第9話 嫌われ者の聖女様
なるほどなるほど……
「私は嫌われとったんかいな……」
思わず一人ベッドの上で頭を抱えてしまう。そらドアの向こうで
でっかい声で会話されたら聞こえますわな。
取り敢えず、ドアの向こうから聞こえてきた情報によりますと、気に入った騎士を取っ替え引っ替え召し使いみたいに扱う、見てくれと、家柄と、御偉いさん方からの受けだけは良い女。
そして、騎士達からはとことん愛想尽かされていると……
総括するとちゃんと終わってる女ってことね……
まあ、過ぎてしまった事だし。ぶっちゃけ、俺にはどうしようもないし仕方がない。父親が後妻と新しく産まれた息子に夢中になって、あーだのこーだのってところ所は俺も同情する。
正直なところ「そこは上手く、よろしくやれよ~」とは思う。
思うけど、多感な御年頃だから難しいよね、可哀想だねと思う。
しかし、そんなこんなで追い込まれた少女は最終的には他者を虐げ愉悦に浸り、教会の御偉いさんにおべっかを使いよろしくやっていたと……
そこでよろしくやる手腕があるなら、実家でその手腕を振るえば良かったのにと思わざるおえん。やはり、そこは肉親相手となると少し難しい物なのだろうか……
て言うか、ここって教会なんだ……
それにしても、やっと少し状況がわかりはじめた。ただ聖女の意味合いと言うか役割はさっぱりわからん。なんなら、まだわからん事の方が多い。
この肉体の持ち主である“彼女”がそう言う悪役令嬢的な感じの女性だったと言うことはわかった。しかし、今の“俺”は一体何者?
いやはや、全くわからん。聖女と言われた所で「はい、私が聖女です!! これから、よろしくね!!」とはならない。普通、そんなこと言うの奴がいれば頭の方がおかしいと思う。
まあ、俺は頭がおかしい訳ではないと思うから。状況の方がおかしい事になっているのだろう。
何故か俺は勝手に記憶喪失になった設定になってるし。まあ、それは良いんだけど。ただ、その設定のせいで、全くと言って良いほど立ち回り方がわからん。
「はぁ……」
思わず溜め息が漏れる。
その時、ドアを叩く音が部屋に響いた。
「は、はい! どなたでしょうか」
「アルベルトです。少しよろしいでしょうか?」
正直、よろしくないけど。この情報過多の癖に情報不足の現状を打破するには少しばかり積極的に動くしかあるまい。
「はい、どうぞ」
「失礼します」
まるで何事も無かったかの様な涼しい笑顔を浮かべながらアルベルトが俺の部屋に入ってくる。よくそんな王子様のスマイルを引っ提げて登場できますわね。
ドア一枚隔てた向こうで俺の悪口を言っておいて。
まあ、俺の悪口と言っても俺本人は関係無いから良いんだけどね…… むしろ、この身体の元の持ち主が御迷惑を御掛けしましたって感じ……
取り敢えず、謝っておくか?
「な、なんか。すいません」
「やはり、聞こえてましたか?」
バリンチョ、聞こえておりました。
こちらこそ、なんかすいません。
互いの間でなんだか気まずい雰囲気が流れる。まあ、そうなりますわな。よかったなアルベルトよ、これが徒党を組む女子達だったならば「せんせ~ アルベルト君がアルエちゃんの悪口言ってました~」「謝ってよ、アルベルト君! アルエちゃんが泣いちゃったじゃない」みたいな感じになってたぞ。
まあ、今の俺には先生もいなければ徒党を組む相手も居ないんだけどね。ここ数日はこの部屋に籠ってましたし。
なんなら泣かないし、中身は女でもない。……
て言うか、聞く話によると悪いのは終始俺だし。
まあ、俺と言っても、この肉体の本当の持ち主のことですけど。
「ハア……」
思わず溜め息が漏れてしまう。
そんな俺の様子を見てかアルベルトが気まずいそうな表情で頬をポリポリと掻いてみせた。
すると、何を思ったのかアルベルトは何かを決心したように頷くたこちらに視線を向け口を開いた。
「どうだい。ここに籠っていてもなんだから、少し散歩でもしないかい?」
「……さ、散歩ですか」
少しばかり視線を上に向けて考えてみる。
それもそうだな、確かにここに籠っていても始まらんし、積極的に動くしかあるまいか……




