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第8話 △アルベルト

 前方から一人の男が近寄ってくる。背は高く、青く光る垂れ目が目を惹く。髪は短く切り揃えた金髪をしており、僕と同じ鎧を纏い。その腰には剣を帯びている。


「よう、アル! 相変わらず、あの厄介な女の御守りか?」

「ああ、レナードか…… そう言う事は本人が居ない時に言ってくれるかい?」


 僕の事を馴れ馴れしく“アル”と呼ぶのはこの男しかいない。


 まったくと溜め息まじりに言葉を紡ぐと、僕は背後にある扉を親指で指してみせた。レナードはそんな僕の様子を見ると怪訝そうな表情を浮かべてみせている。


「へえ、あのせわしない女が大人しく部屋に籠ってるのか、珍しい事もあるもんだな……」


 確かにそうだ。

 果たして、これが何時まで続くか。


 それとも彼女は本当に産まれ変わったのか……


「貴族の娘っつても、順風満帆とは行かないもんだな……」


 そう言うと、レナードは眉を吊り上げて扉を見つめながら続ける。


「まあ、実の父親は後妻と新しく産まれた息子に夢中。邪魔だからって理由でこの教会に送り込まれたって所までは同情するっちゃするけどな」


 確かに彼女の産まれや生い立ちに関しては多少の同情の余地はあると思う、だが……

 そう思っていると僕の考えを口に出して紡ぐかの様にレナードが口を開いてみせた。


「だけどよ、気に入った騎士を取っ替え引っ替え召し使いみたいに扱うのはいかがなもんかね」

「レナード。一応、本人が居るんだぞ……」

「へっ! 関係ねぇよ! 召し使いみたいな扱いをされるこっちの事も考えて欲しいぜ! 見てくれと家柄が良いから御偉いさん方からの受けはいいが、コッチはとことん愛想尽かしてるんだぜ!」


 思わずレナードの口を手で押さえつける。


 そして、直ぐ様彼女の部屋から遠ざけて声が聞こえないであろう所までは距離を取る。

 そこでやっとレナードの押さえつけていた手を取ってみせる。すると、レナードは溜め込んでいた言霊を吐き出すかの様に勢いよく喋りだした。


「なんだよ、アル! お前だってウンザリしてるんだろ? なんたって、お前はあの女の一番のお気に入りだもんな!」

「だから、そう言うのは本人が居ない時に言ってくれって!」


 そう言うとレナードは「ハイハイ」と言った感じで頷いてみせた。まったく、この男はこう言う所がある。体裁と言う物を考えもしない。


「でもよ、幾らなんでもおかしいと思わねぇのか? いきなり、あの女を聖女認定するなんてよ」

「それは確かにそうだが。上の決めた事にとやかく口を出す権利は僕達にはない。上が彼女を聖女と認めたなら、そう扱うべきだ……」


 と言うより、そうするしかない。僕達の様な末端の騎士は何も出来はしない。


「それに……」


 思わず口に出した言葉をレナードが輪唱するかの様に「それに?」と口にした。


 そう、彼女に関しては気になる事が幾つもある。


 いつもならば食事を持って行けば文句の一つも溢れるのだが、あの日以来彼女はただただ「ありがとうございます」と頭を下げて、大人しく食事を食べるようになった。

 好き嫌いも多く、以前は食事が気に入らなかった外からと買ってくるように命令される事も少なくなかったがそれも無くなった。

 

 まだ確信は持てないが、まるで突然別人の様に変貌した様な、あるいは何かが乗り移った様な。


 そう、乗り移った。

 そんな考えが頭に過る。


 もし、この考えが間違っていなかったとしたら、彼女に一体何が乗り移ったのか。それは聖女の魂なのか、それとも……


 とにかく、少し様子を見る必要はあるだろう。


 不意に思考の世界からレナードに視線を戻すと彼は何やら笑みを浮かべている。


「なんだ、レナード。何を考えている」

「いやいや、それはこっちのセルフだぜ。アル、お前、何か企んでるだろ?」


 思わず溜め息が漏れる。

 そう、この男はこう言う所で勘が鋭い。

 あるいは僕が隠し事をするのが下手くそなのだろう。


「まあ、そうだが。当面は様子見だよ」


 だが、それは別段問題じゃない。

 何故なら……


「へえ、面白そうじゃねぇか。様子見が終わったら、俺も仲間に入れてくれよ」


 そう言うとレナードは不適な笑みをこちらに浮かべた。

 僕はその表情に答えるように笑みを浮かべた。


 そう僕達は騎士候補生の時代から隠れて何かを企んでは悪さをする悪友だからだ。

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