突然羽が生えて空を飛ぶ。この勢いの良さは買おう。しかし、これからどうすればいいのか。それを言って欲しい、オメエは何をしたいんじゃ?スローライフか?それとも魔王を倒すんか?
「貴様がこの地で不振な術を使っていると言う女だな?」
余りに突然の問い掛けに「はい?」みたいな顔をしてしまったシャルロットだった。取り敢えず、シャルロットは一度、冷静になり、そう問い掛けて来た人物に焦点を当てた。
年の頃は二十代の後半程度だろうか、青いサーコートに腕と足を覆う鎧兜。銀の髪をピッチリと整え、その顔も厳格そうな険しい表情をしている。そして、その腰には物騒にも一振りの剣がぶら下がっている。
なんとなくだが、シャルロットは厄介そうな相手だなと思った。
なので、シャルロットは凄い勢いで飛んで逃げ出した。これは何かの比喩でもなく、文字通り飛んで逃げたのだ。
翼を生やして、バサバサと飛んで逃げたのだ。
「なっ!!」
厳格そうな顔をした男の表情が、驚きの声と共に驚愕の表情へと変わる。
なんでそんなことが出来るねん。と、突っ込みを入れたいのはわかる。
実はオスローから力の欠片を貰った際に過去の記憶と共に、飛行能力を獲得していたのだ。
ただ、糞程疲れるので普段は使わないでいたのだ。だが、明らかに厄介そうな奴が現れたので飛んで逃げてしまったのだ。
「まっ!! 待て、貴様は一体何者だ!!」
「へへ~ん! 教えませんよ~だ! バイバ~イ! 怖い顔のお兄さん!」
そう言うとシャルロットはあっかんべーをし、その光輝く翼をバサバサと羽ばたかせながら、天へと姿を消してしまったのだ。
周りの群衆達も一斉に天を仰ぎ。険しい表情をした男も目を一杯に見開きながら、天を仰いいだ。
その場の皆が姿を消したシャルロットを見つけ出そうと空を見詰めたが、再びシャルロットの姿を見つける者はおらず。あるのは雪の様に降り注ぐ彼女が振り撒いた光輝く羽毛だけだった。
不意に厳格そうな男の目の前に、光輝いた羽毛がふわりと舞い降りた。
男はおもむろにその羽毛を手の平で掴もうと握り拳を作った。
しかし、羽毛はするりと男の手から擦り抜け。そのまま、ゆらりゆらりと地面へと落ちていった。
その様を見ていた男が「天使……」と一言だけ呟いた。