闇に埋もれる一人の少女
酷く暗い闇の中。一人の人影の様な物体が芋虫の様に動く。暗闇の中、もぞもぞと蠢く物に注意を凝らす。どうやら、それは布団にくるまった一人の少女の様だ。
少女の肌は酷く白く、まるで日に焼けていないのだ。その様は病的なまでの白さと言っても過言ではない。
しかし、彼女が病に付しているが故に布団から離れられないのかと言うと少し話は違う様に見える。
彼女は布団にくるまりながらも芋虫の如く器用に這いずり、手近な本棚に手を伸ばすとその本を引っ張り出そうとする。彼女が手に掛けた本はスルリと本棚から転がり落ち、その本は彼女の頭の上にボトリと落ちた。
思わず、少女が「ひぎッ」と苦痛の声を漏らす。弱々しくも鈴を鳴らすような美しい声が暗闇に響く。それは酷く澄んでいて心地好ささえ感じさせる。
しかし、少女は“そんなことはお構いなしに”と今しがた本が落ちてきた頭部をひと撫でする。よく見ると、そこからはほのかに血が出ている。しかし、次の瞬間、驚くべきことが起こる。
少女が傷口をひとなでしたその瞬間、傷口は跡形まなく消え去ってしまったのだ。
そして、少女はまたもや“そんなことはお構いなしに”と言わんばかりの態度で落ちた本を手に取ってみせた。
彼女はしばらくその本に目を通すと再び芋虫の様に這いずり、床に転がっていたペンに手を伸ばした。
そして、次の瞬間。驚くべきことにそのペン先を自分の腕に突き刺して見せたのだ。ペン先はズブリズブリと彼女の白い肌に埋まっていく。
そして、彼女はさもそれが当たり前かの様な態度で腕からペンを引き抜き、そのまま床に血文字を綴り始めた。
何を綴っているのかはわからない。何やら、文字の様でも、模様の様でも有る物を彼女は一心不乱に書きなぐっている。
そして、気付けば彼女の腕にある筈の傷は影も形もなく消えていた。
しばらくすると、彼女は何かをやり遂げたのか溜め息を吐き、遂に布団から這い出てみせた。
ふと、艶の有る美しく輝く白銀の長い髪が布団から零れ落ちる。
そして、布団が彼女の肩から溢れると同時に白く細くしなやかな肩と腕があらわになり。彼女の身に纏う黒いキャミソールのワンピースがさらり揺れる。そして、そのワンピースの裾からは長く美しい足が姿を表した。
美しく妖しいまでの白い肌と白銀の髪が暗闇に異様に浮かぶ。それはまるで暗闇の中に要るにも関わらず、彼女の周りだけがうっすらと光ってる様ですらあった。
彼女は一度深呼吸をするとその目を見開いた。
それと同時に彼女の金色の瞳が暗闇の中でキラリと光る。
すると、彼女は唇に人差し指を当てる。
そして、なんとそれを噛みちぎってみせた。
血が暗闇の中を飛ぶと同時に床に綴られた血文字が突如生命を宿したかのように動き出した。
それは蛇の様に暗闇を舞うと彼女の噛みちぎった指の断面へと目掛けて吸い込まれるようにして入っていった。
彼女はその様子を満足感そうに眺めながら不敵な笑みを浮かべてみせた。
その笑顔はとても美しく妖艶で、どこか危険な香りを纏っていた。