ポストアポカリプスがやりたかった、でもできなかった。頑張ったんだよ。でも頑張れなかった。そんな、作品。
建物とも瓦礫とも言えない。そんな中途半端な塔達が建ち並ぶ場所。
私達は瓦礫の森と呼んでいる。
数百年前程前には、この塔に集まって沢山の人々が暮らしていたらしい。
本当のところはわからないが、恐らく本当の事だろう。昔、教えられた時は半信半疑だったが、実際に現地に赴くと色々と分かることがある。
フライパンだったり、鍋であったり。ぬいぐるみの残骸があったりする。殆どの物が原型を留めていないが、時折、昔の情景を思わせる物に出会う。
「……可愛い」
猫のぬいぐるみだ。
恐らく、黒と白の模様だったのだろう。今はくすんで、唯の灰色の猫になってしまっている。
でも、これは、かなり綺麗に残っている方だ。
これは……
浴槽だろうか?
私は先程まで猫が居た所を見詰めた。
そう、この浴槽と思われる物の底で一匹ポツンと居たのだ。
正直、他の物も風化してしまっているので何でこの子が嫌いに残っているのか想像がつかない。
その時、不意に足音が聞こえた。
小さな小さな足音だ。
少し、当たりを探ってみるが誰かが居たと言う気配はない。獣だろうか……
それとも……
「お姉ちゃん……」
突如として、声が聞こえた。
振り替えると、先程まで私がいた洗面所の入り口に小さな女の子が立っていた。
ああ、そうか……
「貴方が、この子が飼い主さんですね?」
そう訪ねると、女の子がこくこくと小さく頷いた。
「うん、チョコって言うの」
「そうか、チョコちゃんか」
私がそう言うと女の子は何やら、モジモジとしだし何やら言いたげに私を見詰めた。
「どうしたの?」
「チョコちゃん、持ってちゃうの?」
私は急いで首を振ると女の子の前にチョコちゃんを置いてあげた。
「大丈夫、持っていったりしないよ。だって、チョコちゃんの飼い主は貴女だもんね」
「うん、ありがと……」
そう言うが女の子はまだモジモジしている。
「どうしたの?」
「私ね、もうチョコちゃん触れないの……」
私は何も言わずに頷いて見せた。
「もう、チョコちゃんのお世話も出来ないの……」
「うん、そうだね……」
そうか、この女の子はそれが心残りでこの場所に留まってたのか。
「魔導書」
私は本を開くと、女の子に話し掛けた。出来るだけ優しく、怖がらせないように。
「もう、ミユちゃんは自分が死んじゃってるのはわかってる?」
女の子は下を向きながらこくこくと頷いてみせた。
やっぱり、頭の良い子だ。それなのに、ずっとここに残ってたんだ。
「なら、最後にチョコちゃんのお世話させてあげる」
「本当?」
私は小さく頷く。
「だけど、これが最後だよ。これが終わったら、お父さんとお母さんの居るところにチョコちゃんと一緒に行くんだよ。約束してね」
「うん! 約束する!」
「マッチ売りの少女」
その瞬間、本の中から暖かい炎が溢れだし、私達を包み込んだ。
「わあ、暖かい! お姉ちゃん、これなぁに?」
「これはね、チョコちゃんと会うための魔法だよ」
その時、何処からか猫の鳴き声が聞こえてきた。
「あ! チョコちゃんだ、チョコちゃんの声だ!!」
そう言うと、彼女は駆け出して行ってしまった。
そうこれは唯の幻、まやかしだ。
だけど、彼女にとっては魔法の様な物だろう……
「あ! チョコちゃん、こんなところにいたんだ、さあお父さんとお母さんの所に行くよ!」
そんな彼女の声に答える様にして猫の鳴き声が聞こえる。
「お姉ちゃん、ありがと……」
そして、何も聞こえなくなった。
もう、何も聞こえない。静寂が当たりを包んでいる。何故だろうか、先程よりも無性に寂しくなったような気がする。
その時、不意に猫の声が聞こえた。
私は驚いて当たりを見渡しが、確かに存在するのは猫のぬいぐるみだけだった。
そっと耳を済ますと夜風に吹かれて何かが擦れる音が聞こえた。
それが猫の声に聴こえたのかもしれない。




