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その後は何事もなく無事にユーゲントに着くことが出来た。
その頃にはカーターさんが言ってた通り、ちょうど日が沈んで空には大きな月が姿を見せていた。
どうやら、私は乗り物にはめっぽう強いらしい。全くもって酔わなかった。むしろ少し楽しかったくらいだった、て言うかそれも幸を奏したのかもしれない。
ハンモックで横たわる彼女の手を握りながら馬車に揺られ。時折、幌の隙間から見える景色を私は眺めていた。
馬車道だけが真っ直ぐと伸びる広い平原、その広い平原に撫でる様に吹く風が時折馬車の中に流れ込み私の頬を優しく撫でた。
その後には鬱蒼と茂る森林の中を進み、そこに住む鳥達の鳴き声が耳に届いた。
その森を抜けると広い広野が現れ、変な形のサボテンやキノコの様な形をした岩が無数に伸びていた。
やがて、荒野は斑に緑がはえはじめ、やがては平原へと姿を変えた。その頃には、その地平線の先にユーゲントと思われる国の城壁が目に入り始めた。
恐らく、石を削り出した石材を積み重ねて出来た巨大な城壁。そして、その城壁の向こうからは同じくその石材で作られた立派な城が見える。
ホワイト・ロックの様な優雅な白ではなく、城全体が石材その物の色をしており。ホワイト・ロックの様な芸術性よりも、実用性に富んだ形態をしているように見える。
そして、その遥か後方には大きな山脈がそびえ立っている。恐らく、あの山脈から石を削り出しているんだろう。あれだけの山脈があれば石材にも困らないだろう。
一言で言うならば、とても立派な城塞都市。そんなところだ。
「そう言えば言っていませんでしたね。私はここの出身なんですよ」
そう言ったのはカーターさんだった。
彼はそう口にすると馬宿に馬車を止め馬車を降りた。それと共に私達も馬車を降りる。
私達が馬車から降りるのを確認すると、彼は馬の元へと向かい今までの距離を歩いてくれた馬を労う様に優しく撫でている。馬もそれに答えるようにそのおでこをカーターさんに擦り付けている。
二人の信頼関係の深さがうかがえる。
「カーターさんはここの出身なんですか? では、ここは一体どんな所なんですか?」
カーターさんは馬の首をポンポンと叩くと、私の方を向いて話始め出した。
「言うなれば厳正なる騎士国家ですかね。騎士達が国政を担い、平和を維持し、民を守りと言った感じです。端的に言ってしまえば騎士を特権階級とした軍事国家ですね」
端的に言ってそれは大丈夫なのか?
軍事国家と聞くと響きがとびっきり悪いぞ。
一応、私の怪訝な表情を察してか、カーターさんが情報を補足する。
「心配しないで下さい。この国の騎士達は基本人格者です。政治統制も厳正に行っています」
それはそれで凄いな。基本権力が一ヶ所に集中すると人間は基本暴走するか、腐敗するのが基本なんだけどな。それで上手く言ってると言うことは、この国の騎士達はよっぽどの人格者達なんだろうな。
それにしても、この国出身のカーターさんがいて助かった。道理で馬宿のある所にも真っ直ぐ向かって行くし、何度か行ったことがあるのかと思ったが、ここの出身だったのか。
「ありがとうございます、カーターさん。これからも何かあったら教えてください。カーターさんがいて助かりました」
私がそう言うと、カーターさんは「いいですよ」と笑いながら馬の首を撫でた。そして、カーターさんが思い出した様に私達の方に向かって口を開いた。
「あと、この宿に二部屋分の部屋を借りているので隊長とパトリシアさん。私とアレックスさんで今夜は休みましょう。明日、ユーゲントの騎士が向かえに来て、遺跡まで案内してくれるてはずになってますので気兼ねなくお休みになってください」
ああ、何から何にまで申し訳ない。
これって本当はわたしがやらなきゃいけない事なんじゃないのか? て言うか、カーターさんが隊長の方がいいのでは?
「す、すいません。何から何まで申し訳ありません」
カーターさんが私の様子を見て、笑いながら手を振ってみせる。
「いえいえ。こう言う所は私に任せてください。こういう細々したことの方が得意なんですよ」
ううむ、果たしてそれでいいのだろうか?
なんだか、隊長としては速くも減点な気がする。まあ、いいか。取り敢えず、今日はゆっくり休んで明日から頑張るか。何て言ったって、明日から挑む遺跡は誰一人のとして帰って来なかったとか、そんなことが平気で言われている遺跡だ、気を引き閉めて行かなければ。
それに皆の命も私の指揮に掛かってるんだ。せめて、私以外は生きて帰らせてなければいけない。果たして、私にそれが出来るだろうか……
いや、大丈夫。きっと私が命を掛ければそれぐらいは出来るはずだ。いや、せめてそれぐらいはやらなければいけないんだ。
やってやる。やってやるんだからね。
今に見てろよ、師団の上層部のアホ垂れどもめ。




