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「と言う訳で彼女と一緒にホワイト・ロックまで戻る事になりました」
「ドウモ、ヨロシク、オネガイシマス」
ベルさんの見事な程の片言が火を吹く。
そして、それを聞いた皆は目を丸くしている。
当たり前でしょうね。
取り敢えず、ベルさんは古代人で私は機械兵士達の電波を受信してたのでその機械兵士達が使う古代人の言語がわかると言う事にした。まあ、重要なことをはぐらかしてるだけで決して嘘はついていないと思う。
こう言う嘘をつく時のコツは出来る限り嘘をつかないことだったりする。
矛盾してるみたいだけど、言い方を変えるなら嘘の中にいくつかの真実を混ぜると言う手法だったりする。ぶっちゃけてしまうと、真実を言った所で信じて貰えないのでここら辺が妥協点じゃないかな?
「うん、それじゃあ。ベルさんを連れてホワイト・ロックまで帰りますか?」
私がそう言うと、不意に機械兵士である、エグザルドさんが手を挙げた。
「申し訳ありません。私に意見が有るのですが発言を許して頂けますか?」
ベルさんとは打って変わって、機械音声、故にアクセントの癖は少し強いが流暢にこの世界の言葉を操っている。
エグザルドさんは、私が彼らの電波を受信していた現象を逆に応用して、私の言語の記録を読み取り、この世界の言語を直ぐ様覚えてしまった。
超ハイスペックである。
「ええ、どうぞ」
私はエグザルドさんに向かって答えて見せる。当の皆はエグザルドさんが普通にこちらの言語を使っているのを見ての更に目を丸くしている。そらそうでしょうね。
「この研究所に侵入者が入って来た様です。数は20、かなりの腕をしています。警備に回していた機械兵士達がやられています」
な、なんだって?
「ちょ、ちょっと待ってください。どういうことですかそれ?」
「その言葉のままです」
ままですって……
私が狼狽えているとベルさんが口を開いた。その言葉を至急を要する為か日本語に戻っている。
「彼らはどこに向かっているんですか?」
「はい、この研究所の地下に向かっているようです。恐らく、メインサーバーを狙っているのかと……」
その言葉を聞いたベルさんの顔が瞬時に歪む。なにかよくわからないが、なにやら不味そうだ。私も日本語で会話に参加する。
もしかしたら、聞かれたら不味いはなしかもしれない。
「一体、どうしたんですか。何があったんですか?」
「すいません。兎に角、今は至急を地下へと向かいましょう。細かいことは道すがら話します」
この建物は一体どうなっているのか。
何もない壁だと思っていた所にベルさんの手を触れる。すると、その壁に突如切れ間が走り、そこから地下へと続く階段が現れた。
すると、ベルさんが私達を一度だけ見てその階段へと降りて行った。
「この世界の機械兵士達に記録を渡してるのはこのエグザルドです。彼がこの世界のマザーコンピューターとして全ての機械兵士に記録を提供してます。しかし、そのデータを管理して実際に送信したり、受信機体の状態を見て送るデータを選択しているのはこの地下にあるメインサーバーなんです」
な、なるほど。よ、よくわからないけど。凄いな。
私は階段を降りる足を止める事なく下へ下へと降りて行く。不意に後ろにいる皆を眺める。皆を不安そうな顔をしている。
どうしようか、なんて説明したら良いだろうか……
「アルルさんには先程も言いましたよね?」
「え? なにがですか?」
私に何を言ったって? もう、色々有りすぎてそろそろ頭がパンクしそうだよ。
「この星の活動を支える為に産み出した竜がいると……」
「ええ、確かにそれは言ってましたね」
そう、その竜達のお陰で今もこの星は成り立っていると、そう聞いた。
「この下にそのドラゴンの一角がいるんです」
「え!?」
私は思わず、驚きの声を挙げてしまった。いや、驚かない方が無理な話だ。
「彼は自然界の現象を司る竜ではありませんが、とても大切な物を司っています」
彼女が私を見る。
「彼が司るのは機械兵士達へと送信する電波です。彼こそが機械兵士達に記録を送信するメインサーバーであり、全ての記録を管理する者。機鋼竜アゼンヴァルドです」
き、機鋼竜アゼンヴァルド。
果たして、それが一体感……
「彼がもし破壊されれば世界に散らばる機械兵士達に大きな損害が起きます。そして、最悪、機械兵士達がこの世界で暴走するかもしれません。いや、むしろ、それが狙いなのかも。どちらにしろ、放ってはおけません……」
い、一体、誰がそんな事を……
いや、そんなことをする奴等なんてそうそういない。
私の脳裏にある組織の名前が浮かんだ、そう……
黒の師団だ。
もしそうなら、私も絶対に放っておく訳にはいかない。奴等の好きにさせてしまったら、本当に世界がどうにかなってしまうかもしれない。
それだけは、絶対にさせない……
ベルさん、彼女が繋いだこの世界を決して壊させはしない……




