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30☆

「この世界に生み出された生命体は全部で四種類」


 そう言って彼女が指を順番に一本ずつ立てて行った。そして、その指は最終的に四本立てられた。


「一つ目が人。二つ目が亜人。三つ目が魔獣。四つ目が機械兵士です。そして、貴女の前世の記憶に最も関連が深いのは四つ目の機械兵士です」


 そう彼女が言いきる。だが、その意味する所は私には全くわからない。彼女はそんな私の様子を見て、小さく頷いた。


「わからないのも無理はないですね。先ずは彼等の生態を説明しなければなりませんね。エグザルト、こちらに来なさい」


 彼女がそう言うと、エグザルトと呼ばれた機械兵士が私と彼女の間に立った。その様子を満足そうに見詰め、彼女は口を開いた。 


「エグザルドは言わば世界中にいる機械兵士達のブレイン。マザーコンピューターみたいな物です。彼は周期的に過去の記録を電波として発信し新たに造られた機械兵士達に伝えています。言わば、過去の記憶です。エグザルド、やってみてちょうだい!」


 彼女がそう言った途端、機械兵士の頭部が青白くは発光しだした。そして、それと同時に私の脳内に前世の記憶がフラッシュバックした。


 しかも、今までに無い程に強く鮮明に。


「こ、これは!」


 その衝撃に思わず膝から崩れ落ちる。

 

「エグザルド! もういい、止めなさい!」


 そう彼女が口にすると、機械兵士の頭部の輝きは収まり、私の脳内に現れた前世の記憶も消えていった。


 頭が重い。破裂しそうだ。

 そ、それにしても。い、今のは一体……


「これも一種の共感覚と言っていいでしょう。エグザルドが飛ばしていた電波を貴女が受信したんですよ。そして、ただの電波を貴女は記憶と言う形で受け取ったんです」


 そ、そんなことあり得ない。人間が電波を受信するなんてあり得ない。そんな事、あるはずない。


 思わず、重く破裂しそうな頭を振るう。

 くそ、上手く思考が定まらない。


「いえ、これが事実です。今、それを貴女が証明して見せたでしょ。それが答えです。貴女は幼い頃に過去の記録を受信し、自分の記憶と勘違いしてしまったんです。何故、そんな事が起きたのか貴女ならわかるはずです」


 くそ。やっと、思考が纏まって来た。


 もし、彼女の言った仮説が合っているなら。この現象が起きた理由は一つ。


 私の魔術の属性によるものだ。


 恐らく、雷と言う魔力の属性が上手く電波と互換性を産み出し、その電波を私が魔力として肉体に取り入れる過程で、過去の記録を受信したんだ。


 そして、それを私は自分の前世の記憶だと勘違いしたんだ。


 前世の記憶が曖昧なのも、きっと電波が悪く私が上手く受信出来なかったからじゃないか。


 そして、私が魔術の才に目覚めてからは魔力の扱いも慣れて来たせいで魔力を体内に留める効率が高くなり電波を受信するだけの取っ掛かりが無くなったからなんじゃないか?


 つまり、私の身体から自然に漏れでる魔力が反射鏡の役割をしており、その私の魔力に引っ掛かった電波を私が受信したと言うことか? そして、魔力を肉体に留めるようになった為、反射鏡の役割をしていた魔力が無くなり、過去の記憶を受信することが無くなった。


 確かにそれならあり得なくはない、私の雷の属性を帯びた魔力なら電波との相性も良いはずだ。


 しかし、そうだとした。


「わ、私は一体。誰なんですか?」


 そうだ、私は一体誰なんだ?


 私は今まで前世の記憶を持っていて、尚且つ自分は男だと思っていた。なら、私は、つまり、自分が前世の記憶を待っていると思い込んでるだけの女と言うことか?


 確かに私は女だ、だけど心は男だ。

 それは、これはどう言うことなんだ?


 私は? 私は誰なんだ?

 この人格はだれの物なんだ? 

 受信した記録から造られたデータなのか?


「落ち着いて下さい! アルルさん!」


 その時、彼女が私のことをそっと抱き締めた。


 ほんのりと暖かくて甘い香りが頬を撫でる。心地よい絹の感触が私の頬を優しく包み込む。そして、彼女が私の耳元で優しく囁いた。


「大丈夫。貴女は貴女です。アルル以外の何者でもありません。ただ、少し他の人よりも直接的に過去の記録を受け継いだだけです。それで少し混乱しちゃっただけです。ほら、本だって記録を受け継ぐ媒体としては似たような物でしよ? ただ今回は少し直接的だった。ただ、それだけの事です。だから安心してください」


 そう言って、彼女が私の頭を優しく撫でてくれた。


 そうだ、同じじゃないか。言い伝えだって、本だって、歴史だって、記録を受け継ぐ為の手段だ。今回の電波だって、記録を受け継ぐ為の手段に過ぎない。


 それで私の人格や存在がどうにかなる物じゃない。


 確かに、この性別の差異は中々に厄介な物だろうがしょうがない受け入れるしかない。今までそれでやって来たんだ、これからもそれで大丈夫なはずだ。そうだ大丈夫、きっと大丈夫。

  

「そうですよね、ありがとうございます。もう大丈夫です」


 私は彼女の胸の中で、そう小さく呟いた。

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