第14話 マジで嫌われてる聖女
マジで嫌われてるとはこう言うことを言うのだろう……
視線が合いそうになると皆が目線を反らしてしまう。騎士とかは仕方無いかもしれないけど、修道女も我先にと顔を背け、何処かへと凄い勢いで立ち去ってしまう。
「我ながら、本当に嫌われてますね~」
「ははは、相変わらず本当に他人事みたいに言いますね~」
俺の横に立っていたアルベルトが笑いながらそう口にした。
昨日の一件以来ギクシャクした感じになるんじゃないかと思ったが、存外そうはならなかった。
むしろ、彼の方から距離を詰めて来てくれているのか、かなり砕けた態度を取るようになってきた。
「いや、ぶっちゃけ。他人事なんですけど、会話までできないと普通に御勤めにも支障をきたしそうなんでね。どうにかしたいんですよね……」
「御勤めですか。確かにそうですね。ところで聖女の御勤めとは何をするんですか?」
それは俺もわからんのよね~ と、首を傾げてみせる。勿論、そんな俺を見たアルベルトが乾いた笑いを向けてくる。まあ、そりゃそうですやよね。
「我ながら、聖女ってのがわかんないんですよね……」
「ははは。それは不味いですね……」
我ながら思わず乾いた笑いアルベルトに見せる。
その時、馬鹿デカい声が辺りに響いた。
「おいおいおいおい、アルエ!! テメェ、よくもまあ、顔を見せられたもんだな!!」
な、なんだ。この乱暴な口調は!?
おおよそ、教会で聞く音量でも口調でもないぞ!?
声のする方向に目をやると、そこには一人の男が立っていた。
男は非常に背が高く恵まれた体躯をしており、その背には大きなだんびらを背負っている。髪は炎の様に燃える真紅の色をしている。
顔は整ったと言うよりかは野性的な雰囲気の顔立ちをしている。かといって巌の様な顔と言う訳でもなく、十二分に格好いいなと思える顔面をしている。
「アルベルトさん。あのデッカイ声の男は一体誰ですか?」
「アレはアレックス。同僚の騎士です。剣の業の方はイマイチですが、見て通りの剛剣の使い手として名高い騎士です。因みに僕の同期です……」
ほえ~ ああ言う人もいるんだな~
とか、なんとか思っているとアレックスはのしのしと俺の方に向けて大きな歩幅で近寄ってきた。
思わず、少し後ずさってしまう。
その時、直ぐ様アルベルトが俺とアレックスの間に入ってくれた。
勿論の事だが、アルベルトとアレックスの両者は面と向かって対面する形になった。
両者の間に剣呑な雰囲気が立ち込める。
そして、始めにアレックスが口を開いた。
「おいおい、コイツはどういう風の吹き回しだ、アルベルト!? オメェ、アルエの肩を持つって言うのか?」
「そうだね、僕は彼女の肩を持つよ。どうだい、文句があるなら剣の稽古でもして是非を決めようか……」
そう言うと、アルベルトは腰にぶら下げた剣に手を掛ける。その一連の動作を見て、アレックスが僅かに顔を歪めてみせた。
そして、アルベルトはゆっくりと剣を引き抜く。
両者の間の剣呑な雰囲気が強まって行く……
「ちょっとまったぁぁぁぁぁッ!!」
思わず、俺は両者の間に入り出来る限りの大声を挙げる。
正直、もっと声が出ると思ったがビックリする程に声が出なかった。そこら辺のカラスとかの方がまだデカイ声で鳴いてるかもしれない……
でも、それでも俺の行為は意味が有ったらしく、アルベルトもアレックスも目を丸くしてこちらを眺めている。
「ア、アルエさん?」
「ア、アルエ…… テ、テメェ……」
剣呑な雰囲気は打ってかわり。よくわからない雰囲気が辺りに立ち込める。いいぞ、この雰囲気がごちゃついた隙を突いて一撃をブチかます。
「アレックスさんッ!!」
「!!」
俺は出来る限りの声を振り絞りアレックスに向けて声を挙げる。やはり、大した声も出ないがアレックスは目を丸くしてこちらを眺めているので効果はあるらしい。
「私は過去の記憶がありません! ですが、今まで皆さんに酷いことをしていたのは聞いてます! 本当に申し訳ありませんでした! ここにお詫びします!」
そう言って思い切り頭を下げる。
どうだ、まいったか!
これが人生で数多のミスを繰り返し編み出した、て言うか始めッから編み出していた即謝罪平謝り拳だ! なんなら、ここで子供みたいに泣きじゃくる事も出来るぞ!
だが、この即謝罪平謝り拳の真骨頂はここからだ!
喰らえい!!
「今後はその様な事が無いよう、出来うる限り努力するつもりです! 決して貴方がたを蔑ろにした様な態度は取りません! 貴方がたを尊重します! もし、そうなっていないと思った時は何時でも言ってください! 何度でも悔い改め、改善して行きます!」
どうだ!! これが俺の本心だあぁぁぁぁぁ!!
そう言って、俺は頭を挙げるアレックスを真っ直ぐ見詰める。これが即謝罪、平謝り拳からの、次からはこんな風に頑張ります拳である。
大体、これをやれば許してくれる。
まあ、今回はまた事情が違うから上手くは行かないかもしれないけど、取り敢えずやってみるに越したことはないだろう。
しかし、アレックスを見ると、彼は顔を真っ赤にして憤慨しているように見える。
「テメェ!! ふざけてんじゃねぇぞ!!」
「ひっ!!」
やっぱり駄目でした!
ま、不味い。どうやら怒らせてしまった様だ。なんだ、この気持ちはデビチルで交渉失敗した時みたいなガックリ感があるな。
折角、頑張って謝ったのにぃ……
俺、マジで嫌われ過ぎぃ……
その時、アレックスの大きな手がコチラに伸びてきた。それと同時にえもしれない恐怖と寒気が背筋に走る。
こ、怖い……
その瞬間、また違う人物の手が目の前に現れ、アレックスの手を制止して見せた。
「まったく、手の掛からない女性になったと思っていましたが……とんだ御転婆娘になってしまったようですね……」
「ア、アルベルトさん!?」