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「も、申し訳ありません、アルルさん!! あ!! ちがっ、ま、間違えました!! アルル隊長!!」


 ああ、もう、ぐちゃぐちゃだよ。


 そんなにテンパらなくてもいいのに可愛いなぁ、もう。


 その余りのテンパり様と物凄い勢いでの登場にアレクくんが目を丸くしている。当の私も思わずおでこを掻いてしまう。


「別に隊長でも、さんでも。どっちでも大丈夫ですよ。それにまだ自己紹介の途中でしたし、許容範囲ですから大丈夫ですよ」


 彼女をなだめるようにして私は答えてみせる。


「は、はい。本当ですか!!」


 本当ですよ。と頷いてみせる。

 よし、とにかくこれで全員集まったのか……


 私は椅子から立ち上がり御者側の方へと向かう。


 御者側の方も幌が暖簾の様に垂れており、私はそれを掻き分ける。カーターさんの革のベストを纏った背中が見える。私はそのベストを少し摘まんで引っ張ってみせた。


「ん、どうした?」


 直ぐにカーターさんが振り向き私を見下ろす。


「取り敢えず。皆さん集まったんで出発しちゃって下さい。それとアレクくんのことはごめんなさい。いつもはあんな感じの人じゃないんです」


 そう言うと、少し驚いた様な表情をしたが直ぐににこやかに笑って答えたくれた。


「ええ、いいってことですよ。まあ、初めての時は皆カリカリするもんですからね、仕方ないですよ」


 そう言って、彼は手に持った鞭で馬をピシャリと叩くのかと思いきや、彼は何やら舌打ちの様なものを二度程して見せた。すると、その音を合図にするように馬がゆっくりと歩き出し、馬車が動き始めた。


 ほわぁ、すごい。


「その舌打ちみたいなので馬が動くんですか?」


 そう言うと、彼がこちらを振り返り、にこやかな笑顔で頷いた。すごい、もっと鞭とかでピシャン!! ピシャン!! ってやるもんだと思った。彼程の腕になれば二度の舌打ちで馬を動かせるのか。


「違いますよ~」


 違うんかい!! 


「今のは舌鼓と言ってですね。脚の代わりのような物なんですよ」


 せ、全然わからない。


 彼はもう一度こちらを振り替えると私の顔がさぞ可笑しかったのか、一度声を出して笑って見せた。


「ええ、そうですね、わかりませんよね。今の舌打ちはがんばれ~ 的な意味合いですね。実は今、私は手綱で前へ進め~ って指示を出したんですが、それと同時に馬車は重いからがんばれよ~ て意味合いで舌打ちをしたんですよ」


 おお~ なるほど~

 よくわかんないけど、やっぱりすごい。


「凄いですね。よくそれで馬が反応しますね」


 素直に感心してみせる。だって、本当に凄いもん。


「そう言う風に調教しましたからね。まあ、ゆっくりしていて下さい。今からなら夜にはユーゲントに着くはずですから」


 ああ。なるほど調教したのもカーターさんなのか。よくわかんないけど、やっぱり凄いんだろうな。


「はい、ありがとうございます!」


 私がそう言うと、カーターさんがにこやかな笑顔で一度頷いて見せた。そして、私は馬車の中に戻ると先程馬車に飛び込んで来た少女に向かって声を掛けた。


「さ! それで貴女のお名前は?」


 再び彼女を見る。


 腰の辺りまで伸びた綺麗な長い髪。そして、その髪は薄い緑色の混じった様な金色をしており。そして、白の師団の配給品である白いベレー帽に白いローブを纏っている。


 その彼女の瞳は青色の宝石の様に綺麗に潤んでいる。そして、その青色の瞳で私を上目遣いで見ている。


 うん、可愛い。


「わ、私はパトリシア・トリスメンツ。と、トリスメンツ家の三女です」


 家名持ちか。いいとこのお嬢様ってところかな? でも、三女と言うと、立場的にはどうなんだろうか。どうでもいい奴扱いされてるのか、それとも無理しないでくれ扱いなのか。それとも余計なことはするなよ扱いなのだろうか? 

 正直、そう言う魔術師の家のことは私はよく知らないからどうにも判断しかねるな。となると、同じく家名持ちのアレクくんにその判断を仰ぐのが自然かな? 


 見ると、当のアレクくんは驚いたように目を丸くしていた。


「驚いた、トリスメンツ家の御令嬢がなんでこんな任務に?」


 なるほど、アレクくんの驚きようを見るとトリスメンツ家は大層な家柄なのだろう。そうなると、その家の一員である彼女も魔術師としての実力はかなり期待出来る。


「トリスメンツ家って、有名なんですか?」


 私は取り敢えずアレクくんに聞いてみる。すると、アレクくんは本当に呆れたと言う顔を作り、私を見詰めた。


「君は本当に授業で何も聞いてないんだな。トリスメンツ家は医療術式、回復術式、修復術式の大基礎を築いた魔術師の大家だ。その家の歴史だけでも百年単位で続いてる程の家だぞ」


 ううん、なるほど。それは凄まじい程の大家だな。つまり教科書に載る程の名門と言うことだろう。それに複数の術式を持ってる家と言うことは、その中のどれかを受け継いでる可能性があると言うことでもある。もしそうだったら、戦力としては心強い。


 だけど、なんで……


「なんで、そんな娘が私の隊に?」


 素直に疑問の言葉が口から出る。その言葉を聞いたパトリシアさんがしどろもどろと言った具合で口を開いた。


「し、志願しました。アルル隊長の姿に憧れて、隊長の隊に入れるならと思って志願しました。まさか、本当に入れるとは思ってもいませんでした!」


 一体、私の何に憧れたんだかわからないが。取り敢えずはそう言うことなんだろうから。そう言うことにしておくか。


「そうですか。それではパトリシアさん。これからよろしくお願いします」


 そう言って、私は彼女に手を差し伸べた。彼女は私の手をその両手で握り返してくれた。

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