第17話 △アルベルトとレナード
何時もの食堂。何時もの顔ぶれ。何時もの食事。何時もの飲み物。一息つけるはずの食事だが我ながら今日は何時もより何処か心地好い
恐らく、彼女のお陰だろう。これを彼女のお蔭と言って差し支えないだろう。取り敢えず、僕は勝手にそう言うことにする。
「彼女を見て、アルが言ってる意味がわかったよ。彼女、変わったな……」
「ああ。まあ、ただの演技と言う可能性も有るけどね……」
僕は素っ気ない態度でそう言うとパンを千切って口に放り込む。目の端でレナードを見ると、彼は薄ら笑いを浮かべながら僕を見ている様だ。
「よく言うぜ。彼女が変わってから一番に生活を共にしてるのはお前だ、アル。彼女が演技でやってない事はお前が一番に察しがつくだろう。少なくとも俺は演技には見えなかった。かつての彼女なら、アレックスの前に出るなんて事は絶対に有り得ない……」
そう、有り得ない。
かつての彼女なら、騎士の一人や二人取っ捕まえて脇に従え、アレックスが近づいて来たら、直ぐにその騎士を盾にしていた筈だ。
個人的には僕が盾になればそれで良いと思っていたんだが。まさか、彼女本人がアレックスの目の前に飛び出してしまうとは思いも寄らなかった。
「あれは御転婆にも程があるよ……」
自分で言っていて、思わず笑みが溢れてしまう。
あれほど懸命に謝罪を述べる人間も珍しいし、なりふり構わずに突っ走ってしまうのも珍しい。
けれども、真摯にアレックスと向かい合うとしていることは感じられた、それには素直に好感を持てる。
恐らく、レナードも同じだろう。
彼もどことなく満更でもない顔を浮かべスープを流し込んでいる。そして、ひと呼吸置くと口を開いた。
「それにしてもアレックスも、アレックスだよな。見たか、アイツの顔を?」
「顔?」
思わず眉を吊り上げる。
彼の顔に何か異変が有ったのだろうか。物凄い形相をしてはいたが、それ以外は特に気になる所はなかったが……
「まあ、物凄い形相ではあったな……」
僕がそう言うとレナードが呆れたように首を横に振ってみせた。
「違うよ、アル。そう言う意味じゃない。アレックスの奴はずっとお前を睨み付けてたんだ、その意味がわからないのか?」
「その意味とは、どうい事だい?」
思わず聞き返してしまう。すると、レナードは呆れた様に頭を抱えると顔を歪ませて僕を見た。
「お前なあ。アイツは初めはアルエの事を確かに見てた。だがな、お前が挑発してからアイツは凄まじい形相でお前を睨み付けてたんだ。これがどういうことかわからんのか?」
「ん? 何を言ってるかわからないな? それに僕は挑発なんてしてないけど……」
そう言うと、レナードは呆れたと言った様な表情をこちらに向ける。
一体、なんの事を言っているのかさっぱりだし、挑発なんてした覚えもない……
そんなことを思っていると、レナードは呆れと言った表情のまま更に口を開いた。
「まあ、意味がわからないなら、それでいいさ」
「?」
一体、どういう事なのだろうか。
挑発とはどういう事なのだろうか。




