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「アルル、一体どうなってるんだ、説明してくれないか?」
階段を降りる私にアレクくんが疑問の言葉を投げ掛けて来た。それは余りにも当たり前の行為と言えるだろう。そして、それに答えるのが隊長である私の余りにも当たり前の役目なのだろう。
しかし、どう説明した物か……
「これは私の憶測ですが、黒の師団がこの研究所…… いえ、遺跡に侵入したたんだと思います」
「黒の師団が? 一体どうして?」
振り向いて、アレクくんを見ると眉をつり上げ怪訝な表情を見せている。
「そうですね。この遺跡の地下に世界の命運を左右する程の物があるらしいんです」
「世界の命運!?」
アレクが目を丸くして驚きの声を挙げた。そして、その後ろに続く仲間達は皆一同に怪訝そうな表情をこちらに向けてくる。
「ええ、その様です。ベルさんの話によれば……」
「彼女達は信用出来るのか?」
アレクくんがそう私に問い掛ける。その問い掛けに思わずアレクくんを睨み付けてしまう。
「出来ます!」
彼女達は信用出来る。その理由は話せないが彼女達が私達を裏切るなんてことはないはずだ。もし今まで話した事が嘘だと言うな話は別だが、到底そうは思えない。
きっと、賛同はされないだろうが、今は信じてもらうしかない。
しかし、その考えとは裏腹に帰ってきた答えは呆気ない物だったり
「わかった、アルル。君が信じると言うなら、僕も彼女達を信じよう!」
アレクくんは、さも当たり前の様に答えて見せると、一度だけ頷いて、私の肩にそっと手を置いた。
「アレクくん?」
私の肩にほんのりと優しい温もりが宿る。
彼の細くてしなやかな手がゆっくりと私の肩から離れ。その腕が伸びた先に視線を運ぶと。そこには真っ直ぐと前を見詰める彼の瞳が目に入った。
その瞳に迷いはない。
彼は戦場へと向かう一人の魔術師の顔をしている。
何故、そこまで私の事を信じてくれるんだ?
わからない。
だけど、今はそれが堪らなく心強い。
「皆さん止まってください。左前方に敵性反応が確認されました。戦闘の準備を……」
私達の前方を歩いていたエグザルドさんがそう音声を発した。
一同もその声に返答する代わりに戦闘態勢へと入った。
しかし、そこにあるのはただの壁だ。
ただ、その向こうから何かが歩く足音が聞こえてくる。
恐らく、この壁の向こうに何かがいる。
私は剣を抜き《アッガイの衣》を纏う。アレクくんも私と属性こそ違うが同じ防壁系の魔術を展開している。騎士さんも騎士剣を引き抜きながら私の前へと歩み出て来た。カーターさんは鞭を腰から取り出し、私の後ろについた。パティさんを見ると一番後方で不安そうにこちらを見つめている。
パティさんは私と目が合うと、こちらを強く見詰め返し、仕切りに頷いて見せた。それが何を意味してるかはよくわからないが、力強い瞳からして多分「私、大丈夫ですよ」と言う意味だと思う。
「皆さん、すいません。こんな行き当たりバッタリの隊長に付き合ってくれて、ありがとうございます」
「アルル。僕は君の事を信じてる。君がやらなければならないと言うのなら、それは絶対にやらなければいけないことなのだろう。違うかい?」
私は黙ってアレクくんの言葉に頷いて見せる。
そうだ、これはやらなくればいけないことだ。
「私は騎士として皆様も放って置くことは出来ません。まか、騎士の性と言った所でしょう。最後まで付き合わせて頂きます」
騎士は相も変わらず、騎士然としている。
ユーゲントの騎士は皆、こんなに勇敢なのだろうか。
「まあ、俺は一人で帰るのが嫌なだけですけどね」
そう言うとカーターさんが手に持った鞭を鳴らした。
そうは言う物のカーターさんのその瞳には戦意が道溢れている。ユーゲントと出身だからだろうか、カーターさんも口では軽いことは言う物のその奥には誠実さが垣間見得る。
「わ、私もそんな感じですッ!!」
パティさんは強い眼差しでこちらを見つめている。
これまた彼女らしい答えである。
「敵性反応、来ます。皆さんお気をつけて!!」
エグザルドさんの音声が発せられると同時に壁にひびが割れ、それとともに向こう側から何か巨大な物体が飛び出してきた。
「!?」
騎士の甲冑を思わせる頭部に上半身。そして、その両手には二振りのハルバードが握られている。
しかし、これ以上の特徴がソレには存在した。
「騎兵型機械兵士。kn-08型。純正1号機」
エグザルドさんがそう音声を発した。
騎兵型…… そうか、そう言うことか。エグザルドさんの言う通り。その機械兵士の上半身は甲冑を纏った騎士のソレだが、その下半身は馬の形をしているのだ。
そう一言で説明するなら、その機械兵士はケンタウロスにも似た姿をしていたのだ……