これまたなにをすればいいかわからない。見切り発車がもたらす最悪の脱線事故。最早、私の伝統芸能にして無能の極み。少しは考えたらどうだい?
転生から早い物で三年が過ぎた。
人間で言うと1ヶ月位である。
しかし、竜の肉体と言うのは偉大な物で産まれたその瞬間から周辺一体の頂点生命体となっていた。
強過ぎるので喰うのも困らず。肉体が強靭なので、どんな環境でも関係無く寝むたくなったらそこら辺で寝ればいい。最強なので住む所を考える必要も無い。
そう考えると竜と言う生命体は“世界で一番強いニート”である。そんな風に考えていた時期が彼女にもあった。
「スノウよ!! この俺様と番になってくれ!!」
地響きの様な咆哮と共に空から巨大なクジラが落下して来た。しかも二頭である。
その光景を見て思わず呆れた様な顔を浮かべる。
スノウとは彼女の名前である。
スノウ・フィールド・ドラゴン。雪原竜とでも言うのだろうか、そんな風に呼ばれている。
親しみを込め仲良くなりたいと思っている竜達等が一方的に勝手に着けた名前だ。
スノウは呆れた顔をしながら空を見上げてみせた。
そこには灼熱に耀く様な鱗をした巨大な竜が力強く羽ばたいていた。
彼こそ、竜王ボルケノである。
竜の中の竜。つまり、竜の中で一番強いと言っても良い。それだけ巨大な竜の肉体と力を持つ存在だ。
もし、この世界でお伽噺の竜と言えば大体この竜がモデルだとされている。それ程に長く生き人々に恐怖を与え続けた存在なのだ。
そんな、存在に最近敵わない相手が現れた。
無論、スノウである。肉体的には遥かにボルケノの方が勝っているが、スノウはその存在価値故にボルケノすらも頭を下げる程の力を持っているのだ。
しかし、その理由はただ一つ。
スノウがメスだからだ。
竜の生態は未だに謎が多く。どの様に繁殖するのか本人達ですらわかっていない程だ。
つい三年前までは竜とは宇宙より飛来し産まれる存在だと思われていた。
しかし、そんな最中スノウが現れた。
スノウの存在は竜達にすら大きな衝撃を与えた。
何せこの世界が数世紀に及ぶ間、竜はオスしか存在しなかったのだ。
そんな中、突如として降って沸いて出てきたメスのスノウである。
そらもう竜達はメロメロのベチャベチャのヌッチョヌッチョでカピカピでその後にガビガビある。もう御仕舞いである。
勿論、誰がスノウを自らの伴侶にすらかと竜の間で大戦争が起こった。しかし、そこは順当に竜王であるボルケノが勝利しスノウに求婚するに至った。
そして、至ったのが現在なのだが……
「番になんてなりませんよ! さっさとこれを持って帰ってください!」
スノウが透き通る様な声でそう言うと、目の前で力強く跳び跳ねているクジラを指差した。
そのスノウの様子に僅かに仰け反りながらもボルケノが咆哮の様な声を挙げた。
「せ、せめて貰ってはくれないだろうか!」
「貰いません! さっさと持って帰って下さい! そして、私の縄張りから出て行って下さい!」
その強い語気に思わずボルケノが怯む。否、完全にショボくれて落ち込んでいる。
それはまあ、告白してフラれたんだから落ち込みもするさね。
頑張れボルケノ。
負けるなボルケノ。
ボルケノはショボくれながらもゆっくりゆっくりと下降し、スノウの居る所までやって来ると二頭のクジラを両の足で掴んでみせた。
そして、再びゆっくりと浮上する。
その時、浮上する翼が不意に止まり、ボルケノはゆっくりとスノウの方を見た。
「そう言えば忘れる所だった。今日の夜、人間への対応について話し合いが行われる。有力な竜達は聖域にて集まる。君も来るんだ……」
「……ええ、わかりました」
ボルケノは一度だけ頷くとその大きな翼を羽ばたかせ、彼方へた飛んで行ってしまった。
そして、その様子を見ていたスノウは一度だけ溜め息を吐くと、一体どうした物かと空を見上げた。