会話率100%を目指した小説。二番煎じ処の騒ぎじゃないのでボツリヌス菌。冥獄界行きです。
このゲームに限界はない。みたいなキャチコピーに引かれた訳ではないが、本当に何でも出来んのかよと思いながらも、友人とか色々な人達に進められ、そのゲームをプレイすることにした阿左美勇治。
ギアなる物を妹から借り受けた勇治は、そのままゲームの世界へとダイブする。
どちらかと言うと、突っ込み処満載のゲームシステムに悪戦苦闘し、悪態を吐きながらも別にゲームの世界で成り上がるつもりの無いから、それならそれで良いやと開き直る勇治だった。
「ああ!! これはアカンは!! 剣を振っても、へにょわ~ん、へなへな~ みたいになってまうわ!!」
《職業を選択してください》
「じゃかましいわ、ボケ!! 見てわからんのか、動きがへなへなになっとんねん、ラグっとんねん!! これが最新型のフルダイブ式ゲームの挙動かえ!?」
《職業を選択してください》
「オウム返しかえ!! もしもーし、ラグっとりますよ!! 良くある夢みたいに上手く走れなくなってますよ!! 運営さん、聞いですか!!」
《職業を選択してください》
「あー!! もう結構でございますぅ!! 全く、いけ好かんわ。お前の声がゲームだと踏まえても腹立って来た。このチュートリアル空間もなんか好かんわ!! 何にも無いし。なんやのこれ、円形闘技場ってやつ? それにして誰もおらんし、錆びれてるし。柱とか、おっかけてもうてるやん。なんか、物悲しくて嫌いやわぁ!!」
《職業を選択してください》
「ああ、アカン!! 何か悲しくなってきた。こんなにラグだらけの動きでどの職業に成れっちゅうねん。なれる職業が無いわい!! こんな気持ちになるんは進路希望の時で沢山やわ、勘弁してくれや!!」
《職業を選択してください》
「はいはい《職業を選択してください》ね。職業に着かないと、この空間から出られないんやろ? 知っとる知っとる、社会は厳しいですわ。かれこれ二十分も頑張っとりすけど、ラグが酷くて職どころではないですわ」
《職業を選択してください》
「本当は俺も『ウォーリアー』とかやりたいねん。剣でスバッ!! ザシュッ!! って、やりたいねん。でも、ラグが酷くてへにょへにょ~ん ってなってまう、これどないしたらいいん? それでも《職業を選択してください》なん?」
《職業を選択してください》
「ですよね。まあ、しゃあないわ。それなら、幾分かマシやったコレにさせて貰うわ。『仮面を纏いし時。獣の力をその身に纏う“獣術師”。我等は彼等を“ビーストシャーマン”と呼ぶ!!』誰やねん、我等って」
《『ビーストシャーマン』で良いですね》
「ああ、ええよええよ。なんか知らんけど“動物に変身”しとる時はラグが少なくなっとったし。取り敢えず、これで行ったるわ。全く、返品とか効くんかいな。絶対、返して貰うからな、9800円。全く、何が『今ならセール中につき半額!! なんと、基本プレイ、三ヶ月無料』やねん。基本動作がガクガクヘニョヘニョなんじゃい!!」
《貴方の職業はビーストシャーマンでよろしいですね?》
「はあ。取り敢えず、ちょっとやってみて。駄目だったら、返品させて貰うか……」
《ようこそ、El,stellaの世界へ!》
「じゃかましいわ!! 終いにはブッ殺すぞ!! 何が『El,stella』略して『lll』じゃボケ!! 上手いこと略したと思うなよ!!」
☆
「いやー 開始早々、便意を催しログアウトし申した!! 我ながら、スッキリとした顔付きでログインしとるんちょいます? もしや、スッキリしたことにより自分の脳味噌に何かしらの異変が起きて、普通のプレイヤーの様に歩ける様になったんとちゃう? いやっほーい!! ぶべぇ!!」
「クスクス。何あれ、変なの~」
「おい。笑うなよ~ まだ、操作に慣れてないんだよ~」
「笑うなッて言ってもよ~ アレ、わざとやってんだろ。酔っ払いの真似だよ~」
「違うよ~ 操り人形の真似だよ~」
「ちくしょう。皆して馬鹿にしくさりおって。お宅らに目にもの見せたる。“秘技! 黒い悪魔!”カサカサ、カサカサカサ、カサカサカサカサ……」
「うわ~ なんだコイツ~ いきなり、ゴキブリみたいな動きし始めた気持ち悪い~」
「カサカサ、カサカサカサカサ、カサカサカサカサカサカサ!! ササッ!! カサカサカサカサカサカサ。ズサッ!! カサカサカサカサ、ササッ!! どや!! これが気持ち悪いって言うもんや!!」
「うわ~ なんだコイツ~」
「うわ~ 誰か助けてくれ~ ゴキブリの真似をする“ビーストシャーマン”に襲われてま~す!! 誰か騎士団の人連れて来て~!!」
「カサカサカサカサ!! ザザッ!! ザシュッ!! カサカサカサカサカサカサ!! どや!!」
「どや!! じゃありません!! いい加減にしてください!!」
「あいたー!! 中々のツッコミ!! やるやんけ、お嬢ちゃん。是非とも名前教えてくれや」
「な、何なんですか。この人? 騒がしいと思って来てみれば。これは何の騒ぎですか?」
「あ、『副団長』お疲れ様です。」
「いや、それは良いんですが。これはいったい何事なんですか? このゴキブリ人間はなんなんですか?」
「おいおいおいおい!! 人をゴキブリ呼ばわりとは失礼な人やなぁ!! あかんで、人をゴキブリ呼ばわりしたら!!」
「いやいや、貴方がゴキブリみたいな動きしてたんじゃないですか……」
「なるほどー それならしゃあない!! 許す、お嬢ちゃん、可愛いから許すわ!!」
「いや、この人、本当に何なんですか!?」
「『副団長』、何かわからないんですけど。この人がパントマイムみたいな事してて、それを笑ったらゴキブリの真似をしながら襲ってきたんですよ」
「すいません。全然、意味がわかりません」
「ワイもこの気持ち。このドキドキの意味がわからへん。そうや!! これが恋か!! お嬢ちゃん、一目見た時から好きでした!! 付き合って下さい!!」
「いや、それも全然、意味がわかりません」
「ズゴー!! 告白に対して『yes』でも『no』でもない。なんと言う生殺し!! さては、アンタかなりの恋愛上手さんやな!!」
「いや、もう徹頭徹尾、意味がわかりません。ここまで会話が進まないのは初めてですよ」
「いやな、それについては“かくかくじかじか”なんやねん……」
「ああ、成る程。パントマイムではなく、ラグが酷かっただけなんですね。それで笑われてゴキブリの真似をしたと」
「そや! ラグも相まってキモかったやろ!!」
「『副団長』はどうでした? 私はキモいと思いました」
「ええ。私もキモいと思います」
「ガガーン!! キモいとか酷いわ!! お嬢ちゃんにそないなこと言われたら立ち直れへんわ~」
「いやいや。貴方が自分でやってたんじゃないですか」
「まあ、確かにな。それよりお嬢ちゃんは『白』なん、それとも『黒』?」
「『白』『黒』? もう全然、意味がわかりません。それより、そのラグは運営に連絡した方がいいですよ」
「いやな、『白』が素人。『黒』が玄人ちゅう意味ですわ。お嬢ちゃんはこのゲームは玄人ですか? って意味ですわ」
「う~ん。一応、ギルドのサブマスターやってるんで、玄人なんですかね?」
「ほんなら、『真っ黒』やな!! そんな、『真っ黒』なお嬢ちゃんが言うなら、運営に連絡した方がええんやろな!! さっそく、させて貰うわ!! ポチポチ~」
「なんか、あんまり嬉しくないですね」
「こんなんでええ? 『なんかぁ。動く時に“てろんてろん”になりますぅ。どうしてぇ?』てな感じで?」
「いや、駄目でしょ? もっとちゃんと書きましょうよ! 『初めてのブルダイブ式ゲームなんですが、動きが歪になっています。まるで、操り人形みたいな動きをしています。ジョブは“ビーストシャーマン”なのですが。動物の姿になっている時は、ある程度普通に動けます。不具合かもしれないので出来れば対処して頂くと嬉しいです』みたいな感じで!」
「ほな、それで行くわ!」
「え、ええ。そうしてみて下さい」
「おおう!! どうゆうこっちゃ!! 五分立っても音沙汰なしかえ!? こちとら客やぞ!!」
「いや、そんな速くはレスポンスは来ないですよ。気長に待ちましょうよ……」
「はい、ども~ 運営からの使者で~す」
「うおぉぉ!! レスポンスは速いやんけ!! やるやんけ『エルステラ』、見直しても~たわ!!」
「その狐の面…… 貴方は……」
「狐の面も去ることながら、着物と刀の相性も抜群。群抜やないけ!! 神社なんかを背景にしたら、よう栄えそうやわぁ!!」
「これは随分と賑やかな人だな。君が運営にメールした“ビーストシャーマン”かな?」
「せやせや、これどないのっとんの? ラグ? ただのラグかいな? ラグなら、ワイはこのゲームを辞めるしかあらへん? どうにか、ならんもん? それとも、ワイの家の回線が死んどるんか? てろんてろんになんねん」
「ああ、これは酷いな。見事なてろんてろん具合」
「ちょ!! ちょっと待ってください。普通に話が進んでますけど。その面、貴方はまさか《化身剣神》ですか!?」
「うん? そこの君は俺のこと知ってるのか? まあ、俺がかの有名な《化身剣神》だよ。まあ、どうぞ、よろしく!」
「《化身剣神》? なんやそれ、インナーの間違いとちゃうんか?」
「か、彼はトッププレイヤーの一人。《ビーストシャーマン》の能力で妖狐に変身したり。人間の姿でも凄まじい剣捌きを魅せる、プレイヤーです。どちらのプレイスタイルも神々しいその様から化身だの、剣神だのと呼ばれて《化身剣神》なんて二つ名で呼ばれてるんです」
「いやぁ、自分で聞いてみると。慇懃な二つ名だね。なんか、恥ずかしいな。でも、そのお陰で《プレイヤーネーム》を教えなくて良いのは助かってるから良いけどね。《プレイヤーネーム》を覚えられて、いちいち検索されたら面倒だしね」
「プ、プレイヤーネーム?」
「このゲームに取って《プレイヤーネーム》と言うのはかなり厄介な代物となってるんです。このゲームで《プレイヤーネーム》はキルされた時にキルログの検索を掛けなければ出てこないんです。この《プレイヤーネーム》が露見すると、そこから検索を掛けられ、そのプレイヤーが何時何処に行ったのかとかがバレてしまうシステムになってるんです」
「それの何が問題なん?」
「良いですか? 例えば、各地にある、転送ポータルで《プレイヤーネーム》を検索すると。そのプレイヤーが何時何分にそのポータルを使用したかがわかるんです。他にも、ダンジョンのオブジェクトや、木々なんかも、それに触れながらウィンドウを開いて検索を掛けると、検索したプレイヤーがその場所を何時通ったか、わかってしまって。所謂、ストーキング行為が出来てしまう仕組みになってるんです。
「ほう、やっぱり。何が問題なん?」
「まあ、これをストーキング行為に利用するの様な人はそう多くはないです。でも、こと攻略を主にするプレイヤーには大きなヒントになることも多いんです。ダンジョン探索の際や、広大なマップを宛も無く歩くよりは大きなヒントと成りえます。それ故、彼の様な上位プレイヤーのネームは攻略の糸口に成りえるので非常に貴重となってます。だから、皆、知りたがるし。本人は本人で教えたく無いんです。だから、プレイヤー同士は『二つ名』で呼び会う様になってるんです」
「長い長い説明ありがとさん。ほんなら、お嬢ちゃんのお名前は?」
「私は『副団長』とか『銀剣』とか『白騎士』とかって言われてます」
「ほいで、狐面のアンタの名前が……」
「《化身剣神》って呼ばれてるよ~ 他の呼び方も有るけど秘密~」
「そんなら、俺は何て呼ばれるんや?」
「さあ、俺は知らないね」
「取り敢えず、『ゴキブリ男』で良いんじゃないですか?」
「そんなん、いやや~ せめて、『マリオネット』にしてくれや~」
「いや、知りませんよ」
「なんで、マリオネットなんだい?」
「ほら、それは見た通り、マリオネットみないな動きしか出来ないからや!!」
「これは酷い!! 君はこう言うフルダイブ式のゲームとか関係無しに、オンラインゲームをするのが初めてみたいな感じ?」
「おう、はじめてや!」
「なら、今まで何かスポーツか何かに熱中してたりとかそんな感じ?」
「ああ、してたで? 陸上の長距離やっとたわ。地域の駅伝大会も出とったで?」
「なら、ほぼ黒かな……」
「『黒』? 玄人っちゅう意味かいな? それならちゃうで、ワイは素人『白』や!!」
「ああ、いやね。この不具合は、なんと言うか、脊椎反射的な域まで達したスポーツ選手に有りがちな奴なんだよね。それにしても、ひっさびさに見たよ、ここまで酷いのは……」
「酷いって、なんやねん!」
「ちょっと、貴方はいちいち五月蝿いです!! それよりも。この現象に心当たりが有るんですか?」
「ボクサーが一発良いのを貰って。殆ど意識が無くなるって言うことは良く有る事。でも、ボクサーって生き物はそれでもコングが鳴るまでは闘う生き物なんだ。意思が無くなっても、身体に刻まれたミット打ちの角度やタイミング、リングの揺れる感覚、セコンドの声、その全てがボクサーを動かす。それは意識云々の問題ではなく脊椎から、肉体から発せられる野性的な指令……」
「貴方、何言ってんですか?」
「何となくわかるでぇ。永遠の様に続くコースを走る時、何時でも足は止まろうとしよる。喉からは血の味が沸いてくる、肺にはガスが貯まって脇腹がいたなる。徐々に重うなる足は速度を送らせる。それでも、身体に刻まれた速度の感覚が足を進ませる。もっと早く、もっと早くと進ませる。レース終盤、もう何も考えていないはずなのにや。あれはもう意識云々の話やなかった」
「貴方も何言ってるんですか?」
「つまり、貴方の身に起きてるのは脳よりも僅かに速い神経伝達回路を持つ人間特有の不具合。脳からの信号とよくわからない所から出てる変な信号が混線して、訳わからない挙動をしてるんです」
「う~ん、何となくわからん訳ではない。それより、その口振りからするとおたくも、俺と同じなんか?」
「うん、その通り。でも、俺は克服した。どうにかなるっちゃなるん物なんだよね、コレは。今でも少しラグい時が有るけどね。それに運営もどうにかしようとパッチの開発もしてる。俺はそのパッチの試験運用何かにも参加しとるんや。どう、興味あるか?」
「おもろそうやんけぇ」
「そうと決まれば話は速い。ごめんね、《白騎士》の嬢さん。君とはここでお別れだ。それじゃあ、君は着いておいで……」
☆
「《化身剣神》さん!! 一体、何時まで歩けばええんですか?」
「もう少しですから、ぱっぱと歩いてください」
「て言うか、どこに向かってますの? こんな鬱蒼とした森の中。なんや、ゲームなのにカビ臭くて叶わんわ。まるでモンスターでも出そうやないか。て言うか、でるんか?」
「今から向かってるのは『開発者ルーム』ですよ。因みにモンスターは出ますから気を付けて下さいね」
「勘弁して欲しいわ。こんな状態で襲われたら一堪りもありませんわ…… て、うわぁ!! でたぁ!! 出ましたわ!! イボだらけの猿ですよ!!」
「『ゴブリン』ですよ。雑魚モンスターですよ。ほら、こうやって普通に刀でスッて切って倒すんです。どうですか? 結構、普通に動けてるでしょう。これでも、少し前は貴方みたいにまともに動けなかったんですよ」
「はあ、上手いもんですなぁ。一刀両断とはこの事ですわ。良く切れる刀ですね。ウチも欲しいわ。俺も頑張れば、そないな感じになれますかな?」
「ええ、きっと頑張ればなれますよ」
「ほんまですか?」
「ええ、それよりも。道順を良く覚えいて下さいね。後でちゃんと教えますけど。この道順を少しでも間違うも『開発者ルーム』に行けませんからね」
「なんやそれ!! だから、さっきからあっちこっち行ったりしとったんか!! 絶対、覚えられませんわ!! もっと簡単にはしてくれませんか!?」
「無理ですね。結構、俺達の事が気になってる人達は多いらしくて。良く付けられるんですよ。今も付けられてるんですよ。気づいてます?」
「全然わからんは…… 屁程も匂わん……」
「何人かは俺を元々着けてた人達ですね。それと、さっきの『白騎士』さんも着いてきてますね」
「ほんまかいなぁ…… 全然、わからんわ…… でも、あの『お嬢ちゃん』に着けられるのは悪い気せんわぁ。えらい、可愛いし。取り敢えず、投げキッスでもしときますか」
「はは、面白いですね。もっと、やって下さいよ。いちいち、付けられてうんざりしてるんですよ」
「ほんなら、特別サービスで数多の投げキッスくれてやりますわ。ンチュ♡ ンチュ♡ える。おー。ぶい。いー!! お。あーる。わい!! わあ~~!!」
「よし、これで準備完了。それじゃあ。『開発者ルーム』へ転送されますよ」
「ええ!? 俺をこんな恥ずかしい格好で転送されんの!? 転送されんなら、もうちょっと意味深な顔して転送されたかったわ!!」
☆
「ほえ~ ここが『開発者ルーム』かえ。ほとんど理科室やんけ」
「ええ、ここのルームマスターの趣味です」
「お帰り~ 《化身剣神》。新人さんを連れて来たって事はもしかして当たり?」
「ええ、当たりです。かなり、酷いですよ。もう、操り人形みたいになってます」
「どうも、よろしゅうお願いします。操り人形で~す」
「あら~ これは酷いね~ 《化身剣神》がココに来た時より酷いんじゃない~」
「はは、そうかもしれませんね。そう言えば、初めて来た時と言えば《五重召喚者》さんはここに初めて来た時はどんな感じだったんですか?」
「ああ、私は言語野の方がこんがらがったらしくてね。吃音症みたいになっちゃてたんだよね。今ではこの通りペラペラだけどね」
「とまあ、こんな感じで皆何かしらの不具合が生じた人達がこの『開発者ルーム』に集まってるんだよ。因みに彼女は『五重召喚者』って呼ばれてる。召喚獣を五体同時に使役する、このゲームのトップランカーにして、化物頭脳の持ち主。まあ、それが原因で不具合が生じたんだけどね」
「はえぇ。御二人さんも苦労しはったんですね。それでもトップランカーになるとは、恐れ入りますわ~」
「残念、新人さん。その考えは違うよ! この不具合が出た人は皆何かしらの超絶技能を持ってたりするんだ! ゲームですら、カバー出来ない程の能力の所為で不具合が生じてるだけで、上手くコントロールしたら、大抵は凄いプレイヤーになるんだよ。この『化身剣神だってそうなんだよ』」
「ほえ、そうなんか? 『化身剣神』さん?」
「うん。まあ、俺は反射神経とかの回路がこんがらがってたらしくてね。それを上手くコントロール出来るようになったら、いつの間にかにトップランカー扱いされてたよ」
「刀を手に華麗に攻撃を避ける様は舞を踊っている様だと言われ。獣の様な反射神経を持って獣の姿で戦う様は正に化身であり、剣神。確か、貴方の『二つ名』はそんな感じの由来だったよね」
「まあ、そうですね。こう見えても、リアルはボクサーですから。反射神経には自信が有るんですよ」
「成る程。せやから、さっきはボクシングで例えたんか」
「そう。君もきっと、そう言った能力が有るかもしれない。それに不具合の修正は重要だからね。君の不具合を強制する見返りとして、ゲームの不具合の修正に協力して欲しいんだ。ね、『博士』」
「『博士』誰の事や?」
「ほっほっほ。ワシじゃよ、新入り君」
「おわぁ!! びっくりした!! いきなり後ろに立たんといてや!!」
「これはこれは、びっくりしたした様も操り人形みたいじゃのう。これはまた中々、難儀な不具合が出ておるな。申し訳ない限りじゃ。開発者の一人として謝罪する」
「いや、ええねんええねん。謝らんといてや。なんか、面白そうやし。ゲームなんやから、面白そうな事が何よりも大事やん!!」
「いや、そう言って貰えるとワシもありがたい。よし、早速はじめるとするか」
「始めるって何をするんや?」
「先ずは脳波の解析じゃよ」
☆
「ほれ。先ずはこれを見てくれ。今、君が着けてるギアが読み取っている脳波じゃ。何処がおかしいかわからんじゃろ?」
「はい、何がなんだかです」
「実はワシもじゃ」
「アンタもかい!!」
「ほほほ。まあ、そう怒るな。何処がおかしいかわからん、と言うより、おかしい所が無いんじゃよ。つまり、脳波には以上無しって事じゃ」
「ああ、成る程。そう言う事かいな。も~ そう言う事は先に言ってや~」
「ほほほ。まあ、先ずは脳に以上が無いか調べるのが大事じゃからな。もしも、不味い病気とかじゃったら大変じゃろう?」
「いや~ 健康診断までしてもろて、助かりますわ~ そんで、俺の状態はどないな感じなんですか?」
「うむ。脳に以上はない。ギアも正常に稼働しとるもなると。やはり、不具合が生じておるみたいじゃな。判定は『黒』じゃ!! 『真っ黒』じゃ!!」
『わ~い!! なんか、嬉しくな~い!! そんで、どないすればええんですか?』
「まあ、先ずは慣れる。それと自分の本来の身体能力にステータスを合わせる、そんな所かな。取り敢えず、お主は『DEX』、つまり素早さ。それと『VIT』、持久力。『AGI』、敏捷性。その三つのステータスがお主本来の身体能力との誤差を産んでおる様じゃ。通常が10とするなら『DEX』が13。『VIT』が15。『AGI』が11と言った所じゃな。これはかなりのアドバンテージとなりえるぞ」
「はあ、ようわかりませんけど、そないな凄いんですかね?」
「凄いなんてもんじゃ無いぞ。もし素のステータスが100としたら、その性能が『DEX』なら30%上昇。『VIT』なら50%上昇。『AGI』なら10%上昇するってことなんじゃぞ。通常のステータスと比べて合計値が90%上昇しているのじゃぞ。ほぼ、二倍じゃぞ」
「いやいや、それ普通に不具合じゃないですか……」
「いや。今のはあくまでプレイヤースキルを数値化しただけだ。決して不具合ではない。普通に操作慣れしたプレイヤーなんかにもこの現象は起こり得るんじゃよ。まあ、普通そこまでプレイしたプレイヤーは操作とのラグが出ないくらい操作慣れしているはずなんじゃがな」
「はあ、先ずは慣れろっちゅうことですか?」
「まあ、そうじゃな。慣れれば、基礎ステータスにプレイヤースキルがまるごと上乗せされる事になる。そしたら、凄いことになるぞ!! どうじゃ、面白そうじゃろ?」
「はあ、そうなんですか。まあ、なんか面白そうですわな」
「それなら早く始めるか! 操作慣れする為の特訓を!」
「え? 特訓? なんですか、それ?」
☆
「だあぁぁ!! 何が面白くて。こんな何もない、真っ白な真四角の部屋でアンタと切り合わないアカンねん!!」
「俺の事は『化身剣神』と読んでくれよな!! これからは、同じように境遇の仲間なんだ!! こらからは、ストーリークリアはもとい、エンドコンテンツ目指して一緒に頑張って行こう!!」
「いややわ!! アンタ強すぎるもん!! まともに動けるようになっても、攻撃がようあたらんわ!! こんなんが三日続いたら流石の俺もテンションが下がるわ!! ただ下がりやわ!!」
「良いじゃないですか。三日間でまともに動けるようになったんですから。それに脳波の解析も進んだお陰でパッチの開発も進んでるらしいですし。きっと『博士』から何か恩赦的な物がありますよ」
「御社やと? それは…… 気になるな…… 金か?」
「もしかしたら、そうかも」
「うおぉぉ!! 突然、ヤル気になってきたわ!! 行くで!! わて、行くでぇ!!」
「お! いいね、その調子その調子! でも、僕はそろそろ交代の時間。新聞配達のバイトが有るから、この前に仮眠を取りたいんだ」
「ボクサーが新聞配達のバイトって、ベタやな。しかし、されよりも、こんな時代になっても紙媒体の新聞を取ってる奴が要る方に驚きを隠せへんわ」
「いや、これが結構いるんだよね。やっぱ、紙の方が良いって人」
「やっほー! 『化身剣神の代わりとして、この『五重召喚者』と呼ばれる、この私が相手になるよ!!」
「うげええええ!! アンタも嫌や!! アンタ、『五重召喚者』とか言っといて。余裕で五体異常の召喚獣を召喚するんやもん!!」
「現状最高位の召喚獣を五体同時に召喚出来るってだけで、中級とか低級の召喚獣は十体くらいは召喚出来るんだよ~ 凄いでしょう~」
「んな、特大のインチキが有って堪るか!!」
「は~い。文句ばっかり言わな~い。《召喚レッド・ウルフ》《召喚ウッド・ウルフ》《召喚ホワイト・ウルフ》《召喚ブラック・ウルフ》《召喚ブラッド・ウルフ》《召喚デッド・ウルフ》《召喚ツインヘッド・ウルフ》《召喚キマイラ・エンパンサー・キメラ》《召喚キマイラ・エンホース・ヒポグリフォン》《召喚キマイラ・エンパンサー・グリフォン》。どう♡」
「どう♡ じゃないやろがぁ!! ツインヘッドの奴おるから、実質十一匹やし!! お前さん本人の事も勘定に入れれば十二匹ですし!! 絶対勝てませんし!! 食べられますし!!」
「ほら!! 文句ばっかり言わない!! 私の召喚獣ちゃんは経験値も手には入るんだから、ありがたく倒しなさい!!」
「倒せるか、ぼけぇぇ!!」
「ほら!! そんなこと言ってると攻略組の第二陣に置いていかれちゃうよ!! 彼ら、次の土曜日にエリアボスに挑むらしいから。それまでに彼らと一緒に闘える位にならなくちゃ!! 次のエリアに行けないよ!!」
「うっさいわ!! それまでに死ぬっちゅうねん!!」
☆
それは暗闇が辺りを埋め尽くす洞窟の底。鋭く尖った鍾乳石からは水が滴る。そして、湿った洞窟の地面はプレイヤー達の足元を意図も容易くスリップさせる。
足場が悪条件。それだけでプレイヤー達の行く手を阻むには十分過ぎる物だった。
そして、極めつけは……
「ゴブリンが出たぞ!! 数は十から十五!! 弓を構えろ!!」
その号令と共に狭い洞窟の中で矢が風を切る。今頃は矢の雨がゴブリンを襲っている事だろう。
『白騎士』は今から自分が向かう場所の事を想像しながらも、足元に注意しながら進んだ。
「『副団長』!! そろそろ、第二陣と前線を交代する予定の場所です」
「ええ。ここからは、私達が前線で闘う事になります。皆さんも気を引き締めて行って下さいね」
『白騎士』のその言葉を聞き、後に続いていたプレイヤー達が「おお!」と声を挙げた。
その数は五十と言った所か、数多くのプレイヤー達が所狭しと洞窟の通路に詰まっている。装備も疎らで統一性は見られない。恐らく、烏合の衆と言った所だろうか。
唯一、『白騎士』の周りを固めている騎士の様な格好をしているプレイヤー達だけが、この烏合の衆の中で統率性を持っている様に見られる。
「大丈夫ですかね『副団長』。このメンツでボスを倒せますかね?」
「さあ。まあ、この中に出来る人達が何人かはいる事を願いましょう」
『副団長』と呼ばれた少女は、そう口にすると憂鬱そうに溜め息を吐いた。それに伴ってウェディングドレスの様な彼女の純白の鎧と綺麗な金髪の髪が揺れる。
その様を烏合の衆達が見とれた様子で見詰めていた。それを見ていた騎士の一人が呆れながら口を開いた。
「やっぱり、期待は出来なさそうですね。皆、新人って感じですし。明らかに適性レベルに達してない奴等も居ますしね」
「まあ、でも居ないよりはマシですよ」
まあ、そうでしょうね。と言った様子で騎士が頷いた。『白騎士』はその騎士の様子を見て、思わず溜め息を吐きそうになった。
何が「期待は出来なさそう」ですか。たかがゲームで何様のつもりなんですかね。自分がちょっとだけ始めるのが早かったのと、ウチのギルドに入れただけで玄人気取りですか。その装備だって、自分一人の力で手に入れた訳でも無い癖に。
後ろの人達も後ろの人達で、自分でクリアするのが楽しいんじゃ無いんですかね。ただただキャリーして貰うだけで、第一エリア突破したって楽しく無いでしょうに。
ギルドも面白そうだから始めてはみた物の、思った感じとは違う感じになっちゃったしな……
はてさて、これからどうなる事やら……
まあ、ゲームですし。気楽に行きますか……
はぁ、気楽にやるって言うのも実は結構苦手なんですよね……
どうしても、責任って物を感じちゃう……
「お~い、『副団長』!! そろそろ、交代しましょう!!」
その時、『白騎士』の元に一人の青年がやって来た。青年は洞窟の奥から二十人程の騎士を引き連れ現れた。
短く切り揃えられた白い短髪に青い瞳。非常に整った顔立ち。女性なら誰もが心を動かされそうな程の甘いマスク。
毎度毎度、技とらしい程、整った顔立ちだこと。まったく、それに何が有るのか、所詮はアバター。実態がどうかとは全く関係ない。私はコレに恋をする輩が要ることに驚きを禁じ得ない。
「はい、『団長』。そちらから何人か連れて行っても宜しいですか?」
「うん、問題無いよ。まだ、余裕の有る人が何人か居るから連れていくと良い」
『白騎士』はその言葉に頷くと騎士達を引き連れ洞窟の奥へと歩き出した。その時……
「あいだ~~!! 尻餅ついても~~た!!」
その聞き覚えの有る声に思わず振り返ってしまった。見るとそこには、烏合の衆の中に見たことの有る男が混じっていたのだ。
「貴方は……」
「あはは!! お騒がせしてすんません『副団長さん』!! ここはウチに任せて先に行ってて下さい!!」
ここはウチに任せて先に行けって…… 何言ってんだあの人。い、いや。それより。
『白騎士』は思わず『彼』の姿を見た。
何やらオレンジや赤、緑や黄と言った配色の布を身にグルグル巻きに纏っており、非常に動きにくそうな括弧をしている。しかし、『彼』はそんな事を思わせもしないような素振りで立ち上がり、烏合の衆へと戻って行こうとする。明らかに、その挙動は数日前に有った『彼』とは違っていた。
「待ってください!」
「はえ!? なんですの?」
思わず『白騎士』は『彼』呼び止めてしまった。彼女はしまったと一瞬だけ思ったが。直ぐに開き直った。
だって、気になるもん。『化身剣神』とあの後に何があったのかとか。何処に行ってたのとか。何をしてたのとか。だから……
「貴方も一緒に来て下さい」
「はえ! そんな、けったいな! どうしてですか?」
『彼』が技とらしく両手を広げて驚いてみせた。
なんて、技とらしいんだ、この男は。もしかして、さっき尻餅を着いたのも技となのでは。いや、それはこの際どうでも良い。兎に角、気になる。何をしてでも、何をしてたか聞き出してやる。
「兎に角、一緒に来て下さい!!」
「へ、へへい! わかり申したぁ!!」
☆
「貴方、あの後に『化身剣神』に連れられて何処に行ってたんですか?」
『白騎士』のその言葉に辺りを固めていた騎士達が仰天する。
「『化身剣神』だって!? この男が『化身剣神』と知り合いなんですか?」
「貴方達は黙って、周りの警戒をしていて下さい」