転生王子12
アイリスの言葉に暫しの間、沈黙が訪れる。
その沈黙を破るかの様に若い騎士が立ち上がりながら声を挙げた。
「陛下に限ってそんなことが有る訳ない! 騎士王とまで呼ばれた高名な騎士である陛下だぞ! きっと、何者かにそそなかされたに決まってる。きっと、直ぐに自らの過ちに気づいて……」
その時、アルザックの低く重たい声が彼の声を遮った。
「ラッド…… 少し、黙れ……」
「で、ですが!」
「いいから、黙るんだ……」
「……はい」
そう言うと、拳を握り締めながら彼は大人しく腰を下ろした。そして、ほんの少し沈黙の後、アルザックが俺に視線を向けた。
「若様はどう思われますか?」
俺ぇ? ここで俺ですかぁ?
いやいや、どうもこうもありませんよ。て言うか、俺は答えを知ってますし。
ええ? なに? ここでネタバレしても良いの?
どう、え? どうしよう? どうしましょう……
「あの、アルザックさんはどうお考えで?」
「申し訳ありません。私は先ずは若様の現状での判断をお聞きしたいのです」
ぐ、な、なんだそれは……
それはネタバレしろってことなのか……
それとも物語を忠実に進めろって事なのか……
て言うか、物語の前日譚みたいな感じだから、忠実もクソもないぞ。こんな場面の言及一ミリもなかったし……
一体、どうすればいいんだ。正解はなんなんだ……
思わず、一同を見渡す。全員が不安そうな顔をしている。アイリスに至っては自分の吐いた言葉に罪悪感を覚えているのか今にも自殺してしまいそうな表情をしている。
こんな状況下でネタバレを配慮するだのと言ってられる訳がない……
「あれは恐らく『黒の刃』です。皆さんはその存在を御存知ですか?」
俺の問い掛けに一同が首を横に振るう。
やはりそうか。皆知らないか。なら、これは純然なるネタバレ行為になってしまうがしかたない……
そう思った、矢先。アルザックが口を開いた。
「驚きましたな、若様。よくぞ、その存在を調べ当てましたな……」
俺が思わず、目を見開く。するとアルザックは黙って頷くと口を開いた。
「まだ大戦の世の時代。多くの騎士が『黒の刃』の手によって命を落としました。今から四十年も前の話です。今の世代の騎士達は知るよしもありません。私も四十年前にその姿をだけですが見たことがあります…… あれは間違いなく『黒の刃』です」
「……知っていたんですか?」
俺がそう言うと、アルザックは笑みを浮かべ頷いた。そして、直ぐに緩んだ顔を引き締め俺に向かって口を開いた。
「『黒の刃』の存在を知ってると言うことは。若様は既に陛下が……」
「ええ、恐らく。既に別人となっているでしょう……」
俺のその答えにアルザック以外の一同が驚きの声を挙げる。それも無理はない。俺だって物語の内容を知ってなきゃ、そういう答えは出さない。
「若様、あの影達の遺体を改めますか?」
「……ええ、一度その目で見てみると良いでしょう。遺体が回収されてなければ、ですが……」
俺とアルザックのやり取りを他所に、他の者達は不安そうにお互いを見合せている。俺とアルザックはそんな一同を他所に二人で地下通路へと戻り『黒の刃』だった者の遺体を運び出した。
そして、一同の前に遺体を下ろした……
地下通路は薄暗くよくわからなかったが、遺体はどうやらフード付きの黒いローブを纏っており。その上、顔は革のマスクの様な物を着けており素顔がわからないようになっている様だ。
「さて、お顔はどんな顔をしてますかね……」
俺は技とらしくフードをめくり、マスクを剥ぎ取って見せた。
はてさて、皆さんはどんな反応をするやら。
「あ! こ、この人は!」
そう言って、先程ラッドと呼ばれていた若い騎士が声を挙げた。どうやら、この顔の人物に心当たりが有るようだ。
「この人を知ってるんですか?」
「知ってるもなにも、俺と同じ騎士団の団員だよ! まさか、この人が『黒の刃』だったなんて……」
うん、説明の手間が省けて助かる。俺はアルザックに視線を写す。すると、アルザックは黙って頷くと口を開いた。
「ラッドよ。決めつけるのはまだ早計と言う物だぞ。そうですな、若様……」
俺はアルザックの言葉に頷くと、ナイフで遺体の首元に切れ込みを入れる。そして、その切れ込みに指を突っ込んで思い切り顔面の皮を剥いで見せた。
そこから現れたのは世にもおぞましい者だった……




