私なら全部ほったらかしてどっか行っちゃうね。だから、感情移入が出来なかった。それが敗北の理由。つまり、入れられなかったってこと。
最近になって、五人の少女が不思議な力を持っていると言われ。このネイ・グ・ロウに連れてこられた。
連行された少女達は全員が正式な申請をしてないと言う理由を持って、異端者として捕縛された。
ハウンズもその内の一人を捕縛し、このネイ・グ・ロウに連行した。
程無くして、五人の少女等は帰された。しかし、この後から話はややこしく、帰ってきた少女達は不思議な力が無くなっており、何処と無く、精神も定かではなくおぼつかない雰囲気になってしまっていると言うらしい。
と、その辺りに話が差し掛かった際に、シャルロットが空気の読めない口を開いた。
「ひっど。絶対、貴方達が何かやったじゃないですか。何やったんですか? やっぱり、エッチな事ですか? 最低ですね」
「……そ、それは、俺にもわからないんだ」
話の腰をぶち折る、シャルロットの辛辣な言葉がハウンズに襲いかかる。当のハウンズはと言うと、気まずそうにしょぼくれている。
一先ず、意識を切り替えねばとハウンズが頭を振り、再び語り始めた。
「兎に角、一人は俺が連行した。君程では無いにしろ彼女の力も紛れもない物ではあった」
その言葉を聞いてシャルロットは、たんこぶ引っ込めただけなんだけどな、と僅かに表情を強張らせた。
そして、少しばかり気になったことについて聞いてみた。
「それでも捕まえちゃうんですか?」
ハウンズは「まあ、ちゃんと申請書を提出してなかったからな……」と、更に気まずそうな顔を浮かべた。
シャルロットは「お役所仕事って感じですね……」と呆れた様な声を漏らした。それが耳に入ったのか、ハウンズは申し訳なさそうに肩を下ろした。
「た、確かに、そう言われても仕方がないな……」
「あ!! 勘違いしないで下さいね!! お役所仕事って言ったって、今言った仕事は必要な仕事だと思いますよ!! ただ、いちいち、このネイ・グ・ロウまで連れてくるのって非効率的だなって思っただけですよ!! 貴方の事は否定しませんし!! この流れを利用して、何か悪さをしている人がいるのが問題なだけですから!!」
シャルロットが捲し立てる様にして取り繕う。が、余り取り繕えていない。取り溢しだらけである。こう言う、空気の読めない発言をしてしまうのが“聖女”の悪いところである。
古今東西、全ての聖女様は空気が読めないでいらっしゃる。
色々と図星を突かれて、ハウンズのライフポイントはもうゼロである。止めて欲しいのである。
「さ、最近に入ってからなんだ。ここまで取り締まりが厳しくなったのは……」
「最近? なら、今までは違ったんですか?」
シャルロットが眉を吊り上げ、ハウンズを見詰めた。ハウンズはその目を見ると一度だけ小さく頷いた。
「今までは暗黙的に見逃していたんだ。目に余るほどのペテンか、悪意の有る商売をしてなければ、我々が出ることはなかった……」
「成る程、それは怪しいですね。上層部で何か有ったんですかね?」
シャルロットの言葉にハウンズが頷く。
上層部で何かが有ったことは間違いが無いだろう。しかし、それがどの様な事か全く見当がつかない。
「上層部で何が有ったかはわからないが。今言った通り、このネイ・グ・ロウの力が届く範囲は君に取って非常に危険だ。出来る物なら、この大陸を出来る限りの早く去ることを薦める」
「成る程~ わかりました」
シャルロットがうんうん、と小気味良く頷いて見せる。その様子を見たハウンズがホッと胸を撫で下ろした。
取り敢えず、この少女だけは守ることが出来たと……
しかし、そのハウンズの願いを引き裂く様にシャルロットが空気の読めない一言を繰り出した。
「じゃあ、取り敢えず。力が無くなっちゃった、って言う女の子の所に行きます。場所を教えてくれますか?」
「な! 君は話を聞いていたのか!?」
ハウンズの驚愕した様子を他所に、シャルロットは尚も小気味良くうんうん、と頷いている。
「話は聞きましたよ。でも、それで“はい、そうですか”って引き下がる私じゃありません」
「気持ちはわかるがメティアナ教が相手なんだぞ、君がどうこう出来る訳無いだろ!!」
ハウンズの言っていることは至極真っ当な意見である。しかし、それでもシャルロットは目を反らさずに、ハウンズを真っ向から見詰め返した。
「確かのそうです。でも、だからこそ、ここで行動を起こすんです。宗教の力は巨大です。いつか、大陸をも越えるでしょう。私がここで逃げようといつかきっと捕まります。恐らく、彼等はそう言う事をしようとしている……」
「そう言う事、だと? き、君に一体、何がわかるんだ? まさか、未来でも見えるのか?」
そのハウンズの問い掛けにシャルロットは首を横に振って答えてみせた。確かに、シャルロットに未来視と言った類いの能力は無い。
「未来は見えません。ですが、今回の件には少しだけ心当たりが有ります。その心当たりを確信に変える為にも“力を無くした少女”に会う必要があります。出来れば案内してもらえると助かるんですが、頼めますか?」
そう言うと、シャルロットは静かに手をハウンズへと伸ばした。不思議な魅力と言うものは有る物で、今のシャルロットにはそう言う物が漂っていた。
不思議なカリスマ性。危険な魅力。これが女神の転生体である恩恵なのか、それともシャルロットがシャルロットたる由縁なのか、それはわからない。
しかし、当のハウンズはその魅力に間違い無く惹き付けられていた。そして、無意識ながらも、どこか自らの意思でシャルロットの伸ばした手に答えていた。