第13話 △アルベルトの想い
何時もの食堂。何時もの顔ぶれ。何時もの食事。何時もの飲み物。一息つけるはずの食事だが我ながら何処か落ち着かない。
恐らく、彼女のせいだろう。いや、これを彼女のせいと言うには余りにも失礼だろう。僕が勝手に気にしているだけなのだから。
「で、どうだったアル。あの女の様子は?」
「……あれは恐らく別人だ」
向の席に座ってスープを口に流し込んでいたレナードが俺の答えに怪訝そうな表情を浮かべた。
それはそうだろう……
だが、あの彼女と接すれば誰だって彼女が以前の彼女と違うことを察するだろう。
最初は優しく女性扱いでもすれば本性の一つも表すかと思ったが、出てきた本性は全く別物だった。
教会の構造からか、一瞥しただけでここを要塞と見抜いてしまった。
それに……
最後の最後で俺が騎士に成り立ての時に心に決めていた信念を思い出させてくれた。
決して、誰にも話さずに心の奥底に隠していた信念を、そして、自らですら忘れかけていた程の奥底に隠していた信念を……
「彼女がどういう人物であるはまだ判別出来ないが、少なくとも今までの様な扱いはしない方がいいかもしれない。取り敢えず、俺は彼女を聖女として扱うつもりだ……」
「成る程ね。いまいち信じられねぇが、お前がそう言うのならそうなんだろうな。俺もそうするか……」
レナードが怪訝そうな表情を緩ませ笑顔を見せながら答える。
正直、彼女が何者になってしまったのかわからない。しかも、それは本人ですらわからないと言っていた。
もしかしたら本当に聖女の魂が宿ったのかもしれない。
しかし、彼女を聖女と呼ぶには少しのトゲがあると言うか、人間臭いと言うのだろうか。聖女の魂が宿ったとは少し考えがたい様にも感じる。
何処と無く、年頃の少女の様な雰囲気も感じられる。だが少女と言っても以前の彼女の様に意地悪で陰険な雰囲気は全く感じない。
むしろ、大人しくも芯の通った強い女性の雰囲気を感じられる。
非常に好感が持てる。僕がそれとなく、偽物の聖女なのではないかと言った時も、怒らない所か全く気にもしていない様子だった。教会を歩いている時も周りの反応を歯牙にもかけていなかった。
昔の彼女であったら、癇癪の一つでも起こしていたろうに。まるで全てを他人事かの様に受け流していた。
確かに、今の彼女の身体に別の存在が宿ったと言うなら他人事だから、あの反応も頷けるかもしれない。
しかし、どうしてもその中身が聖女とは思えない。もしかしたら、彼女には彼女でも聖女でもない、全く違う何かの魂が宿ったのやもしれない。
ただ、もしそうだとしても。彼女の身に宿った何はきっと悪い者ではない様な、そんな気がする。




