って。そんで俺たち、肩を組んで誓ったんだよ。一緒に最終話を見よう。ミサマキを見届けようって。それほどまでに、俺たちは『リコリコ』を愛し、そして信じていた。
そして敵であるはずのこいつは、懐にミサマキの画像を忍ばせていた。
俺の中にある価値観が音を立てて崩れていく。それはまさに『リコリコ』第一話を見た衝撃とも近かった。
「俺たちと、同じなのか……」
その問いかけに対し、否定が欲しかったのか、それとも肯定が欲しかったのか、俺自身分からない。だが男の言葉を聞いたとき、心は不思議と穏やかだった。
「愛する家族の写真と共に肌身離さず持ち歩き、心の支えとしていた。それだけは確かな事実であり、その行動が示す愛の大きさは想像に難くないだろう?」
「あぁ、そうだな。そうだよな」
――お互いを知ろうとしていないだけじゃないのかい?
少し前の男の言葉は正しかった。戦争する敵同士、信じるもの全てが異なると決めつけ、まるで別の生命体かのように考えていた。けれど違った。こいつも一人の人間で、『リコリコ』という俺たちと同じものを信じている。きっと俺から逃げていたときも、『リコリコ』への思いを原動力に動いてたんだろう。
……こいつもきっと、最終話を見るまでは死ねないって考えてたろうなぁ
「もう、大丈夫みたいだな」
顔を上げると、男の姿が消えていた。風にさらわれたかのように、一切の音もなく、名残もなく。だが驚きはしなかった。今はただ心が軽い。そう変えてくれたのはあいつだ。
俺は未だ倒れたままの兵士に歩み寄り、応急処置に取り掛かる。今ならまだ間に合う。本来なら緊迫した状況だろうが、処置を進めながら心が躍っているのを感じていた。
***
「う……んん……? あれ? ここうああああぁぁ!!」
あれから数時間後、ようやく目覚めたかと思うと、彼は俺を目にするなり叫び出した。腰が立たないのか、腕だけを忙しなく動かして後退する様が可笑しくて、思わず吹き出してしまった。
「よう、目覚めの気分はどうだい」
「な、なんだよお前! 何でここに! 何でっ……!」
「安心しな、殺したりなんかしねぇよ。……痛みはどうだ」
俺の言葉でようやく気付いたらしい、彼は治療後を恐る恐る触りながら目を丸くしていた。
「これ、あんたが……」
「……すまなかったな」
これが何に対する謝罪かは分からない。ただきっと、俺たちの間に横たわる深い溝を埋めるための切っ掛けが欲しくて、無意識に出た言葉がそれだった。
「何に対してだよ」
「その……いろいろと、追いかけまわしたり、撃ったりして……」
「俺たちは敵同士だぞ。なのに俺を助けて、それに治療まで。あんた一体何なんだ、国を裏切るつもりか」
「まさか」
国を裏切るつもりはない。大切な故郷だ、掛け替えのない家族もいる。切り捨てることなんてできない。だがそれは、友となれるかもしれない彼も同じ。
俺は常に戦場の中で戦い続ける理由を求めていた。殺しを強制される環境の中で心折れずに生きるためには必要なことだ。だが、今の彼にその理由を見出すことはできない。『リコリコ』を信じる者同士、最早仲間意識さえ芽生えてしまっているのだから。
「俺はさ、ただお前と話をしたくて」
「話……?」
「『リコリコ』、好きなんだな」
その単語を口にした瞬間、彼の目は点になり、体は若干前のめりになった。どうしてそのことを? と目が口以上に語るものだから、種を明かしてやった。
「懐に入っているのを見た。まさかこんなところで同類と出会えるなんて思わなかった」
「ど、同類ってことは、もしかしてあんたも……」
無言のまま彼の目を見つめ、静かに首肯する。彼の口許に喜びが滲んだ。
「まじかよ! あんた等も『リコリコ』見てたのかよ! あれめっちゃ人気だよなぁ、俺らの部隊でも超人気でさぁ!」
「まぁまぁちょっと落ち着け」
急に興奮し出した彼を宥める。懐中時計を確認すると例の時間のおよそ五分前。ほんと、良いタイミングで目を覚ましてくれて助かった。
俺は荷物の中からある機械を取り出す。携帯テレビ、俺のもう一人の戦友だ。それを俺たちの前に置き、電源を入れる。
「語らうのは後にしよう。友よ、時間だ」
「時間……? そうか! 今日って――」
「あぁ、俺たち待望の『最新話』が始まる」
僅かな沈黙の間、彼の中には様々な思いが交差しただろう。喜び、困惑、幸福、最後に彼は笑顔を見せ、無言のまま頷いた。
しばらくの砂嵐の後、やがて映し出される映像と流れ出す主題歌。小さな画面の中で、我らが女神は優しく微笑んでいた。
百合で繋がる人と人
百合は世界を救う