そうか、私はどうやら異世界転生した様だ…… あの題字は無事に婚約者に届いただろうか…… そして、私はこれからどうなってしまうのだろうか……
ノワールがその翼を羽ばたかせる。
すると、その羽ばたきに煽られた風が緑色の光を纏い、スノウの引き裂かれた翼を優しく照らした。
光に包まれたスノウの翼はゆっくりとその姿を取り戻して行った。
引き裂かれた箇所はゆっくりと塞がって行き。透き通る様な皮膜はその姿を取り戻し。美しい花弁の様な翼がスノウの元へと再び舞い戻った。
「驚きました。竜同士の傷は何世紀も掛けないと治らないと言うのに……」
「どうやら、わ、私の力は竜にも有効らしいですね。竜は傷を尊びますから、今まで無用の長物でしたが。まさか、こ、こんな所で役に立つとは……」
スノウは驚愕した。有効等と言う範疇の話ではない。これを上手く使えれば竜同士の闘争がどうにかなってしまう程の能力だ。
この力を使い、敗北、逃走、回復、再戦とゾンビ作戦を結構すればスノウですら。ボルケノを撃ち破る事が可能かもしれない。
竜としては恥も外聞も無い方法なので、現在のボルケノの様な穏やかな圧力による統治は望めないが。理論的には十分に可能であり、結果だけを重視する竜にとってはこの上ない武器となりえる。
「とても、素晴らしい能力です。この力に免じて貴方の願いを聞き入れましょう。しかし、一つ条件があります……」
「じょ、条件ですか?」
ノワールは、一体どんな条件を突きつけられるのかと、訝しげな表情でスノウを眺める。スノウはその様子を確認しながらも、出来る限りの威圧的にならない様、注意を払いながら口を開いた。
「貴方の力。それを無闇に竜に使わない事を約束して欲しいのです。この力は竜の社会を歪める可能性を十分に秘めています」
その言葉にノワールはキョトンとした表情を浮かべる。傷を尊ぶ竜の社会において、傷を治して貰おうと思う竜は極僅かなので、この反応も頷ける。
「兎に角、約束してく下さい。もし、この力を竜に使う際は私に一言、声を掛けて欲しいのです」
「は、はあ…… 承知しました……」
ノワールは更にキョトンとした表情をすると、戸惑いながらも頷いてみせた。
元々、傷を直そうとする竜なんて、スノウ意外存在しなかったので。この詰問の意味する所がノワールには全くわからないのだ。
前世がオッサンである、スノウだからこそわかる。ヤバい能力なのである。
「その言葉を聞いて安心しました。それでは次は私が約束を果たす時ですね。さあ、その姿だと邪魔になります。人間の姿になって私に乗って下さい」
「は、はい」
スノウは、今しがた治された翼を強く羽ばたかせた。
その瞬間、辺りに積もる雪がその羽ばたきに煽られ吹き荒れ。花弁が舞うかの様に吹き荒れた。
宙を舞う雪は光輝き、スノウの美しい竜の身体を更に引き立たせている。
そして、スノウは再び大きく翼を羽ばたかせた。
それと同時に辺りを舞う雪が一瞬にして姿を消し。その塵のみが辺りに舞い落ちて行った。
その光景にノワールは思わず息を飲んだ。世界で最も美しい竜の名に違わぬ振る舞いであると……




