もう…… 題字を使って話すことが見当たらない…… どうやら、私はここで終わりらしい…… 頼む、故郷に残して来た婚約者の為に…… この題字を届けて…… くれ……(死亡)
珍しく竜の姿を取るスノウの眼前には一匹の竜がいた。
その竜は余りにも小さくスノウの体長の半分の大きさもないほどだ。その上、体色は緑色をしているのだが鱗が無くツルツルとした体表していた。その上、竜の誇りである角もなく、弱々しい。
「スノウ様。どうか私を助けてください……」
「いやです」
小さな竜が角の無い頭部を下げようとするよりも早く、スノウは答えて見せた。勿論「え?」みたいな表情を小さな竜が浮かべる。その竜の顔を見てスノウが面倒臭そうに口を開いた。
「先ず名前、それから用件を言ってください。それと、用件を聞くからと言って願いを聞く分けじゃありませんから。勘違いしないでくださいね」
その言葉を聞いた小さな竜が小刻みに頷き、言葉を続けた。その様子には本来の冷静さを取り戻したのか、少し落ち着きを取り戻した様にも見える。
「私はノワール・グリーン・ドラゴン。遥か南の森で人間と暮らしておりました……」
「ほほう…… 人間……」
“人間”と言う単語に反応したスノウは思わずノワールの方向に視線を向ける。
どこからか、スノウが人間に興味を持っていると言う情報を手に入れていたのだろうか。ノワールは思った通りの反応が返って来た事に満足した様子で頷きを、スノウに視線を返した。
「はい。私はそこの部落を守る竜として祀られておりました。しかし、つい先日、他の竜の手によってその部落を奪われてしまったのです」
「なるほど。それで?」
「それで、私の村を取り返して貰いたいのです。あの竜はきっと村の住民達を一人づつ生け贄として要求し、最後に一人残らず喰らうつもりでしょう……」
「成る程、いやです!」
スノウが再び拒絶の言葉を吐いた。
その返答は予想外だったのかノワールは狼狽えた様に身体を揺らしながら、スノウに近寄った。
「な、何故ですか!? 貴方は人間を大切に考えているのではないのですか!? このままでは村の人間達が!?」
その言葉にスノウは呆れたような溜め息を吐くいて見せた。そして、見下す様や視線をノワールに向けた。
「貴方はそれでも竜ですか? 負けたなら、大人しく敗けを認めなさいな。人間の為だの何だのと、のたまってはいても所詮は全て自分の為でしょ? 自分の領域を取り返す為でしょ? そんな、薄っぺらい偽善を掲げる位なら、真っ向うから、アイツが気に入らんからブッ殺してくれ。領域を取り返してくれって言ってくれた方がまだ気が許せますよ」
その言葉は図星だったのか、ノワールは言葉を失い僅かに後ろに後ずさった。その様を見たスノウは再び溜め息を吐いた。
「もし、貴方が私に協力を求めるなら。それなりの見返りを寄越しなさい」
「に、人間ですか!?」
その答えにスノウは思わず顔を歪めた。そして、コイツはマジで馬鹿なんじゃないかとも考えた。
「次、人間を雑に扱うような言動をしたら。この世から貴方を消しますよ……」
「も、申し訳ありません。で、ですが。でしたら、何を見返りとして求めるのですか?」
そんなもん知らんわ。とスノウは思う。上手く自分の引き出しから何かしら引っ張り出して来るのが交渉てもちゃうんか? と目の前の竜に向けて心の中で悪態をつく。
「何か貴方の特技で、私の利益になりそうな物は無いんですか? 料理が得意とか。そしてたら向こう半世紀、私の飯当番となるのを条件に手助けしてあげますよ。或いは向こう半世紀、私の下僕になるなら、助けてあげなくもないです」
「りょ、料理なんて。私には出来ません。それに下僕も、ちょっと……」
じゃあ、何が出来んねん! なら、下僕になれや! この、グズ! と叫び出しそうなスノウだったが、それをグッと堪えてみせた。
さぞかし、イライラした表情が伝わったのか。ノワールはおどおどしながらも口を開いた。
「わ、私には傷を治す力が有ります……」
「……有るじゃないですか、出来ることが」
スノウは、ここに来て引き出しからお宝が飛び出してきた事に感心した。
なんだ、テメェ隠してたんか。やるやんけ? と……
「なら、私の傷を治してみてくださいよ」
そう言って、スノウは自分のボロボロになった翼をノワールに見せ付けた。
その様はまるで、自己紹介の時に特技を口走ってしまたったオタクに「やってみてよ~」みたいな事を言うギャルの様であった。
そう思うと、ノワールの態度もオタクみたいだなと見えなくもない。
「あ、あの。で、ですが、竜の傷は治したことありません。そ、それに、その傷はカドラク様との闘いの後。誇り高き、向かい傷では無いのですか?」
竜には傷を誇り、崇拝する習慣がある。そして、その傷はその相手が強く巨大であれば有る程、誇れる物となる。
彼の竜王もその身体に無数の傷を持っており。その様は竜の間ですら尊敬と崇拝の念を抱かれる物となっている。
その傷を治すとは竜としては恥。
治せ等と言う問いは愚問にすらなる。
しかし、スノウは女の子。前世はオッサン。そんなの関係の無い話。
「女性の傷は恥です。取り敢えずやってみて下さい」
傷を尊ぶ習わしが竜に有るのはスノウも重々承知している。しかし、そんなのは関係無いのと言った様子でスノウは口を開いた。