転生王子13
人の顔面の皮を剥いだらその下がどうなっているのか想像も付かない。たが少なくとも目の前にあるそれは人の革の下に有るものでは無いことだけは容易に想像がついた。
異常なまでにのっぺりとした顔面。
鼻があるであろう位置には二つの穴だけがあり。瞼もなく唇もない。耳のある位置にも存在するのはただの穴だけだった。そして、酷くのっぺりとした顔はやけにつっぱており、脂ぎっているかのようにてかてかと光っていた。
「お、王子…… な、なんなんですか、これは……」
「……」
俺はと言うも普通に言葉を失ってしまった。ゲームでこの風体の明言はされていたが、目の前に現物が現れると流石に来るものがある。
まるでムンクの『叫び』の様な風体と言えば良いのだろうか。それでもかなりマイルドな説明にはなるが、とにかくそんな存在が目の前に現れたんだ。
「『黒の刃』はこうやって、成り代わりを行うんです。人を殺し、その者の皮を剥ぎ、その皮を被る。その為に自らの顔を剥ぎ焼き潰すんです……」
こんな感じの説明でよろしいだろうか? とアルザックに視線を向ける。すると、アルザックはただ静かに頷いてみせた。
「と言うことは、陛下もすでに……」
アイリスが自らの考えが信じられないと言った表情を浮かべこちらを見る。しかし、それを否定するように俺はアイリスの考えを肯定する意味での頷きをする。
「そ、そんな……」
一同が信じられないと言った表情を浮かべる。しかし、その表情は今までの信じられないと言った意味合いの表情ではなく。そんなおぞましい所業をする者達が存在する事を信じられないと言った表情をしている。
全員が余りの衝撃に呆然としている。
「して。若様、これからどうしますかな?」
アルザックが不意に問い掛けて来た。
それに俺は思わず、え? と言った表情を浮かべそうになる。
しかし、そこは何とか耐え。それっぽい顔をこさえてみせる。
「正直、城はすでに堕ちたと考えた方が良いでしょう。この様な手段を取られてはいくら歴戦の騎士とは言え一溜まりもない……」
そんなの当たり前だ、見知った友人であったら背後もみせよう。しかも、それが背中を預けて戦った戦友なら尚更の事だ。
ある意味でそう言った間柄の騎士達にはこれ以上に効く戦略はないかもしない……
「では若様は城を国を諦めると言うのですかな?」
「ああ、諦める」
アルザックの問い掛けに間髪いれず答えてみせる。
ここは迷っていられる問題ではない。中途半端に対応すればろくでもない結果に終わる。誰が『黒の刃』かもわからない、見分ける手段もない。
物理的にどうしようもない。
本人だけがわかる質問でもすれば良いだろうが、そんな悠長なことをしてる間に首が飛ばされるのがオチだ。最早、それなら放っておいた方が良い……
「お、王子! それはつまり、城の騎士達は見捨てるってことじゃ……」
「ええ、見捨てます」
ラッドの言葉を遮る様にして言葉を発する。ラッドは目を見開いてこちらを睨み付けている。
そして、何を考えたのか剣を抜きこちらに向けてきた。
「ま、まさか…… 王子も『黒の刃』に成り代わられて……」
思わず身構えてしまう。
確かにそう言うと考え方も出来る。なんなら、目茶苦茶芯をついてる。肉体はルクスでも中身は全くの別人。『黒の刃』のやっている事と殆ど遜色ない。
疑われても仕方がない、それに……
「そう言えば、王子は昔はそんな口調じゃ無かった!」
そう言って、もう一人の若様騎士が勢いよく剣を抜いた。
不味い、不味いぞ。選択肢を誤ったか。不必要な所で疑われてしまうとは墓穴を掘ってしまった。
続いてアイリスが剣を抜き構えた。
「貴方達、二人とも冷静になりなさい! 王子は本物です。あれ程の剛剣を振るえる人間がそうそう存在する物ですか!」
そう言うとアイリスが二人の騎士に向かって剣を構えた。
それに少し狼狽えたのか構えた剣先が僅かに揺れる。しかし、最終的に剣は下ろすことなく、尚もこちらに構えたまま声を挙げた。
「だが、城を、国を、騎士を、捨てると言っているのだぞ! これが、あの勇猛果敢、剛剣、荒武者と呼ばれた王子か!? そんな馬鹿な話があるか!!」
「落ち着けラッド!!」
気付けばアルザックも剣を抜き俺の前に立っていた。アルザックは何とかラッドを落ち着かせようと手で落ち着くようにと諭している様に見える。
しかし、それでとラッドの感情の昂りを押さえることは出来ないのか彼は剣を構えた腕を下ろすことはなかった。