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「それにしても驚きました、隊長殿が魔術師だったとは。剣をぶら下げているから、てっきり剣士かと思いましたよ」
そう言ったのは甲冑を身に纏った騎士さんだった。
彼の声は被っている兜の為か非常に籠って聞こえる。そのせいか中の人物が男性なのか女性なのかすらいまいち判断がつかない。まあ、女性ではないだろうが、年頃と言うの物がいまいちわからない。
非常に整った物言いからして経験豊富な大人の男性か。あるいは非常に育ちのいい青年と言った所だろうか。
「ええ、私はいちおう魔術師ですよ。まあ、強いて言うなら、この剣が私に取っての杖と言った感じですね」
私は騎士さんの言葉に答えてみせる。
相変わらず騎士さんは森の中を軽やかに歩く。私達の事を気にかけてくれているのか先程よりかは歩行速度は大分緩やかになっているが、その鍛練の程はうかがえる。
私の答えを聞いた騎士さんが、こちらを振り返りながら私を見る。正しくは私の剣を見たと言った方がいいだろうか。
「ほお、その剣が杖ですか」
少し気になるのだろう。まあ、本職である彼等からしてみれば私の言っていることは「何を言ってるんだ、コイツ」と言う感じなのだろう。
私と騎士さんの会話を聞いていたカーターさんが不意に口を開いた。
「杖と言えば、パトリシア殿とアレックス殿は杖を持っていませんが大丈夫なんですか?」
そう言ってカーターさんが少し後ろにいる二人に視線を移す。確かに二人は杖を持っていない。だけど、それにはちゃんとした理由がある。
「杖と言っても相性があるんですよ。その相性が悪ければ魔術が上手く発動しなかったり。最悪、暴発したりするんですよ。杖なら、なんでもかんでも持ってればいいって話じゃないんです」
杖とは穿った言い方をすれば“魔力、魔術、術式のいづれかが宿った杖”だ。自分の魔力や魔術と相性が悪いと潰しあってしまうことだってある。
そのせいで中々これだと言った杖に出会えない魔術師だって少なくはない。それにある程度の魔術師になれば、大体は自分で創ることになる。
自分の魔術にあった、自分の杖を……
ただ、創るのがこれまた高等技術でそうそう出来る魔術師はいない。杖を創るのが専門の魔術師もいるが、死ぬほど金を取られるので私には手の届かない代物だ。
パティさんとアレクくんは魔術師の家系だから、家宝の杖が一つぐらいは本家にあると思うが、恐らく当主しか触れることを許されていないとかそんな所だろう。
「だから、杖って言うのは実はそうそう簡単に御目にかかれる物ではないんですよ。ただのこけおどしの為の杖とかはありますけどね」
そう言った感じの説明二人にして、最後に一言付け加える。
カーターさんと騎士さんが興味深そうにこちらの話を聞いている。そして、騎士さんが不意に疑問の言葉を放った。
「それでは隊長殿に取っての杖が、その剣だと言うことはその剣は魔剣や聖剣の類いと言うことですか?」
その言葉に私は思わず目を丸くする。
驚いた、この騎士さんはかなり頭の回転が速い。今の説明だけで杖が杖である必要はない事は勿論だが。私の剣が杖と言うより、魔剣をに近い性質であることを見抜いてみせた。
「まあ、私が術式を発動してる間だけですが。条件付きで、ちょっとした魔剣になると言った感じですかね。細かいことは秘密ですけど」
まあ、ここまでは話しても問題ないかな。
しかし、その言葉に今度は騎士さんが想像異常に驚いてみせた。
「なんと! それでは私の剣も魔剣なる物にすることは出来ますかな?」
その目を見ることは出来ないが、恐らくその目を輝かせてこちらを見ている。ああ、やっぱり。騎士さんにとって魔剣とかの類いはそう言う憧れの対象なのか。
「す、すいません。私はそう言うことは出来ません。たまたま、私の術式がそう言う物で剣との相性がいいってだけなんで。魔剣自体を創ることは出来ません」
私は申し訳ないと思いながらも首を振るう。実際、私はそう言ったことは出来ない。そんな私の様子を見て騎士さんはあからさまに落ち込んでみせた。そして、一言「左様ですか」とだけ言った。なんだか、期待させて大変申し訳ない気持ちになる。
「うう、ごめんなさい」
そう言うと、騎士さんは直ぐに体制を建て直してみせた。
ここからこの人は凄かった。
「なにを言いますか、隊長殿! 貴女がこの先、聖剣を創ることが出来る可能性がある魔術師であることは十分にわかりました! ここで貴女に恩を売れば。貴女が将来、優秀な魔術師になり私に聖剣を創ってくれるかもしれません。そうと思えばこの剣を振るう腕にも力が入ると言うものです!!」
そう言って、鎧に包まれた拳で空中をガシリと掴んでみせた。
いや、そんなこと言われてもな。困っちゃうんだけど。て言うか、本人を目の前にしてソレを言いますかね? なんと言うか、馬鹿正直と言いますか、真っ直ぐと言いますか……
思わず、苦笑いをしてしまう。
そんな私の様子を見ていた、カーターさんも苦笑いしている。
「騎士さんて、皆あんな感じなんですか?」
そう聞くとカーターさんが「さあ」と言った感じで肩を竦めてみせた。そんな、私達の事など他所にと言った感じで騎士さんは握り拳を天高く付きだし声を発していた。
「では、行きますよ。皆さん!! 遺跡はもうすぐです!!」
そう言って騎士さんがぐいぐいと森の中へと進んでいった。




