28
「それにしても、貴女がいて助かりましたよ…… えっと……」
そう言って、彼女が私を見る。そう言えば私達がまだ自己紹介をしてなかったな。
「私は白の師団に所属しています。魔術師のアルルです。一応、隊長です」
そう言って、彼女に笑顔を向ける。しかし、私の視線は未だに定まらない。何て言ったって彼女が未だにすっぽんぽんだからだ。
しかも、何故かその癖して全く恥じらう様子がないのだ。
「そうですか。アルルちゃんですか、よろしくお願いしますね! 私はそうてすね。スノーバニー・ビレルベル。ベルって読んでくださいね」
そうかベルさんて言うのか。
確かに鈴が鳴るような美しい声をしているからな、ピッタリな名前なんじゃなかろうか。そんな事を思っていた矢先、機械の扉が開き先程の機械兵士が部屋の中へと入ってきた。
「ご主人様、服をお持ちしました」
そう言った機械兵士の腕には薄い水色の可愛らしいドレスが掛けられていた。不意にベルさんを見るとその顔は不満そうに口を尖らせていた。気に入らないのかな。
似合いそうなのに……
「か、可愛いお洋服じゃないですか?」
そう言って、私は彼女をなだめる。このままでは落ち着いて話も出来ん。頼むから着てくれ。
私がそう言うとベルさんは一度溜め息をして、機械兵士の元へと歩いていった。そして、機械兵士が優しく彼女にドレスを着させてあげた。
「ふう。取り敢えずはこれでいいかな」
ベルさんがそう言いながらフラフラと腰を揺らす。そして、それを追うようにドラスの長い裾がゆらゆらと揺れる。
ほのかな水色の可愛らしいドレス。節々にはフリルが着いており、その生地自体にも何かの模様が刺繍されているのか非常にきらびやかな造りになっている。
まるで、お姫様か何かだ。
しかし、彼女の美しい顔はそのきらびやかな衣装にすら負けておらず、お互いにお互いが主張しあい協調しあっている。そして、頭部の白銀の角とドレスから飛び出している、角と同じ白銀の翼と尻尾が神秘性すら醸し出している。
「さて、さっそく本題に入りますか!」
そう言って、ベルさんが腰に手を当て私に喋りかける。
私は取り敢えず頷いてみせる。
その様子を見たベルさんも同じように頷いてみせた。
「まず、貴女はなんで日本語がわかるんですか? どこかで学んだんですか? それともこの言葉を喋る国や種族がいるんですか?」
やはり、その質問から来るか。だが、彼女には私の身の上は話した方がいいだろう。もしかしたら、彼女も私と似た様な境遇なのかもしれない。
あるいは、もっと複雑な境遇なのかもしれない。
「わ、私は転生者なんです」
私がそう言うと彼女は目を丸くして驚いてみせた。
それは彼女が転生者ではないことを意味しているのだろうか? いや、私の目の前に転生者が現れたとしても彼女と同じ反応をするだろう。だから、彼女の驚きの態度は彼女が転生者ではない、と言うことにはならないか……
私はそう思いながら、自分の前世の記憶と今までの人生について話をした。彼女はその話を興味深そうに聞いていた。そして、ひとしきり話が済むと直ぐに口を開いた。
「因みに質問なんですが。貴女の魔力の系統は電気、あるいは雷や電力に関する物で間違いないですか?」
私は驚愕した。
ベルさんに私の魔術の属性の話はしていない。話したのはあくまで前世の記憶の話と、白の師団で魔術師として所属していると言うことだけだ。なら、どうして私の魔術の属性がわかったんだ?
もしや……
「魔眼ですか?」
私は頭に過った言葉をそのまま言葉にした。
その言葉に彼女は黙って頷いた。
「うん。これは言うなれば共感覚の様な物らしい。相手の魔力がオーラになって見えるし、尚且つその系統も何故だかわかる。君のオーラは多くも少なくもないが青白く輝いて稲光のように君の中を滞留している」
なるほど、共感覚か……
魔眼持ちがどう言う原理で目から情報を取り入れてるのかは疑問だったが共感覚と言うなら、なんとなく頷ける。素晴らしい才能だ、私には一生縁の無い物だろう。
いや、それはいいとしてだ……
「確かに私の属性は雷ですが、私の属性がどうしたんですか?」
そう言うと彼女は難しそうな顔をして眉を潜める。一体、どうしたんだろうか?
しかし、そう思っていたのも束の間、彼女は一度何かを決断した様に頷き口を開いた。そして、その口から信じられない言葉が飛び出した。
「いいですか、転生なんてこの世にはありません。よって、貴女も転生者ではありません。今から私が言う理論を冷静に聞いて下さい。貴女ならきっと理解できるはずです」