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第19話 貴方に捧げる思い

 思わず目を背けたくなる様な光景が目の前に広がっていた。


 本来は身に纏う筈の鎧がひしゃげ、その守るべき肉体を露にするだけだはなく、腹部からは内蔵までもが露になってしまっている。

 

 焦げ付いた内蔵は赤黒く血が滲み、不気味な色を放っている。


 なんとか、出血を押さえようとしているのか、それとも内蔵を彼の腹に戻そうとしているのか、数人の騎士や修道女が傷口を押さえつけている。


「そ、そんな……」


 負傷している騎士の顔を見て唖然とする。

 それは俺が顔と名前を知っている数少ない騎士の一人だった。


「ア、アレックスさん……」


 思わず、声が漏れる。


 しかし、そんな俺の言葉に反応を見せる様子も無く、虚ろな目は宙を見つめている。その姿に昨日までの威勢の良い様子は微塵も無く、息も絶え絶えで今にも息絶えてしまいそうな様子だ……


「さあ、アルエよ。聖女の力で彼を治すのだ!」


 カーディナル枢機卿がさも当たり前かの様に口を開く。


 このジジイ…… おかしいとは思っていたが、今回は明らかにおかしい。絶対に間違ってる。もし、俺にアレックスを救う力が有るとするなら、事前に教えて貰わなければどうしようもない。


 俺自身も自分の力を探ろうともしなかったのは悪いが。こんな土壇場になって、当たり前かの様にヤレと言われてもどうしようもない……


 しかし、他の人間からするとそうでもないらしく。アレックスの傷口を押さえつけている騎士や修道女は藁にもすがるかの様な表情で俺の事を見つめている。


 ど、どうすればいいんだ……

 お、俺は……


「ア…… アルエが…… いるのか?」


 消え入りそうな声が聞こえてくる。


「ア、アレックスさん!?」

「ああ…… ア、アルエか…… た、頼む…… ここに、来てくれ……」


 そう言うと、アレックスは弱々しく震える手を宙に伸ばした。


 俺は直ぐ様アレックスの元へと歩み寄り、アレックスが宙に伸ばした手を握り締めた。


「き、来ましたよ! な、何か何か私に出来ることは有りませんか!?」


 するとアレックスは弱々しくではあるが、俺の手を握り返した。

 

 そこには昨日までの力強さは無く、今にもその身体から命が、魂が抜け出てしまいそうな程に弱々しい。


 その余りの痛々しさに目を背けたくなってしまう。


「ア、アルエ…… ひ、一つ聞きたい事がある……」

「な、なんですか!?」


 思わず、アレックスの手を握る手に力が入る。


 そして、アレックスは震える口で言葉をゆっくりと紡ぎ出していった。


「な、なんで…… ア、アルベルトを、せ、世話係に、え、選んだんだ?」

「え、選んだ!? ち、違います!? アルベルトさんはカーディナル枢機卿が選んだだけです!?」


 い、意味がわからないなら。どうしてここでアルベルトの話が出てくるんだ?

 しかし、そんな疑問を他所にアレックスは最後に力を振り絞る様に言葉を吐き出して行く。


「な、なんだ…… そ、そうだったのか…… そ、それを聞いて、あ、安心した……」 

「な、なにが、安心なんですか!? 貴方、今にも死にそうなんですよ!!」


 俺がそう言うと虚ろな目をしたアレックスが、うっすらと笑みを浮かべた。


「ほ、本当に君は変わった…… お、俺の為に、涙を流して…… くれるのか?」

「!?」


 その時、自分が泣いている事に初めて気が付いた。

 止まることの無い涙が頬を伝って落ちていく。


「ああ…… 俺は、し、幸せだな…… 泣いてくれる女が…… い、いるなんて……」


 アレックスの虚ろな目がこちらを確かに見詰めている。

 俺はその目を一心に見つめ返す。何故だかわからないけど、彼のこの視線から目を背けてはいけないと、そう感じる。


 そして、アレックスは力の無い溜め息を吐いた。そして、それと同時に驚きの言葉を口にした。

 

「アルエ…… 君の事が好きだった……」

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