壮大なスケールの戦い。まさに大怪獣バトル。これが私は書きたかった。書きたかったんだが、もう書いたのでどうでもいい。そう思ってしまった私は死んだ。
スノウは瞬時に大空へと飛び立った。
花が開くかの様に翼は大空に広げられ。淀み一つ見られない、透き通る様な白い鱗。長く美しい鱗を纏った首が姿を現し、竜へと姿を変えたスノウは凄まじい速さで空を駆けた。
程無くして、二匹の竜が空中で激突した。
雷が落ちたかの様な音が周辺に響き渡る。そして、両者の口から大地を揺るがす程の咆哮が放たれる。
スノウの口からは霰の混じった様な強い吹雪の咆哮。
カドラクの口からは光を飲み込む様な黒い炎の咆哮。
お互いの咆哮が混じり合い、不思議な光を作り出すと凄まじい爆発が起き、両者を彼方へと吹き飛ばした。強い衝撃が周辺を駆け巡る。
その余りの衝撃に大地が揺れ。木々達は彼方へと吹き飛んでいった。鳥達も一目散に彼方へと飛び立ち、動物達は明後日の方向へと逃げて行った。
衝撃により雲一つ無くなった空の元。二匹の竜が向かい合った。
「カドラク。何のつもりですか。この先は私の領域。踏み入れると言うのなら。只では済ませません」
「無論。侵略に来ました。貴女の領域の全てを犯しに来ました。そして、申し訳ないですが。貴女には死んで貰います」
何を突然血迷った事をと思われるだろうが、竜の世界とはこう言う物。ぐちゃぐちゃと文句を言う位なら力を持ってねじ伏せる。
むしろ、真っ正面から、正々堂々、何の捻りもなく突っ込んでくる辺りは竜としては上等な手段に当たる。
“常套”ではなく“上等”。純粋に強さを重んじる弱肉強食の竜の世界において、偉く上等で誉れ高い部類に当たる戦いへの姿勢である。
これをやられてはスノウも戦いを断れない。
これ程まで正面切っての行動を有耶無耶にしたら、それこそ竜にとっては敗北を意味する。竜の社会とはそう言う物なのだ。
「良いでしょう。受けて立ちます」
「勿論。竜であるなら、そうあるのが同然の事」
その瞬間、再び両者の咆哮が放たれ空気を揺らした。
両者は咆哮の衝撃波を切り裂く様に空を駆け、勢い良く衝突した。両者のけたたましい鳴き声と共に互いの身体に噛みついたり。その鋭い爪で互いを切り裂いた。
人間が作る刃を物ともしない鱗も、同種である竜の牙や爪は防ぐことが出来ないのか、意図も容易く両者の間に血が流し、鱗が宙を舞う。
その後も凄まじい攻防と咆哮が繰り返され。その激闘は数時間に及んだ。
しかし、その決着はついぞ最後まで付かなかった。
カドラクの身体には霜が降り、凍傷で幾つかの指を失い。最も重症な左足は、その下肢から下を失っている。
対する、スノウは透き通るような美しい皮膜は無惨にも引き下がれ見る影を失っていた。竜の誇りである角も半ばで折れ惨たらしい姿になっていた。
この惨状になってから両者は初めて声を交わした。
「やはり、貴女も真なる竜の血族。一筋縄では行きませんでしたね……」
「当たり前です。私も竜の端くれ。早々簡単にはやられません……」
しかし、スノウはそう言った矢先。気を失ったのか真っ逆さまに地面へと堕ちていってしまった。カドラクは堕ち行くスノウを眺めながら、苦悶の表情を浮かべた。
「くそ。私も随分持っていかれた。腕もやられたか? 感覚が無い。これではトドメを刺すこともままならん……」
そう言った矢先、堕ち行くスノウの姿が人間へと姿を変えた。しかし、その姿は初めとは変わり果てており、腰からはえる翼はボロボロになり、頭部からはえた角は半ばから綺麗に折れてしまっている。
「スノウさん。この勝負は一端お預けとしましょう。貴方の様な真の竜と合間見えた事を光栄に思いますよ」
そう言うとカドラクは、初めとは裏腹に遅く、今にもスノウの様に落下してしまいそうな様子でその場を後にした。
そして、スノウはそのまま真っ逆さまに地面へと堕ちていってしまった。
その先にはある人間の国があった。