第5話 ▲暗闇に潜む悪意
潮騒の音色が心地よく響く大海原。その大海原の中にポツンとそびえる絶海の孤島。
何かに取り残されたかのように孤独にそびえる島からは空気を震わすような鐘の音が響いてくる。
鐘の音は岬を臨むように建てられた教会から響いている。
石造りで作られたとても巨大な教会。石工職人が一つ一つ丁寧に研磨したのだろうか。床には様々な色合いの石を敷き詰め、幾何学模様を表現した装飾が施されている。
さも、それが当たり前かの様にその床を踏み歩む人々。修道服を纏った修道女達や鎧を纏った騎士、法衣を纏った司祭達が優雅に行き来している。
礼拝堂にはステンドグラスを通した朝日が射し込み、部屋中に神秘的な空気を漂わせ、修道女達が祈りを捧げている。
そんな中、何処とに有るともつかない湿った様な暗く深い地下室で数名の男達が顔を付き合わせていた。
余りにも暗く、彼等が誰であるかは検討もつかない。しかし、彼等が何やら怪しげな話をしていることだけはその状況から明らかだった。
「どうだ首尾は順調か? 聖天使アルエラが転生を成したそうだが?」
暗がりに溶ける様にも立っている人影の一つが声を発した。地の底より響く様な声。まるで人では無いような、そんな雰囲気を醸し出していた。
「ああ、順調だ。上手く行った。奴め自分が誰かもわかっておらん様子だ。自らが崇拝するメティアナの存在すら忘れていたよ……」
「ふふ、奴の転生させる為の聖遺物に細工をするのは正解だったな……」
そう言った、もう一人の人影は手の平から羽をモチーフにした銀の首飾りを出した。
精巧に造られた銀の羽。しかし、その羽には何かがはめ込まれていた様な小さな窪みがあるが、その窪みには今は何もはめ込まれていない。
「くくく、これでアルエラは我々の操り人形だ。それに、もし奴が記憶を取り戻したとしても、聖遺物の半身は我々の手にある」
「聖遺物さえ、破壊してしまえば現世には留まれんからな。奴の生殺は我々が握ったも同然」
そう言うと人影は羽の首飾りを強く握り締めた。その様子を見て他の人影が乾いた笑い声を静かに漏らした。
「だが、くれぐれも注意しろ。アルエラの力が半分とは言え十全に使われば厄介な事になる。我々に牙を向ける気配があれば直ぐにでも始末するのだぞ……」
「ふん、無論……」
そう言葉を告げると一人の人影はその場を後にする。暗い地下室を後にした人影はどこからともなく教会の表舞台へと姿を表した。
そして、その人影が正体を表し教会内の回廊を歩き出す。その人影に一人の司祭が声を掛けた。
「カーディナル枢機卿、少し御時間よろしいですか?」
「うむ、どうした?」
人影であった男はそう呼ばれると振り返り、優しげな笑顔を司祭へ向けたのだった。




