漫才・教祖
聖者物を書きたいと思ったら飛び出してきた漫才。鬼が出るか蛇が出るか、とは良く言ったもので。書いてみたら漫才になっちゃったって感じ。鬼が出るか蛇でまなく、鳩が出てきたって感じ。
登場人物 教祖、教団幹部(以下、幹部)
幹部
「教祖様、何か重大な相談があるとお聞きしましたがどうなさりました?」
教祖
「うむ。よく来てくれた。実は大事な相談があるんだ、聞いてくれるか?」
幹部
「ええ、なんなりと……」
教祖
「実はな…… ……彼女が欲しいんだ」
幹部
「はあ?」
教祖
「いや待ってくれ、聞いてくれ。私はもう三十なんだ。白髪だって増えた。ギックリ腰にだってなった。この前の人間ドックではポリープだって見たかった…… ……しかも、驚くなよ、二つもだ」
幹部
「いや、それはどうでもいいですよ」
教祖
「どうでもいいとは何事だ! もしかしたら、ガンとかになっちゃたらどうするんだ! 大変だぞ、お前責任持てんのか!?」
幹部
「いや、それは毎年人間ドック行って下さいよ。それに、こう言っちゃなんですが、女なら教団の女でも引っ掻けりゃ良いじゃないですか?」
教祖
「バッカ!! お前。何もわかってないな! お前、もし教団の女と付き合ってデートしてだ。もしお会計の時になってだ、私が割勘にしようと言ったら、その女は絶対失望するだろ? どうだ? 俺は割勘派だぞ?」
幹部
「いや、知りません。デートの時だけ全部払ったら良いじゃないですか?」
教祖
「バカ言ってんじゃないよ!! そんな都合の良い時だけ、自分を偽って良い格好する様な男には私はなりたくないね。それに、結婚する相手には素の自分を受け入れてもらいたいしね!」
幹部
「なんすかそれ、めんどくさい。そんな相談乗ってられませんよ」
教祖
「あ! 言ったなお前! 一体、私がどれだけ多くの信者達の悩みを聞いて来たと思ってるんだ? ある婆さんが、この腰の病気は先祖の祟りだ。どうすればいいかって。正直そんなのどうでもいい。めんどくさいよ、私だって……」
幹部
「教祖様、そんな事を言うもんじゃありませんって」
教祖
「ちゃんと病院に行って欲しい。勝手に先祖のせいにしないで欲しい。て言うか、誰だよ先祖の祟りだって言った奴。ふざけんなよ、先祖が可哀想だろ。先祖に取っては婆さんは自分の子孫だろ可愛くて、いとおしいに決まってんだろ。ちょっとした粗相で祟ったりしねぇよ」
幹部
「恋愛観と言い以外と誠実でピュアなんですね。教祖様は……」
教祖
「何をいまさら。私はピュアもピュアだぞ」
幹部
「では、今度普通の知り合いと合コンでもしますか?」
教祖
「合コンだと!? ふざけるな!? そんな、破廉恥な事をする女とは付き合う気は全く無い!」
幹部
「ええ!? また、なんでですか?」
教祖
「合コンに来る女なんて、きっとろくでもない女ばかりだ。私が教祖だって言ったらだ。きっと、マジ~ 教ちゃんマジヤバ~ とか言って笑われるだけだぞ。ヤバいのはお前の頭だっつ~の。そんな展開、私は絶対ヤダぞ」
幹部
「いやいや、ひねくれ過ぎですって。しかも、教祖って言う気満々じゃないですか? バカなんですか?」
教祖
「何が悪い? て言うか、今バカって言ったか?」
幹部
「言ってませんよ」
教祖
「そ、そうか。まあ、教ちゃんの取り柄なんて教祖と言う事だけだぞ。寝ても覚めても座禅して、糞不味い飯くって、信者の悩みを聞いて、当たり障りの無い返答をして。なんだコレ? 他に取り柄があるなら教ちゃんの取り柄を教えてくれよ!」
幹部
「いや、まあ。ピュアな所じゃないですか? て言うか、教ちゃんてなんですか?」
教祖
「ふざけるのも大概にしろよ。教ちゃん憤慨だぞ。三十にもなってピュアってなんだよ。気持ち悪いよ」
幹部
「いや。ですから、ひねくれ過ぎですって。きっと、良い人が見つかりますって。あと、教ちゃんってなんですか?」
教祖
「なんだよ、良い人って! それじゃあまるで、それ以外の人は悪い人みたいじゃないか! 人を差別するな! 基本、人は皆を良い人だぞ! 多分、この世界の人間、私以外は全員が実は根が良い人だ! そうだ、そうに違いない……」
幹部
「いや、前半は良い事を言ってますけど。後半がひねくれ過ぎですって」
教祖
「いや、きっとそうだ。ヤンキーだって、雨の中捨て猫を胸に抱き、お前も俺と同じなのかい? って言うんだよ絶対。そりゃ、惚れるわ。あ~あ、私も教祖じゃなくて、ヤンキーになれば良かった!」
幹部
「いや、そんな事は無いですって。それに教祖様はヤンキーじゃないですし。あとヤンキー自体が古いですって」
教祖
「ハッ、確かに。だが、それは逆接的に言えば私が今からヤンキーになれば良いと言う事ではないか?」
幹部
「教祖様? 何考えてるんですか? 凄く嫌な予感がしますよ!」
教祖
「そうだ、私がクロスリーゼント教祖ヤンキー・教ちゃんになれば良いんだ!」
幹部
「いやいや、糞ダサいな! なんすか!? クロスリーゼントって? しかも、教祖って言ってるし。しかも、ずっと教ちゃんて言ってるし」
教祖
「完璧だ! これで雨の中で捨て猫を胸に抱けばモテる!」
幹部
「モテねぇよ!!」
教祖
「ええい! 黙れ黙れ! 速くポマード持って来い!!」
幹部
「それも古いよ! 今はもう、ポマードなんて言わねぇよ! 目を覚まして下さい! 教祖様!」
教祖
「ええい! 私は教祖ではない。教ちゃんだ! いや、ウルトラリーゼント教祖・教ちゃんだ!」
幹部
「いや、もう最初と微妙に違いますし。それにヤンキーと言う事はケンカするんですよ! 教祖様、ケンカ出来るんですか?」
教祖
「え? ケンカ!?」
幹部
「ええ、そうですよ! 出来るんですか? グーで殴る奴ですよ?」
教祖
「ええ~ ヤダ~ 教ちゃん、ケンカこわ~い。ここにいる~」
幹部
「もう、いい加減にしろ」
二人
「ありがとうございました~」