今は違う小説を書いてる。それもボツになるかもしれないが書いてる。マジで私の創造力では10本に一本でも続けられる物語が出来ればマシな方なのだなの痛感する。
「所で、貴方は何の様で私に話しかけて来たんですか?」
私の問いかけに、彼は少し申し訳無さそうに口を開いた。
「実は彼を助けて欲しいと思いまして」
彼とは、呪いにかけられて、眠ってしまった騎士さんの事だろう。しかし、なんで私に頼むんだ?
「なんで、私に頼むんですか? 他の人に頼んだらイイじゃないですか? 貴方が頼めば頑張る魔女も居ると思いますよ」
「居たには、居たんですか……」
そう言うと、彼はバツが悪そうに肩を竦めた。そして、ほんの一瞬当たりを見渡した。
その時になって初めて気が付いたか、何人かの魔女がこちらを見ていたのだ。いや、見ていた、と言うより。睨み付けている。と言った方が正しいだろう。
ふむ……
「もしかして、ろくでもない条件でも突きつけられましたか?」
「は、はい。契約書にサインをと……」
それは、ヤバい奴だな。
何らかの魔術による契約書だろう。
「もしかして、それに血判を……」
「いや、押していない。余りにも契約書の内容がアレだったもので……」
アレ? う、うん。よくわからんが、口にするのも憚られるモノなのだろう。
「良かったですね。押してたら、魔術で縛られて、強制的に奴隷にされてたかも知れませんよ」
「う…… やはり、そうだったのか。恐ろしいな、魔女と言うのは……」
彼の顔がひきつる。
まあ、それもそうだろう。
危うく、何処の馬の骨かもわからない魔女の奴隷になるところだったんだ。ひきつりもする。
しかし、これでわかった。
今、私達を…… いや、私を睨み付けているのは、この空を自分の騎士あるいは、奴隷にしようとしている魔女達だな。
一言で言うと、空さんにゾッコンの魔女達だな。
いやはや、面倒な事になっているな、この男も。呪われて眠っているより、居心地は悪そうだな。
そら、私に助けを求めたくもなるか。
「貴方も大変ですね。でも、残念ですが、私は貴方も、呪われて眠りについてる騎士様も助けることは出来ません。物理的に無理ですね」
「ぶ、物理的に無理とはどういう事だい?」
ふむ、これは驚いた。魔術だとか、呪いの基礎知識も無いのか?
まあ、魔女でなければ、それが普通なのかもな?
「先ず、呪いを解くに正攻法で解く方法と、術者を倒す、あるいは術者と交渉すると言う方法があります」
「ほう、ふむふむ」
彼は興味深そうに頷いている。
「研究者なら、正攻法で解く方法を探しますが、私は研究者ではありません。多分、無理です。皆目検討もつきません。次の術者を倒すのも無理です。私は運送担当で空を飛ぶことしか出来ません。そして、交渉ですが。無理です」
「う、ううむ……」
彼は腕を組むと難しそうな表情を浮かべた。そして、何度か低く唸ると口を開いた。
「その…… 交渉ならば、どうにかなるのではないですか?」
「難しいですね。呪った本人を眠らせていると言うことは、交渉の余地が無いことを意味してると言って良いです」
私の言葉に空さんは首を傾げた。
恐らく、今の言葉に疑問を思ったのだろう。補足して、説明する必要が有りそうだな、
「本来、この交渉とは呪われた本人が、呪いを解く為に用いる方法です。『もう何々をしないと約束するから、この呪いを解いて』とか。そして、術者からしたら、その『何々をさせない』事が目的なので、それが完遂される契約が成されたら呪いは解いておさらばって手筈です」
「ううむ、呪いとそう言う物なのか?」
「この手の呪いは大概そうですね。殺すことが目的なら。直ぐに呪い殺すか、直接殺した方が効率が良いのでね。だから、それ以外の目的があったんでしょう。しかも、眠らせてると言うことは、その目的に交渉の必要性は無かった、と言うことですね」
あるいは交渉と言う段階を踏んだ後だったのか……
まあ、大方、眠らせてる間、ほかの魔女との接種を封じたかったのだろう。他の魔女の物になるのを防ぐために……
そして、葉月本人は今頃工房で惚れ薬でもシコシコ作って、騎士様を自分の物にしようと耽ってると言った所だろうか。
ワンチャン。この空と言う騎士が本当の目的で、こいつが『自分が奴隷になるから、呪いを解いて欲しい』と交渉しに来るのを待ってる可能性もあるが……
多分、これは違うだろうな……
そんな、まどろっこしいことは基本しない……
「はい! これが物理的に私が貴方の頼みを聞けない理由です!」
「ううむ、魔術だとか、呪いと言う世界は難しいな……」
ま、そう言うことだ。
私は彼に笑顔を向け、これ見よがしにバイバイと手を振ってみせた。
「じゃあ、頑張ってね騎士さん!」
私はそう言うと、その場から立ち去ろうと。おまむろに歩き出した。
さてさて、ここからさっさと、ずらかるぞ。他の魔女に目をつけられては、私の命も危ないからな。
下手に怒りを買って、カエルとかにされたら、たまったもんじゃないからな。
「ちょっと待ってくれ!」
その時に、不意に空さんが私を呼び止めた。おもむろに振り向くと、彼は朗らかな笑顔をこちらに向けていた。
な、なんだか少し不気味だ。
結構、突き放した言い方をしたつもりなんだがな。なんでニコニコ笑ってるんだ?
「な、なんですか?」
「貴女のお名前は?」
あ、そう言えば、自己紹介がまだだったか……
正直、する必要も無いと思うのだが……
「か、楓です」
「そうですか、楓さんですか。良い名前ですね。もしよければ、あの呪いを解けそうな人を紹介してくれますか?」
……こ、コイツ。思ったより図々しいし、めんどくさい奴かも知れない。
有栖ちゃんなら可能かもしれないが……
「……し、知りません」
知らない。有栖ちゃんには迷惑をかけたくない。嫌われたくない。
「本当ですか?」
そう言うと、彼はいつの間にかに私の目の前に来て、コチラを見下ろしていた。
「ひっ!!」
こ、コイツ。思ったより図々しいし、めんどくさい。
そして、何より背がデカイ。
こ、こわっ!!
男、こわっ!!
「わ、私は知りませんよ! 知りませんからね!」
苦し紛れに、その言葉を吐くと私はその場を後にしたのだった。