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私は機械の扉と向かい合い。その中腹辺りにある電子機器に視線を向けた。そして、ガントレットで守られた右手でその電子機器を力一杯ぶん殴ってみせた。
鈍く弾けるような金属音が響いた。
「た、隊長殿! 何をやってるんですか?」
私の所業を見たカーターさんが驚きの声を挙げた。
カーターさん、見てわかりませんか、見ての通りぶん殴っているんですよ。
そして、先程ぶん殴った所を見ると。そこには軽くひしゃげ、鉄の装甲が僅かに浮いている箇所があった。私はそこにガントレットの指先を滑り込ませ、思いっきりひっぺがした。
「やっぱり……」
そこには電子部品やチップ、配線の類いが所狭しと詰め込まれていた。私はその中から電線の束を掴んで引きちぎる。そして、導線が剥き出しになった配線に向けて思いっきり魔力を注ぎ込み電気を流してみせた。
すると、電線から火花が散り、機械の扉がゆっくりと開いた。
秘技、マジカル直結。エレクトリック、バチバチ☆不法侵入である。
「よし、これで入れますね」
そう言って、一同を見る。
すると、みんなが目を丸めてこちらを見ている。
まあ、仕方がない。客観的見ても、しっかりヤバイ奴だし。なんで開けられたのかもわからないだろうし。不気味以外の何者でもないだろう。
「さ、さあ、行きましょう」
その視線から逃げるように私は扉の中へと入っていった。
◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇
中は白い通路が真っ直ぐと伸びており、同じく白いドアが通路の所々にある。そして、私がその通路に足を一歩踏み入れると同時に通路の灯りが一斉についた。
感応式の照明だ……
本当になんだこれは……
思わず自分の動悸が早まるのがわかる。
呼吸も浅くなり、冷や汗の様な物が額から滲み出る。
なにやら、背筋から物言わぬ不安が競り上がってくるのがわかる。
「大丈夫か、アルル!?」
その時、不意にアレクくんが私の肩を掴んだ。
思わず飛び上がってしまう。
「な、なんですかアレクくん!! 突然止めてくださいよ!!」
そう言うと、アレクくんが目を丸くする。
「さ、さっきから何度も呼んでいたのに気づかなかったのか!?」
え? そうだったの? 全く気づかなかった。不味いな、この状況に混乱してしまっている。落ち着け、落ち着け私。
そう思っていた矢先、アレクくんが私の肩を鷲掴みにした。それに、私はまたもや驚き飛び上がってしまう。
「アルル!! 今日はもう帰ろう!! さっきから様子がおかしいぞ!!」
そう言って、アレクくんが私の肩を痛い程の強さで掴む。その強さ思わず顔が歪むのがわかる。
それを察したのかアレクくんが私の肩を放す。
「あ! す、すまない!」
「だ、大丈夫ですよ。少しおどろいただけですから」
そう言って、アレクくんに笑ってみせる。アレクくんは何か言いたそうだったが。それを堪え、私のことを見て頷いた。
「わかった。だが何か具合が悪くなったら直ぐに言うんだぞ。わかったな?」
私はアレクくんの言葉に頷いてみせる。その様子を見たアレクくんも一度だけ頷いてみせた。
よし、大丈夫だ。冷静になれ。
冷静にならないと、出来ることも出来ないぞ。
「では、隊列を揃えて奥へと進みましょう。途中にあるドアも開けてひと部屋ずつ調べていきましょう」
私がそう言うと、皆は隊列を揃えた。
そして、私達は通路の奥へと進んでいった。
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どうやら、ここは病院か何かの跡の様に思える。何故なら、看護婦やベッド等はないが、この施設のレイアウトが病院に限りなく似ているんだ。
しかし、それなら疑問が一つ浮上する。いや、一つどころではない。だが、取り敢えず一つ目の疑問だ。
何故、今でもここまで綺麗に残っているんだ?
私が通路に入ると同時に感応式の照明がついた所からもわかるが、この場所は未だに稼働している。それに……
私は不意に床を見る。その床には埃が見当たらない。まるで今さっきまで掃除していたのでないかと思えるほどに綺麗なんだ。
もしかして、誰かいるのか?
いや、そんなはずは……
「た、隊長殿ッ!!」
考え事をしている私に向かって騎士さんが叫び声を上げた。
見ると皆が戦闘体制になっている。
私も瞬時に剣を握り、皆が見ている相手に視線を送る。
すると……
皆の視線の先には一体の機械兵士がいた。
バイクのヘルメットの様な黒い頭部に、ライダーが着けていそうなサポーターを彷彿とさせる黒いボディ。
そして、その機械兵士がなにやら言葉を発していた。
「%㏍@"-/№●%㎜=≦∂&§◆♪♭♯%&@*」
と……
その言葉が放たれると同時に一同が警戒心を露にし、私達の間に緊張感が走る。騎士さんが剣を構え、カーターさんが鞭を慣らし、私の後ろにいるアレクくんが呪文を唱え始めた。
その瞬間、私は皆に向かって叫び声のような声を上げた。
「皆、待ってください!! 攻撃しないで下さい!!」
私のその言葉に一同が驚愕する。
無理もない、私のやってる事、言っている言とはさっきから怪し過ぎる。だけど、もう駄目だ。ここまで来たら私はもう止まることはできない。
この世界の彼等からしたらこの機械兵士が訳もわからぬ機械音を発した様に見えるのかもしれない。しかし、私には全く違う様に見えてしまうんだ。いや、聞こえてしまうんだ。
「%㏍@"-/№●%㎜=*≦∂∑&§◆♪♭♯%&@*」
機械兵士がもう一度同じ言葉を発している。そう、私にはその言葉が「ようこそお越しくださいました。日本語はわかりますか? 喋れますか?」と言っているように聞こえるんだ。
いや、そう言っているとわかるんだ。
だから、私はその機械兵士に答えてみせた。
「はい、大丈夫です。日本語喋れますよ」
と……
私の発した聞いたこともない言語を聞いて、一同が目を丸くした。