転生王子5
森の中を宛もなく歩いていると、やがて整備された道を見つけることが出来た。恐らく馬車道か何かだろう。
この道を進めば街にはたどり着けるだろう。ただ、どちらに進むかと言うのは重要なのだが、いかんせんなにもわからない。どちらに進むが吉か全くわからん。
全くわからんのだから、仕方あるまい。
取り敢えず。鞘に入った剣を地面に立て、それが倒れた方に進む事にした。
これもまた冒険っぽくて良いだろう。
だだっ広い草原が眼前に広がる。地面が緩やかに弧を描いている様にすら見える広大な自然。所々に思い出したかの様に生えている木々達。そして、無限に続くかのような長い馬車道。
正直、どれだけ歩いたのかわからない程に歩いた。しかし、恐ろしい物で。この肉体は疲れ知らずらしい。鍛え方が違うのか何なのか知らないが全くと言って良い程に疲れない。
「全く、すげぇなコイツは……」
いや、夢だったらむしろ疲れる方がおかしいのか? そうだとすると少しだけだが疲れはする。となると、おかしいな、とはなる。
まあ、いいや。兎に角、今は出来ることをやりますか……
……暫くすると道の畔に小さなログハウスの様な物が現れた。そして、そのログハウスの近くには寄り添うように大きな木が一本だけ立っている。
小さなログハウス…… ドアはついてなく、中が除けるようになっている。なんだろう、公衆便所…… そう、自然公園の中の公衆便所みたいな感じの造りをしている。この例えは、まあ、不適切だろうけど、いいだろう。
取り敢えず、中を覗いてみる。
中には薪だの、火付け用の枝等が壁に積み上げられている。おそらく、旅の野宿のお助けアイテム達がここに置いてあるみたいだ。良く見るとボロいが幾つか鍋も置いてある。
はてさて、これらは勝手に使っていいものだろうか?
見れば、小さな井戸もある。
言われてみれば、喉は乾いている。
外国の水は飲んじゃいけないとはよく知られたことだが、ここの水はどうなのだろうか……
取り敢えず井戸の中に桶みたいなのを投げ込み水を汲んでみる。そして、恐る恐る桶の中の水を除き込む。
見た目は綺麗な水。昔、タイに行った時は歯磨きの時に口をゆすいだだけで凄い腹を壊したけど、ここの水は大丈夫だろうか……
思わず、昔のおぞましい記憶が甦る。
いや、駄目だ。ちゃんと煮沸しよう。そうしないと最悪死んでしまう。そう決めると一端は顔と手を洗うだけに留めた。
ただ、それだけでもスッキリする物で思わず溜め息が漏れた。
「ふぅ」
そう、一息ついたのも束の間。なにやら、外が騒がしくなってきた。
うん、確かこう言う休憩所みたいな所には定期的に人が訪れるから盗賊や荒くれ者の類いが待ち伏せしてると聞く。
なんせ、主人公達の一番最初の敵はこう言う休憩所で休んでいた所を襲ってきた盗賊達だったからね。
……と言う、考えに至って思わず頭を抱える。
「なになってんだよぉ。俺は……」
思わず、自分の額を叩く。
少しは考えろよ、俺。すっげぇあのゲームやり込んだじゃん。三十周位やったよな、確か。なのに忘れるってどういうこっちゃねん。
はあ、仕方あるまい。過ぎてしまったことを悔やんでどうにもならん。取り敢えず、今出来そうな手っ取り早い小細工を考えるか……
と言っても、そうそう上等な小細工なんぞ思い付く筈もなく。仕方なく水を口に含み。鍋2つベルトの間に挟み、背中とお腹の防具へと変換させる。
これで見た目は偉くダサくなったが、防御力は2は上がっただろう。
「うぐ! うぐぐッ!」
よし! 行くぞッ! と言っては見た物の口に水を含んでいるので大変締まらない字面になってしまった。まあ、仕方ない。背に腹はかえられん。
とにかく、今はこの窮地を脱する事だけを考えるんだ。
そう心に硬く誓い、俺は公衆便所みたいな所から歩み出した。