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転生王子9

 心臓が破裂しそうだ。


 喉が異様に乾く。

 

 呼吸は浅く、激しくなるばかり。


 あれ程、近づくことを恐れていた戦闘の音が思いの外、遠くに有った事を知り、己の臆病さをこれでもかと痛感させられる。思わず呼吸は荒く浅くなり、急く足は浮き足立つ。


 もっと、もっと早く駆け出していればと、後悔の念が頭を過る。

 それでも、なんとか間に合ってくれと、ただひた走る。


 その時、甲高い金属音が響くと同時に目当ての集団を捉えることが出来た。

 片方は鎧や甲冑、サーコートを纏った騎士数名。もう片方は黒い衣を纏った影の様な集団。間違いない、レイムロックの騎士達だ。そして、もう片方は『死の聖歌隊』が有する暗殺者集団『黒の刃』だ。


 俺は剣を肩に担ぎ、そのまま切り結ぶ二つの集団に勢い良く飛び込んだ。


「全員、伏せろッ!!」


 騎士達が俺の姿を見るなり勢い良く地面に伏せた。そして、それと同時に俺は肩に担いだ剣をそのまま横一線に凪ぎ払い、そのままの勢いで振り回した。


 黒い影の幾つかは俺の剣をもろに受け、血飛沫を上げながら、そのまま地面へと倒れ込んだ。

 やはりと言うかなんと言うか、黒い影達も只者ではないらしく。身を身を翻し俺の剣を避けると、俺の間合いの外へと退避してみせた。


 咄嗟に目の端で現状を見渡し確認する。


 こちらがの戦力は騎士が五人。そして騎士の影に隠れている少女が一人。恐らく、彼女が姫だろう。対して、あちらは黒い影が六人。


 そして、俺の剣により地面に倒れ混んでいる影が三人。


 なるほど、人数的には圧倒的に不利な上に護衛もこなしながらここまで逃げて来たのか…… 

 やはり、レイムロックの騎士は有能だな……

 俺と違って有能だ、それに勇敢だ……


 だが、これならいけるぞ。


「王子! よくぞ、ご無事でッ!」

「ええ!! 皆さんも、ご無事そうで何よりです!!」


 思わず、既知の親友と再会したかのように声を挙げてしまう。

 

 だが、それが良かったのか、騎士達も嬉しそうに笑顔を浮かべている。そして、全員が全員、立ち上がり剣を影達へと向けた。


 いいぞ、士気も申し分ない。

 数は六対六。十二分以上にやれる筈だ。

 俺も大剣を構え直し、臨戦態勢を取る。


 しかし、そう思った矢先のこと。影達はおもむろに後方へと後退り通路の奥へと姿を消し、やがては音も無くなり、その存在を闇の奥底へと消し去ってしまった。


 暫し沈黙と緊張の間な訪れる。


 そして、何も来ないことを確信すると、溜め息と共に肩と剣を下ろした。


「ふう……」


 その瞬間、俺の後方で歓声が揚がった。


「流石は王子!!」

「やはり、剛剣と呼ばれたその剣裁き!! 伊達ではありませんな!!」

「王子!! きっと、生きていると信じておりました!!」

「さながら、血飛沫を纏った竜巻でしたな!!」


 一斉に騎士達がこちらを褒め称えてくる。恐らく、これがかの有名な奴である。流石は王子、略して“さすおじ”だな。

 さっきまでビビってた癖に、これでイキるとマジでダサくなっちゃうな……


「いやぁ…… それより、皆さんこそよくぞ御無事で……」


 取り敢えず、誉められなれてない現代人の典型なんで思わず微妙な反応をしてしまう。嬉しがる訳でもなく、謙遜する訳でもなく。一番、反応に困る受け答えをしてしまう。

 見るとやはり、騎士の方々も微妙そうな顔をしている。まさに「なんだコイツ?」って感じの顔である。まあ、仕方ない。俺でも「なんだコイツ?」ってなるもん。

 

「御兄様……」


 鈴を鳴らすような小さな、しかし、それでいて耳障りの良い声と共に俺は割れに帰った。そうだ、俺は彼女を助ける為に駆け出したんだ。


 声のした方を見ると、サーコートを纏った女騎士にもたれ掛かる様にして一人の少女がこちらに安堵のような表情を向けていた。

 金髪の緩く波を描いた髪は夢で見た時よりも遥かに長く細かく手入れを晴れた金糸の糸の様に輝いており。金色の瞳は大きく濡れたような艶やか光を放っている。

 その優しく艶やかな瞳は少し疲れた様な笑みを浮かべている。


 見た所、外傷は無いようだ。

 俺は思わず彼女に近寄る。


「大丈夫ですか? 怪我はありませんか?」

「ええ、御兄様のお陰で今も命を保っております……」


 よかった。どうやら無事だったみたいだな……

 

 しかし、それにしても彼らはどうしてこの通路を使っていたのか。そして、あの『黒い刃』の刺客達は一体……


 物語は一体どの段階なんだ?

 いや、だけど取り敢えずは……


「皆さん。ここで立ち止まっているのは危険でしょう。取り敢えずは早く外に出ましょう」


 俺の言葉に異論が有るもなく、騎士達は無言のまま頷いた。そして、俺達は地下通路を後にした。

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