第20話 奇跡を起こす祈り
思わず言葉を失う。
どう答えたら良いのかわからない。
俺は…… アルエは嫌われ者の筈なのに……
な、なんで……
「お、俺は…… 元々奴隷だ…… コキ使われるのは、な、慣れてる…… アルエ、君の嫌がらせなんて、か、可愛い物だったよ……」
そう言うとアレックスは笑ってみせた。
そして、それを皮切りにするかの様にアレックスの呼吸が徐々に浅くなっていった。
わかる……
わかってしまう……
アレックスは、もうすぐ死ぬ……
「き、君の、銀の髪……」
「透き通る様な、肌……」
「星空の様な瞳……」
アレックスの呼吸が更に浅くなる……
「す、好き…… だった……」
「見てくれで…… ホレた……」
そう言うとアレックスは申し訳なさそうに笑みを浮かべた。
どうして、こんな状況で笑えるんだ……
「だ、だけど…… 今の君は、も、もっと良い……」
どうして、彼が死ななきゃならないんだ。
状況を見れば誰だってわかる。彼が誘爆を防ぐ為に腹に爆弾を抱えて被害を押さえ込んだんだ。
「な、仲良く…… なりたかった……」
彼は誇り高い騎士だ。
気高く強い騎士だ。
こんな所で死んで良い訳がない。
「好きだ……」
ふざけるな、何が聖女だよ!
俺にアレックスを救う力が有るってんなら、さっさとアレックスを治せよ!! 治して見せろよ!!
「ア…… ルエ……」
その時、プツンと自分の中の何かが壊れる様な感覚に襲われた。
思考が停止する。自分が自分で無くなった様な、不思議な感覚に襲われる。
ふと、周りを見るとまるで時間が止まったかの様に皆の動きが止まっている。
まるでパントマイム集団か何かだ……
「い、一体何が……」
ーーやっと、通じましたねーー
「!?」
どこからか声がする。とても、近くに感じる。まるで自分から声が発せられてるのかと思えるほどだ。
ーーその通りです。貴方の胸元にある核から貴方に直接語りかけていますーー
胸元?
その言葉と共に胸元に視線を移すと、なにやら俺の胸の谷間が金色に輝いていた。因みに何故だかはわからない。
ーー細かいことを説明してる時間はありません。貴方に私の力を譲渡します。そうすれば、今目の前で死にかけている騎士を救うことが出来ますーー
そ、それは本当か!?
思わず声が上ずる。願ってもない事だ。アレックスを助けられるならそれに越したことはない。
ーーしかし、覚悟して下さい。私の力をその身に、魂に授かると言うことは私と同化する事と同意。もしかしたら、貴方が貴方で無くなるかとしれませんーー
……成る程、そう言うことか。この世界に転生してから、希に自分の考えが他人の考えで上書きされる様な感覚が有ったが、その正体はアンタだったのか。
ーーはい、本来ならば、もっとゆっくりと同化を進める筈でしたが事態は急を要します。直ぐに同化を済ましましょう。大丈夫、精神の手綱は貴方に任せます。私は純粋な力として、貴方と同化しますーー
え? ちょっと待って。
となると貴方はどうなるんですか?
ーー私の存在はここで消え、帰るべき場所へ帰ります。ですが、恐らく、これが最も効率の良い選択です。では、行きますよ!ーー
え! ちょっ、ちょっと待ってまだ心の準備が!
ーーそんな隙は有りません。行きますよ!ーー
その瞬間、頭の中で何かが弾ける様な感覚に襲われた。そして、頭の中をあらゆる感情がうごめいては通り過ぎて行く。
そして、時が動き出した……